決戦へ 2
創牙狼本部のビルの入り口に、一人の男が待ち構えていた。男を警戒していたウィリアムと平林だったが、男は二人が視界に入るなり会釈をしてきた。
「ウィリアム・グレイスさんと平林・ニコラス・抄太さんですね?矢霧 神志様が最上階にてお待ちです。私がご案内させて頂きます」
嫌味な程に丁寧な口調だ。ウィリアムと平林は、警戒を解かなかった。懐に腕を入れ、いつでも拳銃を抜ける状態にある。
「拳銃は持ち歩いて頂いて結構です。ご安心下さい。部屋に着くまでは、一切手を出すなと厳命されておりますので」
二人は顔を見合わせた。気になることばかりあるが、行くしかないことは二人とも理解していた。
「お決まりのようですね。でしたら急ぎましょう。あのお方を待たせてはいけない」
男は、正面からビルに入っていった。ウィリアムと平林は男の後を追った。
「おそらく、どこかのタイミングで仕掛けてくる」
ビル内の階段を上にのぼりながら、ウィリアムは平林に言った。平林が頷く。
「油断するなよ。その一瞬が命取りだ」
二人は、神経を研ぎ澄ませながら一段、一段と階段を踏みしめた。
「いつまでのぼれば気が済むんだ?」
階段の踊り場の数字が二十を越えた辺りで、平林が音をあげた。ここまで休憩はない。鍛えた体であっても疲れる。前を先導する男も、肩で息をしている。唯一、ウィリアムだけが平然としていた。
「もう....少しです」
息も絶え絶えに男が答える。踊り場の数字は二十九階を示していた。
男のもう少し、は、嘘ではなかった。男は、三十一階まで来ると、階段から外れて廊下へ出た。廊下を奥へ進む。その足が、一番奥の一室の前で止まった。
男が部屋の扉を開ける。ウィリアムと平林は身構えた。
「......」
部屋の中央に、男が一人立っていた。
「ひさしぶり、と言うべきか?ウィリアム・グレイス」
「ひさしぶり?どこかで会ったか?」
ウィリアムが首を捻る。男は低く嘲笑した。
「覚えていないのか?この傷を」
「あいにく、一々傷付けた奴のことなんか覚えていないな」
「十年前.....“ディープ・ブルー”.......裏切り........これでも思い出せないか?」
「まさか.......貴様.....貴様が矢霧 神志だったのか!?」
ウィリアムは、思わず拳銃を取り出した。
「まあ待て、落ち着け。まずは休みたまえ。ここまでのぼってくるのは疲れただろう」
「休んでる暇などない。ここで貴様を殺す」
「いいや、まず君達は休まなければならない」
矢霧 神志がそう言い終えると同時に、平林が悲鳴をあげた。
「永遠に、ね?」
ウィリアムは、案内役の男を射った。弾は、男の脳天を貫いた。さらに拳銃を構え、周囲を警戒するウィリアムだったが、室内には他に人はいなかった。いつの間にか、矢霧も消えている。
「ニコラス!!」
ウィリアムの足下に、胸からナイフが突き出た平林が仰向けに倒れていた。ウィリアムは、素早く平林の手当てに回った。
「グレイスさん.....早く....あの男を.....俺なんかより............」
苦しそうに平林が息をする。
「死にたくなかったら喋るな」
ウィリアムは必死で応急手当をした。だが、出血が多すぎる。
「..いえ......俺が身を守れなかったのは.....俺の...せい」
吐血混じりに平林が口を動かす。ナイフは平林の肺を貫いていた。息は余りできていないはずだ。
「一つだけ.....お願いがあります........」
「...言え」
ウィリアムは、諦めの口調で尋ねた。手当ては続けているものの、気休めにしかならない。
「アメリカの....お袋に.....親父が居ないから......一人になっちまう....」
平林は指輪を外し、ウィリアムに渡した。
「親父の形見.........これだけでも.....」
ウィリアムは、平林から指輪を受け取ると、それを眺めた。
「.......俺は....親不孝者だ.....お袋には、苦労ばかり.....させた........せめて孫の顔でもみせてやりたかった............が」
「わかった。お前の母親にしっかりと届けよう。死の際でも親の心配をする、立派な男だったと伝えておく」
ウィリアムは、その指輪を握り締めた。
「もっと......マシな人生......送れなかったのかなぁ.....グレイスさん......俺は.........」
ウィリアムは、部屋を出ると、屋上へ向かった。
屋上にはやはり、矢霧 神志が待っていた。
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
矢霧は、拳銃を手で弄んだ。
「俺も待ったさ。あの日から......十年もな」
ウィリアムが呟く。
「成程、互いに再び相見える時を待っていたわけだ。もう十年か。時が経つのは早いな、ウィリアム・グレイス」
「そうか?俺にはこの十年が、百年にも千年にも感じられたがな」
「待ちに待った邂逅....の割には、血生臭いな」
「再開の形に期待はしていなかったさ。次に会うとしたら、地獄でだと思っていたからな」
ウィリアムのその言葉に、矢霧は何も答えなかった。
「お前がこの十年の間、何をしてどう変わったかなんてどうでもいい。とはいえ、その豹変ぶりには驚いたが.....俺は与えられた任務を全うするだけだ」
ウィリアムは拳銃を構えて距離をつめた。約二十メートル程度。充分射程圏内だ。
「まあ、結局は互いに、これでしかものを言えないってことだ」
矢霧も、薄ら笑いを浮かべながら、ウィリアムに拳銃を向けた。
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