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闇の中を踊る  作者: 東田 悼侃
16/20

追憶2

更新遅くなりました。

廊下に躍り出たウィリアムの視界の端に、何者かの影が映った。影は、廊下の奥を曲がって逃走した。

ウィリアムは、部屋の入口に倒れている親友を一瞥した。まだ息はある。ウィリアムは、拳銃を片手に影を追って廊下を駆けた。

もし、この場に規則に厳しい人物がいて、ウィリアムに廊下を走るなと注意しようとしていたとしても、ウィリアムの表情を見た途端、そんな考えはどこかへ飛んでいってしまうだろう。

ウィリアムはキレていた。


犯人は恐らく、組織を裏切った男だろう。ウィリアムは推測する。だとすると、自分達は相手を追い詰めていたということだ。それ以外に、発砲する理由はない。

ウィリアムは歯噛みした。自分達が警戒を怠った事が原因だ。


角を曲がる。先は階段になっていた。ウィリアムは耳を澄ませた。上の階から足音がする。ウィリアムは迷わず階段を昇った。上へ駆け上がる。最上階まで昇りきると、そこは踊り場のみの間取りになっていた。屋上はないようだ。

踊り場の隅に、男がうずくまっていた。ウィリアムは照準を男に向けた。


「た...助けてくれ」


男は両手を挙げ、ウィリアムの方を見た。降参、ということらしい。


「どうして貴様を助ける必要がある?さっき貴様が撃った男はもう助からないぞ」


引き金に指をかける。


「そんな理不尽をまかり通すつもりは毛頭ない」


ウィリアムは、引き金にかけた指に力を込めた。


「まっ、待ってくれ!あんた、強そうだな...いや、強いんだろ?どうだ、俺と組まねえか?」


「どういうことだ」


ウィリアムの口調に、怒気がこもった。


「さっきの奴、どうせ死ぬんだろ?だったら、俺と組まねえかって話だ」


男が立ち上がる。


「あいつよりは役に立つぜ」


へへッ、と笑う男に、ウィリアムは引き金を引いた。男がドサッと倒れる。


「それ以上言うんじゃねえ」


ウィリアムは、男に近付いた。微かに息はあるが、もはや虫の息だ。


「悔いながら死ね」


そう吐き捨てると、ウィリアムは階段を飛び降りた。親友の元へと駆ける。そこに、外のメンバーから連絡が入った。


「おい、生きてるか?こっちに敵が向かってきている」


「何人だ」


ウィリアムが聞き返す。


「およそ三十人。全員武装している」


「まずいな。そっちの何人かをこっちに寄越してくれ。怪我人が出た。逃げるぞ」


「了解した。三人寄越す。十分だな?」


「ああ、十分だ。急ぐぞ」



拠点に戻り、ベッドに寝かされた親友の横に、ウィリアムは佇んでいた。

着弾したのは急所ではなかったものの、出血が多く、輸血も慰みにしかならない。


「......まあ」


ウィリアムが重い口を開く。


「楽しかったよな、色々」


「楽しかった...か」


親友が反応する。


「俺はさ、グレイス。自分の人生に後悔しているんだ」


「何を今更。俺の事はいいんだよ」


「違うんだ。そうじゃあない」


少し苦しそうに親友が話す。


「“命”の価値って、無いものなんだよ」


唐突な話題に、ウィリアムは眉を潜めた。


「というよりも、この世にあるもの全てに、価値なんて付けられるはずないんだ」


「おい、何言ってんだよ!」


虚ろな目をする親友に、ウィリアムは必死に声をかけた。


「この世に存在するものは、この世には双つとしてないんだ。その存在は一つだけ。元々一つしかないものに、どう価値を付ける?」


「出血が増える!喋るな!」


「俺らが奪ってきたものは、そういうものなんだ」


親友が、ウィリアムの胸倉を掴む。


「いつか償いたい...そう思いながら人を殺してきた.......死ぬって恐いな」


親友は、ウィリアムから手を離した。


「子供の頃の夢は、サッカーでスター選手になることだったのに........いつの間にか、こんなことをやってた...」


親友の目から、涙が溢れた。


「俺の人生って、何だったんだ?」



「なあ、グレイス」


しばらくして、落ち着きを取り戻した親友が口を開いた。


「最後の頼みがある」


「だから...どうしてそう弱気になるんだ」


「いいから、聞けって」


渋々ウィリアムは従う。


「点滴を外してくれ」


ウィリアムの親友は小さく、だがはっきりとそう言った。


「な...」


ウィリアムは、言葉を失った。


「い、言っている意味が分からない」


「これを外せって言ったんだ。もう自力じゃ外せない」


親友は、点滴を掴んだ。


「そんなことをしたら、確実に死んじまうだろ!!出来るわけがない!!」


ウィリアムが、悲鳴に近い声をあげる。


「そう、出来るわけがない...だからさ。お前がその手で俺を殺せば...お前は二度と人を殺せなくなるかもしれない...この世界にお前を巻き込んだのは俺だ。これからのお前には、その手で人を殺めるのではなく、その手で人を救って欲しい。ましな人生を送ってくれ...済まなかった」


「何故謝る!俺は、この世界に望んで入ってきた。その時点で、俺はまともな人生なんて送れない...だから...お前に生きていて欲しいんだ」


ウィリアムのその語尾は小さかった。


「今更まともな人生を送れないって...それはみんな同じことだろ。まともな人生ってなんだ?...そんなもの無いさ。世の中の...人生の価値に絶対な基準なんてない。みんなの、一人ひとりの人生が基準なんだ。...まともな人生なんて送らなくていい...ましな人生を送るんだ...」


ウィリアムは、その言葉に、一回、一回と頷いた。


「さあ、点滴を外せ。もう助かる見込みなんてない。自分の体の事は、自分が一番分かる」


ウィリアムは、ゆっくりと点滴に近付いた。


「さよならだ......ウィリアム・グレイス。俺の妻と息子にも、宜しく頼む...」


ウィリアムは男泣きしながら 点滴に手を伸ばした。

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