接触8
そういえば、タイトルの「闇の中を踊る」なんですが、付けた後に、なんか聞いたことあるなあ、とよく考えたら[THE YELLOW MONKEY]の<Tactics>っていう曲に、この一節があることを思い出しました。
「あの二人の身元が判明しました。やはり創牙狼のメンバーだそうです」
無線で確認を終えると、山田は後部座席のウィリアムと平林に報告した。四人の乗る車は、今度はパトカーだった。前に二台、後ろに一台と並んで走行していた。
「ヤマダ、二つ質問がある」
平林を挟んで、ウィリアムは山田に尋ねた。
「何でしょう」
山田は後ろを振り向く。
「一つ目。何故、俺を雇ったのだ?日本には、マルヤマやクサマ、スナハラとか、優秀な人材はいるはずだ」
「それが、今貴方の口から出た人物を含め、日本にいるこの仕事を引き受けてくれる人間は居ません。彼等は皆、既に創牙狼に取り込まれています。だから、貴方が選ばれた」
「なるほど、理解した。では、二つ目の質問だ。日本の警察のセキュリティは安全なのか?」
「どういうことです?」
「襲撃が早すぎる。さっきも言ったように、俺がアメリカを出た時点で行き先は判明しているだろう。だが、目的までは分からないはずなんだ」
「大体の予想はついたんじゃないですか?」
と平林。
「いや、そういう組織なら、ここまで大きくなることはない。もし俺が別の目的で日本に来ていたとしたら、藪蛇になる」
「でも、危険な芽は早めに摘んでおきたかったのかもしれないですよ。多少のリスクを冒してでも、殺しておきたかったのかもしれません」
「だったら、もっと確実な手を選んでこないか?話を聞くに、尾行からあの二人は素人だ。もし、予想だけで動いているのなら、組織の存在を臭わせる事なく殺そうとするはずだ。今回は、明らかに様子見だった」
「でも、だったら何で二人の目的を知っていたんですか?」
山田が首を捻る。
「だから聞いたのだ。警察のセキュリティは安全なのか、と。恐らく、警察は内偵されている」
まさか、と山田は笑った。
「警察は公務員です。いくらなんでも公務員までは・・・」
そこで山田は口を噤んだ。
「・・・いや、可能性は十分ありますね」
先刻までとは、取って変わった深刻な口調で山田が言う。
「既に政界にまで手を伸ばしている連中の事です。警察ぐらい、簡単に入り込めるでしょう」
「じゃあ、そこから漏れたかもしれない、と」
武居が確認を取る。
「一度、署内を当たる必要があるな」
パトカーは、橋に差し掛かった。
「もうすぐ到着です」
と、武居。
次に、前方を走るパトカーが急ブレーキをかけた。武居もブレーキを踏み込む。
「今度は何だ!」
前のめりになった体を起こしながら叫ぶ山田の目に、無数の薄黄色い線が映った。続いて、扇風機のファンに堅い何かを当てたような音が響く。
「機銃!」
平林が叫んだ。薄黄色の線に見えたのは、撃ち出される弾の弾道だった。
はっとして、山田は弾道の元を追った。橋の脇に、戦闘ヘリが一機浮かんでいた。
「車を捨てろ!走るぞ!」
また、ウィリアムが指示を出す。四人は、車から降りると逆車線へ走った。
その四人の背後で爆音が轟いた。弾がガソリンを撃ち抜き、引火したのだろう。
路上はパニックになった。人の波をかき分け、車を避けながら、四人は反対の車線を走る。
人混みの中、はたとウィリアムは走るのを止めた。
「グレイスさん!?」
平林がそれに気づく。
「橋のたもとで待ってろ。アイツを片付ける」
ウィリアムはヘリを睨んだ。
「何を言ってるんです!そんなの無理だ!」
「予想以上に敵の動きが早い。どうやら、本気で俺を潰しにきているようだ。一度、ここでしらしめておく必要がある」
「どうやって!!勝てるわけないでしょ!!」
叫ぶ平林に背を向け、ウィリアムはヘリ の方へ走り出した。
「どうする?」
武居が山田に尋ねる。
「彼の言った通りにしよう」
「えらく冷静だね」
「軍用ヘリまで持ち出してくるとは思わなかった。お陰で頭が麻痺しちまったよ」
機銃を乱射するヘリから少し離れた車の中に、ウィリアムは居た。
<やれるのは一度>
ウィリアムは、サイドブレーキをかけたまま、アクセルを踏んだ。
ギャリギャリギャリ、とタイヤの空回りする音が、銃声に混じって微かに聞こえる。
ウィリアムは、ジリジリとチャンスを待った。
やがて、ヘリの機銃が民衆の方へ向けられる。ウィリアムとは丁度反対だ。悲鳴が聞こえる。
「今!」
ウィリアムは、やっとサイドブレーキをおろした。車が前方に急発進する。ウィリアムは、すぐさまハンドルを左に切った。
右側のタイヤが浮く。浮いたタイヤは、前方に停められた車の車体に乗った。ウィリアムは、スピードを緩めない。ウィリアムの乗った車が持ち上がる。車は、橋の外へ猛スピードで飛んだ。一直線にヘリへ向かう。
ウィリアムは、運転席のドアを開け、外へ跳んだ。下は、東京湾へと続く川である。背後で爆発が起きた。
ウィリアムは、着水すると、さらに深くへ潜った。その脇を、鉄の破片が沈んでいく。
岸まで泳ぎきったウィリアムは、初めてヘリを確認した。水面に、まだ回るプロペラが見える。
「グレイスさん!」
対岸で、平林が叫んだ。
「ニコラス!早く迎えに来てくれ!風邪引きそうだ。」
ウィリアムも叫び返す。
寒中水泳は嫌いだな。ウィリアムはそう思った。
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