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闇の中を踊る  作者: 東田 悼侃
18/20

決戦へ 2

創牙狼本部のビルの入り口に、一人の男が待ち構えていた。男を警戒していたウィリアムと平林だったが、男は二人が視界に入るなり会釈をしてきた。


「ウィリアム・グレイスさんと平林・ニコラス・抄太さんですね?矢霧 神志様が最上階にてお待ちです。私がご案内させて頂きます」


嫌味な程に丁寧な口調だ。ウィリアムと平林は、警戒を解かなかった。懐に腕を入れ、いつでも拳銃を抜ける状態にある。


「拳銃は持ち歩いて頂いて結構です。ご安心下さい。部屋に着くまでは、一切手を出すなと厳命されておりますので」


二人は顔を見合わせた。気になることばかりあるが、行くしかないことは二人とも理解していた。


「お決まりのようですね。でしたら急ぎましょう。あのお方を待たせてはいけない」


男は、正面からビルに入っていった。ウィリアムと平林は男の後を追った。


「おそらく、どこかのタイミングで仕掛けてくる」


ビル内の階段を上にのぼりながら、ウィリアムは平林に言った。平林が頷く。


「油断するなよ。その一瞬が命取りだ」


二人は、神経を研ぎ澄ませながら一段、一段と階段を踏みしめた。









「いつまでのぼれば気が済むんだ?」


階段の踊り場の数字が二十を越えた辺りで、平林が音をあげた。ここまで休憩はない。鍛えた体であっても疲れる。前を先導する男も、肩で息をしている。唯一、ウィリアムだけが平然としていた。


「もう....少しです」


息も絶え絶えに男が答える。踊り場の数字は二十九階を示していた。






男のもう少し、は、嘘ではなかった。男は、三十一階まで来ると、階段から外れて廊下へ出た。廊下を奥へ進む。その足が、一番奥の一室の前で止まった。

男が部屋の扉を開ける。ウィリアムと平林は身構えた。


「......」


部屋の中央に、男が一人立っていた。


「ひさしぶり、と言うべきか?ウィリアム・グレイス」


「ひさしぶり?どこかで会ったか?」


ウィリアムが首を捻る。男は低く嘲笑した。


「覚えていないのか?この傷を」


「あいにく、一々傷付けた奴のことなんか覚えていないな」


「十年前.....“ディープ・ブルー”.......裏切り........これでも思い出せないか?」


「まさか.......貴様.....貴様が矢霧 神志だったのか!?」


ウィリアムは、思わず拳銃を取り出した。


「まあ待て、落ち着け。まずは休みたまえ。ここまでのぼってくるのは疲れただろう」


「休んでる暇などない。ここで貴様を殺す」


「いいや、まず君達は休まなければならない」


矢霧 神志がそう言い終えると同時に、平林が悲鳴をあげた。


「永遠に、ね?」


ウィリアムは、案内役の男を射った。弾は、男の脳天を貫いた。さらに拳銃を構え、周囲を警戒するウィリアムだったが、室内には他に人はいなかった。いつの間にか、矢霧も消えている。


「ニコラス!!」


ウィリアムの足下に、胸からナイフが突き出た平林が仰向けに倒れていた。ウィリアムは、素早く平林の手当てに回った。


「グレイスさん.....早く....あの男を.....俺なんかより............」


苦しそうに平林が息をする。


「死にたくなかったら喋るな」


ウィリアムは必死で応急手当をした。だが、出血が多すぎる。


「..いえ......俺が身を守れなかったのは.....俺の...せい」


吐血混じりに平林が口を動かす。ナイフは平林の肺を貫いていた。息は余りできていないはずだ。


「一つだけ.....お願いがあります........」


「...言え」


ウィリアムは、諦めの口調で尋ねた。手当ては続けているものの、気休めにしかならない。


「アメリカの....お袋に.....親父が居ないから......一人になっちまう....」


平林は指輪を外し、ウィリアムに渡した。


「親父の形見.........これだけでも.....」


ウィリアムは、平林から指輪を受け取ると、それを眺めた。


「.......俺は....親不孝者だ.....お袋には、苦労ばかり.....させた........せめて孫の顔でもみせてやりたかった............が」


「わかった。お前の母親にしっかりと届けよう。死の際でも親の心配をする、立派な男だったと伝えておく」


ウィリアムは、その指輪を握り締めた。


「もっと......マシな人生......送れなかったのかなぁ.....グレイスさん......俺は.........」


ウィリアムは、部屋を出ると、屋上へ向かった。













屋上にはやはり、矢霧 神志が待っていた。


「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」


矢霧は、拳銃を手で弄んだ。


「俺も待ったさ。あの日から......十年もな」


ウィリアムが呟く。


「成程、互いに再び相見える時を待っていたわけだ。もう十年か。時が経つのは早いな、ウィリアム・グレイス」


「そうか?俺にはこの十年が、百年にも千年にも感じられたがな」


「待ちに待った邂逅....の割には、血生臭いな」


「再開の形に期待はしていなかったさ。次に会うとしたら、地獄でだと思っていたからな」


ウィリアムのその言葉に、矢霧は何も答えなかった。


「お前がこの十年の間、何をしてどう変わったかなんてどうでもいい。とはいえ、その豹変ぶりには驚いたが.....俺は与えられた任務を全うするだけだ」


ウィリアムは拳銃を構えて距離をつめた。約二十メートル程度。充分射程圏内だ。


「まあ、結局は互いに、これでしかものを言えないってことだ」


矢霧も、薄ら笑いを浮かべながら、ウィリアムに拳銃を向けた。

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