表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の中を踊る  作者: 東田 悼侃
6/20

接触6

ご意見・ご感想おねがいします!なるべく返信します。

 「よお、お姉ちゃん」

   ニューヨーク市街 

 通行人の女性に声をかける男がいた。

 「俺、ニコラスっていうんだけど。どう?お茶しない?」

 「え。  あ、でも、これから予定がー」

 「急いでるの?」

 「い、いえ。でも・・・」

 「大丈夫、大丈夫。十分ばかし付き合ってくれるだけでいいから。そこのカフェでさ。ね?」

 ニコラスは、通りの向かいにあるおしゃれなカフェを指さした。

 「でも、」

 「本当に大丈夫さあ。こんなに人がいるんだ。何もしないよ」 

 確かに、通りは人や車で溢れ返っている。

 「分かったわ。十分だけよ」

 その事に、安心してか、女性はニコラスの誘いを受けた。ニコラスは、密かにガッツポーズをした。そこへー

 「ニコラスッ!」

 誰かがニコラスを呼んだ。ニコラスの背中は、その声にビクッと反応した。

 「グレイスさん」

 ニコラスの脇に、黒光りした車体が止められる。中から顔を覗かせたのは、ウィリアムだった。

 「仕事が入った。お前も来い」

 「仕事って、俺はこれからこの子と・・・」

 ニコラス改め平林・ニコラス・抄太は、先刻まで女性の居た方を振り返った。

 「って、あれ!?」

 「さっきの女なら、もう帰ったぞ」

 いつの間にか、女性は消えていた。ニコラスは、ガックリと肩を落とした。

 「気は済んだか?さっさと行くぞ。」

 「はいはい。分かりやしたよ」

 ウィリアムに促され、ニコラスは車へ乗り込む。ニコラスがドアを閉めるのを確認すると、ウィリアムは車を走らせた。とはいっても、昼間の渋滞にはすぐ捕まった。

 「なんで、俺の居場所が分かったんですか?」

 「偶然、見かけただけだ。本当は、お前の家に向かっていたんだがな」

 「見かけたって、この人混みの中から?」

 ニューヨークは世界有数の貿易都市である。今日のような平日であっても、街は買い物や観光の人で賑わっていた。もし、何の連絡手段もなく迷子になったら、二度と再会できないだろうと、そう思わせる程である。

 「平日の真っ昼間からナンパしてる奴なんか、お前以外にいてたまるか」

 「でもなぁ、あのタイミングはないですよ。あーあ。可愛かったのになあ、あの子」

 ニコラスに無視して、ウィリアムは運転を続ける。

 「仕事は何ですか?」

 「日本のヤクザのトップを暗殺しろとさ」

 「日本の?なるほど。だから俺なんすね。じゃあ、今から日本へ?」

 「いや、一回俺とお前の家へ寄る。何も準備してないだろ?」

 「拳銃もですか?飛行機には持ち込めませんけど」

 「向こうが一機チャーターしてくれるそうだ。携帯してなきゃ大丈夫だとよ」

 「それはまたー。相当なお金持ちなんでしょうか」

 「金持ちなんかじゃない。国の依頼だ」

 「国!?また面倒なのを持ち込んできましたね」

 ニコラスはため息を吐いた。


 「ウィリアム・グレイスさんと、平林さんですね」

 空港の搭乗口でウィリアムと平林は声をかけられた。パイロットの制服に身を包んだ好青年だ。

 「機長の松尾と申します。どうぞ、こちらへ」

 ウィリアムと平林は、案内に付いていった。

 

 「騙して済まなかった」

 まだ若い頃のウィリアムにそう言ったのは、ウィリアムの親友だった。

 「何を思われようと、何を言われようと構わない。騙していたのは事実だ」

 東洋人のその親友は、首をうなだれた。

 ウィリアムと親友とが出会ったのは、二人がずっと幼い時だ。二人で、楽しい事も、苦しい事も幾度となく乗り越えてきた。それだけに、親友の口から告げられたその事実は衝撃だった。

 「でも、」

 親友が口を開く。

 「お前を騙してきたのは、お前を守るためなんだ。それだけは解ってくれ」

 真っ直ぐにウィリアムを見つめながら、親友はそう言った。

 雪が降り出した。

 「俺はこの仕事に、親の因縁で巻き込まれた。四年程前の時だ。一度は、お前から距離を置くことも考えた。でも、それじゃ駄目なんだ。一旦俺と関係を持った人間は、命を狙われるかもしれない。そうゆう理不尽な仕事なんだ。俺がやっているのは。だから、あえてお前から距離を置かなかった。お前を巻き込みたくなかったんだ」

 ウィリアムは、親友から顔を反らした。

 「俺は・・・」

 ウィリアムが口を開く。

 「俺は、自分の身ぐらいは、自分で守れるようになりたい」

 親友が驚愕したのが、顔を見なくても分かった。

 「どうせ帰る場所なんてないんだ。まともな人生なんて、両親に捨てられたって知った時から諦めてる。俺の命は誰のものでもない。守ってくれるはずの両親もいないんだ。せめて、自分の納得のいくようにこの命を使いたい」

 「死ぬかもしれないんだ。絶対に止せ」

 親友は拒んだ。

 「それは、お前だって同じじゃないか」

 二人はしばらく無言になった。

 「それで納得がいくのか?グレイス」

 「俺が生を実感できるのは、お前と居るときだけだ。死ぬ時だって、お前と一緒なら怖くない。お前のためなら、納得できる」

 再び沈黙が二人を包む。しばらくして、親友が答えた。

 「分かったよ。異論はない」

 親友が頷く。

 「お前の事は、お前自身の次に俺が知っている。俺がいくら説得したって、お前は考えを曲げないだろう。けどー」

 「けど?」

 「これだけは約束してくれ。俺のために死ぬなんて、絶対に止めてくれ。俺のために、生きてくれ」

 親友は、ウィリアムの肩に手を置いた。

 「頼む」

 ウィリアムは、親友の目を見つめた。必死だ。答えは決まっている。いや、決まっているというよりー

 「そんな風に言われると・・・困るじゃないか。断れない」

 ウィリアムがそう言うと、親友の相好が崩れた。

 「さて、暗い話はもう終わり。何か飯でも食いに行こうぜ」

 今度は、ウィリアムが親友の肩に手を置く。

 激しさを増す雪の中、もうすぐ二十歳になる二人は、肩を組み合って歩いた。


 「グレイスさん?」

 平林に揺すり起こされ、ウィリアムは目を覚ました。

 「着きましたよ。日本」

 ウィリアムは、窓の外を眺めた。

 「雪、結構激しいですね」

 平林が言う。外は、雪が降っていた。

 「雪、か」

 ウィリアムは、遠くを見つめた。

次話からアクション入ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ