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第三話 ネコ小路

ネコ好きの山本が迷い込んだ道は……

 山本は日頃の運動不足を補う為、雨の日以外は会社の最寄もより駅のひとつ前で降り、そこから歩くことにしている。なるべく排気ガスを吸いたくないので大通りはけ、裏の路地をうように歩いて行く。

 いつも通る道の途中に魚肉加工工場があるせいか、この辺りはやたらと野良ネコが多い。実は、それも山本がこの路地を歩く理由である。

 山本はネコ好きであり、しかも、飼いネコよりも、自由気ままな野良ネコを好む。エサを与えるわけでも、さわったりするわけでもなく、ただ、ながめている。いわば、キャットウォッチングである。もしかすると、それが、窮屈きゅうくつなサラリーマン生活のいやしになっているのかもしれない。

 かよい慣れた道なので、いつものように山本の目はネコの姿ばかりを追っていた。

 ふと、随分時間が経ったような気がして、時計を見て驚いた。とっくに始業時間を過ぎている。改めて周囲を見回すと、いつもと違う路地に入り込んでいた。

(はて、どうしたものか)

 とりあえず、携帯電話で会社に連絡を取ろうとしたが、なぜか圏外になっていた。

(しかたがない。今来た道を戻れば、見知った場所に着くだろう)

 山本は回れ右をし、そこから引き返した。

 しばらく歩くと、何故か袋小路に突き当たってしまった。少し戻って右に曲がってみたが、やはり、そこも袋小路である。

(キツネに化かされたという話は聞いたことがあるが、ネコにもそういうことがあるのだろうか。いやいや、そんな馬鹿な)

 山本は、別の道を進んでみたが、またも袋小路。パニックになりそうなのを必死にこらえ、あちらこちらと行ってみたが、すべて袋小路になっていた。

(おかしい。こんなはずはない。夢でも見ているのか。それとも、仕事のストレスでおかしくなってしまったのか)

「いやあ、すまんすまん」

 突然そう声をかけられ、山本はもう少しで悲鳴を上げるところだった。いつの間に近づいて来たのか、すぐそばに白衣を着た白髪の老人が立っていたのだ。

「あ、あなたは誰ですか。これはいったい、どういうことですか」

「本当にすまん。わしはこの先の研究所の所長をしている古井戸という者じゃが、バリアーの故障で、あんたに迷惑をかけたようじゃ」

「バリアー?」

「そうじゃ。もっとも、普通の物理的バリアーではなく、サイコバリアーじゃが」

「はあ」何の話か、さっぱりわからない。

「つまりじゃな、不審な人物がわしの研究所に近づこうとすると、ふと気が変わって引き返してしまうのじゃ。本人も、なぜ気が変わったのかわからん。あるいは、訪問販売員が研究所に行こうとすると、気が付かぬうちに元来た方向に戻ってしまう。このバリアーのミソは、人間のみに働き、しかも、まったく相手を傷付けない、ということじゃな」

「でも、わたしは逆に、ここから出られないんですよ」

 博士は軽く頭を下げた。

「すまん。故障したんじゃ。このバリアーは人間にしかかぬため、野良ネコが入り込んで、回線を引っいたようなのじゃ。たった今、修理が終わったから、もう大丈夫。後ろを見てみなさい」

 山本が振り向くと、見慣れた路地があった。

「まあ、早めに気付いて良かったわい。ネコがイタズラをせんよう、手なずけようとしておるんじゃが、これがまた、なかなか言うことをきかんので困っておる」

「はあ」何と返事していいのかわからない。

 何か思いついたらしく、博士はパッと顔をかがやかせた。

「おお、そうじゃ、あんた、ネコが好きそうじゃの。ネコの教育係にならんかね。給料は出せんが、わしの発明品を何か一つやろう」

「いえ、わたしは、今の仕事が、その、合っているので」

 こんな変な博士につかまったら、何をさせられるか、わかったものではない。

「そうか、残念じゃな。まあ、おびと言ってはなんじゃが、あんたにはバリアーが効かないようにしておくから、いつでも研究所に遊びに来ればいい。いろいろ、面白い実験もやっておるよ」

「あ、いや、それも結構です」

 山本は、逃げるようにその場を去って行った。

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