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闇の中を踊る  作者: 東田 悼侃
2/20

接触2

 創牙狼が裏社会に頭角を表し始めたのは十年前まで遡る。それ以来、山田は創牙狼の実態を追い続けてきた。創牙狼の活動は活発になっていくのに対し、掴める情報はごくわずかであった。

 それがここにきて、である。どこからともなく、創牙狼の実態に迫る情報が漏れた。

 当然、山田はその情報に飛びついた。ここ数カ月間、対策課の解散も上司にちらつかせられていた点も相乗し、今回の山田の執着心は異様だった。そして、その執着心が実を結んだ。

 これまで一切が謎に包まれていたその実態が、除々に姿を現し始めた。

 「にしても、途方もない話だなぁ、おい」

 山田の目の前に座る男が姿勢を崩す。長谷川 岳永たけなが警視総監。警視庁のトップに鎮座する男だ。

 「その組織は、我々警察の手に負えるものなのかね?」

 その長谷川が、山田に尋ねる。

 「そう弱気になられましても・・・現時点では分からないとしか。我々の捜査をしてなお、その全貌は掴めていませんから」

 「ほう、その口調では、君には自信があるようにおもえるが」

 長谷川が眼鏡を掛け直す。その問いに、山田は微笑した。

 「まあ、皆様がお気に召すかは分かりませんが」


  四時間に及ぶ会議が終わり、それぞれが部屋を出ていく。その誰の顔にも、憔悴と苦渋の色が見られた。それもそのはずだ。山田の口から出たその解決策は、警察にとって余りに危険な橋だった。

 「山田君、この後私の部屋に来てくれ」

 長谷川も例外なく、難しそうな顔で山田に声をかけると、去っていった。山田も、会議に使用した書類をまとめると、部屋を出た。そのまままっすぐ長谷川の部屋へと向かう。他の部屋の扉より大きめな、硬質な感じのする扉を叩く。

 「どうぞ」

 と、中から女性の声がし、山田は扉を開ける。部屋には長谷川と、女性が一人。藤川警視正、警視庁で長谷川の次、つまり二番目に位置する女性だ。

 「山田君、座ってくれ」

 長谷川は、来客用のソファに山田を勧めた。 

 「失礼します」

 遠慮がちに山田がソファに座る。山田と向かい合う形で、長谷川と藤川も腰を下ろした。

 「さて、早速だが本題に入ろう。山田君、君の発案についてだが、問題点がいくつかある」

 案の定、その話だ。山田は緊張した。

 「その前にまず、君の警察としての覚悟が知りたい。君は、己の正義を貫くためだったら、喜んで死ねるかい?」 「それはー」

 山田は戸惑った。 ここからは、一言一言が勝負になる。山田は考えた。この質問に、長谷川が求めている答えとは・・・

 「いや、難しく考えなくていい。君の素直な気持ちを聞いているんだ」

 山田の考えを察してか、長谷川は苦笑しながら、そう付け加えた。

 「素直な、ですか。それなら答えはハイです」

 長谷川は、山田の答えに頷くと、

 「なら、次の話に移ろう。君は、日本警察の信頼は潰れてもいいと考えているのかね?」

 長谷川の口調が厳しくなる。

 「いいえ」

 だが、山田は即答した。

 「これは、警察うんぬんの問題ではないのです。下手をすれば、日本はこのまま奴等に支配されてしまうかもしれないのです。笑い話ではありません。現に、創牙狼の勢力は日に日に拡大しています。その速度は計り知れません。奴等を潰すためには、日本国民を総じて、一刻も早く動かなくてはならないのです!」

 山田は一息に言い切った。

 「警察にしては野蛮なー」

 「解っています」

 山田は、長谷川の言葉を遮った。

 「しかし、だからといって、このまま何の行動も起こさないのは、逆にどうなのでしょう。我々の義務は、日本国内の治安を維持することではないのですか?なのに、それが壊されようとしているのを、黙って見過ごせとでも言うのですか?」

 山田が長谷川に迫る。

 「君の言い分は分かった。だが・・・」

 長谷川は静かに顔を上げた。

 「我々の社会は、常に信頼で成り立っている。どんな職業も。もちろん我々も。大きな功績を残せば、それだけで次に期待される。逆に失態を犯せば、その仕事に疑念を持たれる。それが続けば、我々の存在は危うくなる。やはり、厳しいのだよ・・・君の、暗殺者を雇うというのは。」

 「ですが、しかしー」

 「だがね」

 今度は、長谷川が山田の言葉を遮った。

 「私は、君の言うことは解る。私だってそうしたいところだ。」

 「でしたら」

 「いいかい。物事には、出来る事と出来ない事がある。出来ない事というのは、どれだけの努力をしても出来ない。過程が大切だと言う人もいるけれど、社会では、結果を出さなければ、出来なければ、認められないし、意味がないんだ」

 長谷川の言葉に、山田は俯いた。

 「だが、この件については、可能性ならある」

 山田は、俯いたばかりの顔を上げた。長谷川と目線がぶつかる。長谷川の目は笑っていた。

 「藤川君」

 長谷川は隣に座っている藤川に声をかけた。

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