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闇の中を踊る  作者: 東田 悼侃
13/20

密偵4

「“矢霧 神志”は何処に居る」

拳銃の照準を丸山に合わせながら、ウィリアムは訊ねた。

「さあな。教えると思ったか?」

「教えてもらわなきゃ困るんでな。どうしても、というのなら力ずくで聞き出すまでだ」

ウィリアムは、いきなり発砲した。弾は、丸山の持つ拳銃に当たった。丸山の拳銃が飛ばされる。

「さあ、教えろ。“矢霧 神志”は何処だ」

丸山に拳銃を突きつける。

「嫌だね。教えねえ」

「自分の状況が分かってないようだな。言え。お前はもうチェックメイトなんだ」

「気に食わねえなあ、その態度。勝った気になってやがるな」

丸山が唐突に言い出す。

「勝った気になってるんじゃない、勝ったんだよ」

と、ウィリアム。

「これでもっ!」

丸山は、ウィリアムの持つ拳銃をはたき落とした。

「か?」

丸山がウィリアムから離れ立ち上がる。ウィリアムは、取り落とした拳銃を拾おうと腕を伸ばした。

「おっと、下手に動くなよ」

丸山は、懐の中からナイフをちらつかせた。

「俺は昔野球少年でね、この距離なら、拳銃よりは速く投げれるかもしれねえぜ」

ウィリアムは、拳銃を拾おうとする手を一旦止めた。

「試してみるのもいいかもな。貴様がナイフを投げるのが先か、俺が拳銃を撃つのが先か」

二人は、その姿勢のまま静止した。膠着状態が続く。二人は微動だにしなかった。いや、動けなかったのだ。どちらかが動けば、恐らく決着は一秒以内につく。十分近くが経過した。

「止めた」

丸山がナイフを下げた。ウィリアムも一息吐くと、拳銃をそのままに腰を上げた。

「流石、と言うべきかな?」

ウィリアムが口を開く。

「日本最高峰の暗殺者、アメリカにいてもよく耳にするよ、その極悪非道者(丸山 成辰)の名は」

「極悪非道者ってのは酷くないか?これでも俺は謙虚なつもりだぜ」

ウィリアムに、丸山が弁明する。

「これは驚いた。日本では、笑いながら人を殺す姿勢を謙虚と言うのか」

ウィリアムが鼻で笑う。丸山の眉が微かに動いた。

「何かよぉ、それだけ聞いてると、俺がとてつもなくひでぇ人間みたいになってるじゃねえか。やってることは、テメェと変わらねえってのに」

丸山は頭を掻いた。

「違うのか?」

ウィリアムが心外な顔をする。

「キーワードは“敬意”だよ、ウィリアム・グレイス」

どういうことだ?、とウィリアムはいぶかしんだ。

「人を殺す上での話さ。言葉は伝わらなくても“敬意”は伝わる。心は通じなくても“敬意”は通じる。“敬意”を持って“謙虚”であれ」

丸山は、ナイフを弄びながらウィリアムに言った。

「食事の時には最低限のマナーがあるよな。あれって、何の為にあると思う?伝統の儀礼か?違う。作った人への感謝か?違う。社会へ出る為のお勉強か?違う。・・・“敬意”だよ。俺らは食ってなきゃ生きられねえ。だから、他の生物を食う。だから、最低限のマナーがある」

ウィリアムは、床に落ちた拳銃を拾った。

「人間ってのは自分勝手な生物だとつくづく思うぜ。一方では殺人を罪だと叫びながら、一方で他の生物を殺すことを当然だと思っている。自分たちが生物の頂点だとか、下らねえこと思ってる。その上、人口減少だの、地球温暖化だの・・・・・全部テメェらのせいじゃねえか。何うつつ抜かしてやがる。犬、猫、馬、豚、魚。みんな生物だ。魂の価値は平等だぜ?自然の摂理ぶっ壊しておいて、テメェらのことばかり考えてやがる。こんなに馬鹿な生物が他にいるか?“敬意”、それぐらいは払おうぜ。払わなきゃなんねえんだよ。一種の償いとしてな」

丸山は一旦手を止め、ウィリアムを見据えた。

「死せる魂にさえ“敬意”を払えるのなら、殺人は罪ではなくなる。お前もそうじゃないのか?」

丸山が言い終える。ウィリアムは溜息を吐いた。

「ニコラスといい、貴様といい、日本人はお喋りが好きなのか?」

ウィリアムは、照準を丸山に合わせた。

「ここで俺が引金を引けば、貴様は死ぬ。お喋りをする必要がどこにある」

引金を握るウィリアムの指に力が入った。丸山は、ナイフを持つ手を下げる。再び沈黙が始まった。


二人が動いたのは同時だった。

ウィリアムが引金を絞ると、丸山もナイフを投げた。ウィリアムは身をよじってナイフをかわすと、銃弾をもう一発放った。一発目は避けていた丸山だったが、二発目は避けきれなかった。丸山の肩に着弾する。が、丸山は体勢を崩すことなくウィリアムに突進、体当たりを食らわせた。

ウィリアムは倒れはしなかったものの、拳銃が手から離れた。一瞬、ウィリアムの目が拳銃にいく。その隙を、丸山は逃さなかった。

ウィリアムの顔面向け、拳を振り抜く。もろに拳を受けたウィリアムは、今度は体勢を崩した。そこへ、追撃を加えようと、丸山が腕を振り上げた。

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