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闇の中を踊る  作者: 東田 悼侃
12/20

密偵3

 「本当に居るのか?こんな所に」        

 翌日、ウィリアムと平林は、埼玉にいた。

「どういうことです?」

ウィリアムが首を捻ると、平林が尋ねた。

「こんなぼろくさい建物に、“矢霧 神志”が居ると思うか?」

ウィリアムは、目の前の建物を指差した。建物を形容するにあたって、最もしっくりくるのが、ウィリアムの言った“ぼろくさい”だった。

「確かに、普通に考えたら、組織のボスがこんなところに身を潜めているとは思えませんね」

平林も頷く。

「だろ」

「でも、だからこそ、とは言えませんか?」

「どういうことだ?」

「無理な仮説にはなりますがね、日本とアメリカとかの映画を観比べると、日本ってのは心理描写が得意なのが分かります。ハリウッドじゃアクションで押し通す所も、日本の映画は心理描写を描きたがる。ということは、日本人は俺等よりも心理に詳しいんじゃないですか?」

「それがどうしたという?」

「普通に考えたら、絶対に組織のボスが居るはずのない建物。でも、だからこそ安全とは言えませんか?これだけおんぼろだと、誰も見向きもしない、残ってるだけで不思議です。こんなところに裏の日本を支配する人間が居るって言っても、誰も信じないでしょう」

「なるほど、一理ある。お前にしては、珍しくきれてるじゃないか」

そう言うと、ウィリアムは正面をきって乗り込もうとした。

「え?ちょっ!ウィリアムさん、何やってんすか」

平林が慌てて止める。

「何って、本当に“矢霧 神志”が居るか、確かめに行くんだろ」

「いや、それは分かりますけど・・・・どうして正面から行こうとするんです。もし“矢霧 神志”が居たら、相当な警備を心配しなくては」

「じゃあ聞くが、このおんぼろの建物に、一体何人が入れる?まず警備の心配はいらない。それに、こそこそと隠れて入っていった所で、相手が相手だ。すぐ見付かる。正面から乗り込むのが一番手っ取り早く、一番的確だ」

「・・・まあ、ウィリアムさんがそう言うなら否定はしませんけど・・・」

平林は引き下がった。ウィリアムを一番信頼しているのが自分である。

「お前は俺の十分後に来い。それまでは、逃げる奴がないよう見張ってろ」


音をたてないように、ウィリアムは建物の中に入った。入り口脇の管理人室には誰も居ない。ウィリアムは気にせず進んだ。見つからなければ何の問題もない。

一階には人気がないのを確認し、ウィリアムは二階に向かった。事務所内は殺伐としていた。

不意に、二階から笑い声が上がった。ウィリアムは、神経を集中させた。

声のする部屋は、二階を上がってすぐの所にあった。ウィリアムは、何の躊躇いもなく。部屋のドアを蹴破った。部屋では、五人の男がテーブルを囲んで座っていた。笑い声がなくなる。

「何か用か?」

一人が、ウィリアムに威圧的な態度をとった。が、ウィリアムが怖じけることはない。

「“矢霧 神志”ってのは居るか?」

「外人か?ここはテメエの入ってくる所じゃねえ。失せな」

二人の男が立ち上がり、ウィリアムに歩み寄る。

「おっと、言葉が通じない事を忘れていた。失敗だな」

ウィリアムは軽く舌打ちした。

「何ぶつくさ言ってやがる。さっさと出てけってんだ」

一人がいきり立ってウィリアムの襟首を掴んだ。

「気性が荒いな。そうすぐ喧嘩腰になるな」

ウィリアムは、男の腕を握り、足を払った。

「うお!」

男が崩れる。ウィリアムは、握った腕をねじりあげ、床に組伏せた。

「動くなっ!」

一人が拳銃を取り出した。ウィリアムは、床に伏せた男を盾にした。

「くそ!」

男が発砲する。弾は、ウィリアムが盾にした男のすぐ脇を通過した。

「いきなり射つ馬鹿があるか。ろくに扱ったこともない素人のくせに。そんなに震えていたら、当たる的にも当たらない」

喋るウィリアムに、三人の男が飛び付いた。ウィリアムは、盾にした男を、向かってくる一人に突き飛ばした。さらに、その反動を使って別の男を蹴り飛ばす。体勢を立て直すと、ウィリアムは三人目の男と対峙した。

躊躇いながらも、男は踏み込んできた。ウィリアムは、男の股間を蹴りあげた。男はその場にうずくまる。

「この!」

盾にされていた男が起き上がり、ウィリアムを襲う。ウィリアムは簡単に男を羽交い締めにすると、首を軽く締めた。

三十秒と経たない内に、四人が倒れた。

一人残った男は、拳銃を構えたまま震えていた。ウィリアムがその男に近付くと、男は喚きながら発砲した。弾は、ウィリアムからほど遠く離れた壁に着弾した。

男の正面にウィリアムが立つ。背ははるかにウィリアムが高い。男の持った拳銃の口は、ウィリアムの胸部に当たっていた。

引き金を持った男の指が、微かに動く。

次の瞬間、男の手から拳銃が消えた。

「殺しはしねえでやるが、当分は動けないようになってもらう」

拳銃は、ウィリアムが握っていた。ウィリアムは、男の足を六回射った。しばらくもしない内に床が鮮血で染まる。ウィリアムは、その血を避けるように部屋を出た。


部屋から一歩出た瞬間、ウィリアムは何を感じたか、左へ跳んだ。その耳元を銃弾がかすめていく。

「いや、流石だウィリアム・グレイス」

廊下の奥から英語が聞こえた。ウィリアムは、男から奪った拳銃を構えた。

「今ので仕留めたつもりだったんだけどな」

廊下の奥の角から、男が現れた。

「まさか跳弾に反応するとは。規格外だな、おい」

丸山 成辰 日本きっての暗殺者であった。

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