表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の中を踊る  作者: 東田 悼侃
9/20

接触9

 閉塞しきった部屋に、二人の男がいた。

 「ヘリも撃墜されたそうです」

 そう報告した片方の男は、もう片方の男の部下だった。

 「ウィリアム・グレイスにか!?」

 部下の報告に、男は笑い声を上げた。

 「なかなか面白いじゃないか、ウィリアム・グレイス」

 男はなおも笑い続けた。

 「古川に連絡を取り、宿泊先を探れ。夜中に襲撃させよう」

 「は!」

 「ああ、それと」

 部屋から引き下がろうとした部下を、男は引き留めた。

 「丸山 成辰を呼べ。彼には準備をしていてもらう必要がある」

 部下が部屋を出ていくと、男は自身の頬に付けられた傷を指でなぞった。傷は、右目の少し下あたりから右耳にかけて、直線的に、えぐるように付けられていた。

 「来るか。ウィリアム・グレイス」

 男は低く笑った。歪んだ笑みを見せる。

 「いくつもの組織を単独で潰してきたというが、果たしてその運はいつまで続くかな?」

 男の笑いは、除々に大きくなった。



    *

 「はじめまして。木下 悠葵ゆうきです。小林防衛大臣から命を受けて、貴方々の宿場の警護にあたらさせて頂きます」

 木下がウィリアムと平林を出迎えたのは、"御川屋”(おがわや)という宿の前だった。

 「既にチェックインは済ませてあります。鍵はこちらに」

 木下は、帳場にいる女性を手招いた。その女性が、ウィリアム達に鍵を渡す。

 「お二方の部屋周りの警護班の班長、岩原 嶺耶みねやです」

 その女性が名乗る。

 「お部屋までご案内します」

 岩原に促され、ウィリアムと平林は部屋に向かった。


 部屋に入ると、まずウィリアムは、クローゼットを開けた。その後、部屋の細部まで異状がないことを調べると、ウィリアムはベッドの上にトランクを置いた。続いて上着を脱ぎ、クローゼットにしまう。そのあとに、はじめてウィリアムはベッドでくつろいだ。

荷物から、一昔前の、カセットテープのウォークマンを取り出す。どこまで行っても、レトロが好きな男である。

曲を聞きながらウトウトしていたウィリアムを起こしたのは、部屋をノックする音だった。ウィリアムはベッドから立ち上がると、部屋の出口に向かった。廊下には、平林が立っていた。

「下にレストランがあるらしいんですけど、行きますか?」

平林に聞かれ、ウィリアムは部屋の時計を見た。時刻は既に8時を回っている。

「先に行っててくれ」

ウィリアムは平林の方に向き直って答えた。

「10分もしたら行く」

「分かりました。じゃあ、席取って待ってます」

そう言うと、平林は足早に駆けていった。

ウィリアムは、部屋の扉を閉めずに中に戻ると、トランクをクローゼットにしまおうとした。

その時、部屋の西、ウィリアムの右手にある窓が割れた。同時に銃声がする。カーテンで外は見えない。ウィリアムは、クローゼットの中に、トランクごと隠れた。

「どうしました!」

銃声を聞き付けて、ウィリアムの部屋周りを警護していた男が部屋に飛び込んできた。その男の額に穴が空き、男は廊下に倒れる。

カーテンの影から、戦闘服と思わしき物に身を包んだ人物が二人現れた。顔は隠されて見えないが、体格から察するに、二人は男であろう。

そのうちの一人が、もう一人にクローゼットを指差した。指示した男は、ベッド、浴室と順に調べる。もう一人の男は、銃を構えながらクローゼットをゆっくりと開けた。

銃声がして、浴室を調べていた男は部屋に戻った。部屋の床に、相棒が変わり果てた姿となって転がっていた。

男は警戒を強めた。ゆっくりと歩みを進める。

「そんなに俺を殺したがっているのは誰だ?」

背後から声がして、男はドキッとした。

「おっと、動くなよ。少しでも変な動きしてみろ。口から銃弾吐いて死にたくないだろ」

「どうやって裏を取った」

後頭部に金属の冷たさを感じながら、男は尋ねた。

「企業秘密だ」

ふん、と男は鼻を鳴らした。もちろん、英語での会話である。

「どうやら、日本は教養の良い国のようだな。多少はたどたどしいが、まさかお前のような奴までが英語を喋れるとはな」

ウィリアムが男の腕を掴むと、男は簡単に銃を手放した。抵抗する気は男にないようだった。

ウィリアムは男の銃を足ではらうと、自分の銃を男の頭から背中へと移動させた。

「とりあえずニコラスと合流しよう。歩け」

ウィリアムは男に銃を押し付けた。男は扉から廊下へ出た。廊下は、数人に包囲されていた。

「何があったの?」

ウィリアムを見つけ、岩原が声をかけてくる。

「おい、通訳しろ」

ウィリアムは男に言った。

「はあ?俺が通訳っスか?」

「口に気を付けな。いいから通訳だ」

仕方なく男が頷く。

「この男に襲われた。これからニコラスの所に向かう」

男は、そっくりそのままを岩原に伝えた。

「分かりました。こっちの処理は任せて下さい」

ウィリアムに頭を下げると、岩原は部屋の中へ入っていった。

「お前もご苦労だ。さあ、進め」

ウィリアムは男を促した。

ご意見・ご感想宜しくお願いします!なるべく返信します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ