決着
「グレイスさん......俺は」
平林が口を開く。
「今までに......何人殺してきたんですかね......」
平林は、懐から拳銃を取り出した。
「こんなに小さい鉄の塊が........彼等と.....その家族の人生を狂わせる.....俺は........何をしてるんだろう....」
その言葉に、ウィリアムがピクリと反応した。
「“人生”っていう概念って、何なんでしょう......俺等のように...同種の人間がそれを奪えるんだったら....人生に価値はないことになる.....それだったら.....俺達は何のために生きているんだ?」
ウィリアムは、再び平林から受け取った指輪を眺めた。
「ニコラス。十年前、お前と全く同じことを言った奴がいた。今のお前のように、死にそうになりながら命の価値を考えてたよ。平林 浩二.........お前の父親だ」
ウィリアムは、一度指輪を平林に返した。平林は、その指輪をじっと見詰めた。
「人生の価値.....十年前のあの日から、俺はずっとそれを考え続けてきた」
「親父が.....俺と....」
「なぁ、ニコラス。容易く価値を見いだせないものこそ、本当に価値あるものなんじゃあないのか?」
ウィリアムは、平林を見詰めた。
「逆に言えば、価値のないものなんて、無いはずなんだ。お前の人生だって......父親の人生だって.....」
平林は、ウィリアムの言葉に頷くだけだった。
「人生の価値ってのは、とてつもなく大きい。誰もその価値を見いだせた事が無いんだ。ー何千年と。....だから人は、生涯をかけてそれを探すんじゃないのか?人生の価値を探しているから、人間なんじゃないのか?」
ニコラスは、指輪を見詰めたまま動かなかった。
「俺等は人生の価値を探すために生きている。だから安心しろ、ニコラス。お前も、お前の父親も、その人生の価値こそ測ることこそできなかったが、その人生に価値はある。生きていたという、その事実こそ価値だ」
ウィリアムは言いきった。
「グレイスさん......一つだけいいですか?........俺の親父は.....どうやって死んだんですか?」
ウィリアムは、一瞬口をつぐんだ。平林 浩二の死、それは。
「あいつも、お前と同じように....背後から不意討ちをかけられて死んだよ」
平林は沈黙した。自分と同じように.....頭の中で、それが反芻された。
「親戚が言っていた.......親父は一度も俺を抱いたことがなかった........と....多分、親父は恐れたんだ.....俺に自分と同じ血が付くのを..........俺にはせめて.....マシな人生を送って欲しかったんだ.............けど、血の繋りまでは....消せない......俺は結局...親父と同じ運命を辿ったんだ.....」
その時、平林は大量に吐血した。ウィリアムは、黙って見詰めていた。
「よく.........喋ったなあ......普通なら....死んでる.......のに.....グレイスさん......これを........」
再び、指輪がウィリアムに手渡された。
「.....やっと....親父に..........会える..........叱られっかな....お袋を.....一人に.....するなっ............てー」
ウィリアムは、落ちていく平林の手を支えると、平林の瞼を手で閉じた。膝の上に置いた手の上に、涙がこぼれた。
ウィリアムは、躊躇いなく、憎悪を持って引き金を引いた。弾は、矢霧 神志の足に着弾した。矢霧がその場に崩れる。
「まず足を奪った。...次がとどめだ」
ウィリアムが、矢霧の額に銃口を押し当てる。
「仕事に私情を持ち込むことはタブーだが、矢霧 神志。貴様だけは私怨で殺す!」
ウィリアムこ引き金に指をかける。
「いいのか?」
矢霧が呟いた。
「無抵抗の人間を殺すのに、罪悪感はないのか?」
「同情を買おうっていうなら無駄だ。貴様だって無抵抗な人間を殺している」
「いいや、同情を買おうとしているんじゃない.....少しの油断が欲しかっただけだ」
何かに気付いたウィリアムが、その場を飛び退いた。ウィリアムのいた地面に、無数の穴が空けられる。マシンガンだ。
「いくらかのウィリアム・グレイスといえど、この二十丁のマシンガンからは逃れられまい。骨まで砕けて死ね!」
いつの間にか、ウィリアムの周囲にマシンガンを構えた二十人の男が立っていた。ウィリアムは舌打ちした。咄嗟に懐に手を入れる。それと同時に、二十人は一斉にマシンガンを射ち出した。矢霧は、勝ちを確信した。だが....
マシンガンの弾が射ち出されるや否や、ウィリアムのいた場所で小爆発がおこった。マシンガンを掃射していた男の数人が吹き飛ぶ。続いて、視界に煙が充満した。煙を吸った男たちは、咳をしながら涙を流した。催涙ガスだ。その間にも、各地で小爆発がおこる。
やがて煙が晴れた屋上に立っていたのは、ウィリアムと矢霧の二人だけだった。
「な.........」
無傷で立つウィリアムに、矢霧は唖然とした。
「俺を殺したければ...」
ウィリアムは、今度こそ矢霧に拳銃を向けた。
「核爆弾でも持って来い」
ウィリアムが言い放つ。矢霧は、ひきつった笑顔を浮かべるのが精一杯だった。
「さ、流石だウィリアム・グレイス。俺の完敗だ...」
矢霧は、拳銃を放ると地面に手をついた。
「だ、だからどうだ?俺と組まないか?お前と俺が組めば、いずれ世界を動かせる」
矢霧は、露骨にウィリアムを説得しようとした。だが、ウィリアムが聞く耳を持つはずなどない。
「興味ないな。貴様が世界を変えたところで、ろくなものにならないのは目に見えている」
「か、金と地位なら望むだけで手に入るぞ。そ、そうだ。何でも手に入る。女だってだぞ」
「俺やお前が今までに殺してきた人間も、全員帰ってくるのか?世界を治めるだけで死人が帰ってくるというのなら、俺はいくらでも手を貸しただろう.......だが」
ウィリアムは、平林から受け取った指輪を眺めた。
「死人が帰ってくることはない」
ウィリアムは引き金を持つ指に力を込めた。
「死人は帰らない、ねえ......何を言ってやがる。“夢”でも見てんのか?いきなり偽善的な話しやがってよお。正義面してんじゃねえぞ!」
矢霧が声を荒げる。
「“正義”....少なくとも、俺や貴様のことではないだろうな.....そう思わないか?」
「思わないね。正義、悪は、勝った奴が、生き残った奴が決めるんだ。死んだら正義にはなれねえんだよ!生き残りゃいいんだよ!」
ほざく矢霧に、ウィリアムは引き金を二回引いた。
「貴様が正義を語るな。反吐が出る。ニコラスの生き方は、悪じゃあねえ。俺が生きてる限りは、あいつらは“正義”だ」
戦いの決着だった。
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