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闇の中を踊る  作者: 東田 悼侃
11/20

密偵2

 金澤の前に、水が差し出される。ウィリアムの部屋だった。

「来ると思ってたよ」

金澤の対面に座るウィリアムが口を開く。

「それで、どういう経緯だ?」

「単刀直入に言おう。俺の持つ組織の情報と引き換えに、俺をあんたらの仲間にしてくれ」

「そんなの信用できるわけないだろ」

直ぐにつっこむ平林。

「それで偽の情報を流して嵌めるってか?それとも、油断させて内部からボーンか?」

「疑われるのは充分承知だ。その上で頼んでる」

金澤はウィリアムの方を見た。ウィリアムは、金澤をじっと見詰めていた。

「ニコラスの言う通りだな。残念だが、お前を信用する事は出来ない。お前の持つその情報は要らない。だが、お前を仲間にする事も出来ない」

「そうか。残念だな。じゃあ、せめて情報だけでも教えてやろう」

金澤が肩を落とす。

「何故だ?俺は要らないと言ったはずだぞ」

「そっちが嫌がるならいいがね。これは俺の独断だ。組織は関係していない」

「何があった?」

ウィリアムが尋ねた。

「別に。組織を追い出されただけだ」

ウィリアムはなおも金澤を見詰め続けた。特別、金澤の挙動に不審はない。

「分かった。話だけでも聞こう」

「え!?聞くんすか?こんな奴の話を?」

「信用できる情報かそうでないかは、後で判断すればいい」

ウィリアムは応じなかった。

「まあ、そういう事だ。信用するもしないも、あんたら次第」

「聞かせてもらおうか」

ウィリアムが座り直す。

「まず、あんたが一番知りたい組織のトップの名前を教えてやろう」

金澤は、勿体ぶるように溜めを作った。

「“矢霧 神志かんじ” 神を志す男。この名前以外、誰も何も知らない。この名前だって、本名じゃないだろう」

「“矢霧 神志”・・・なんか、禍禍しいというか、可笑しいというか・・・友達になりたくない名前ですね」

平林が、ゴクリと唾を飲み込む。

「そして、その“矢霧 神志”が、三日後にこの東京から名古屋へ移動するらしい。チャンスだと思うぞ」

「ですね。これ以上のないチャンスです」

平林が頷く。

「俺の用はこれだけだ。まあ、気が向いたら連絡してくれ」

金澤は連絡先の書いた紙をウィリアムに渡すと、部屋を出ていった。

ウィリアムは腰を上げると、椅子の下から通信機を取り出した。そこから、この会話の一部始終が木下に送られていた。

「今出てった男を尾行してくれ。ああ、ばれても構わない」

通信を切ると、ウィリアムは荷物から地図を取り出した。日本全土の縮図である。

「どうしたんですか?」

平林が首を傾げる。

「ニコラス、東京と愛知って、どこだ?」

「あいつの言う事信用するんですか?絶対罠ですよ」

「罠でも構わない。このまま、何の手掛かりも得られないのは癪だ。そろそろ動いていい頃合いだ。お、ここが東京か」

「ですけど」

「ふむ、愛知はここか」

ウィリアムは、平林の言葉を全く聞き入れようとしなかった。

「ニコラス、明日、暗殺を決行するぞ」

「え!?い、いきなりですね。場所は分かってるんですか?」

平林がウィリアムに質す。

「そうだな。まず東京には居ないだろう」

「なんでです?金澤は、東京から愛知に移動するって言ってたじゃないですか」

「じゃあ、納得がいかないようだから、優しいウィリアムおじさんが一つずつ説明してあげよう。まず、“矢霧 神志”が東京に居る可能性。日本の警察は、底無しの間抜けということになる。というより、この大都市圏でその居場所を突き止められないなんてのはあり得ない。そんな危険な場所に実を置くなんて思えない」

ウィリアムが一息吐く。

「次に、安全を意識して東京から遠く離れた場所にいる可能性。それもない。創牙狼の活動が特に活発なのは、この東京周辺。ここから遠く離れた場所に居ては、想定外の事件に対処が遅れる。合理的に考えて、東京の周辺にはいるはずだ」


ウィリアムが水を飲む間、暫しの沈黙が流れる。


「そして、愛知への移動。この理由が無い。愛知に、東京以上の何がある?俺は日本に詳しくは無いが、愛知に東京以上に組織に有益になるものがあるとは思えない。それに、交通を封鎖されれば一発だ」

平林がゆっくりと頷く。

「だから、この愛知への移動はカモフラージュだ。恐らく、愛知の方へ目をひかせて、その反対から、“矢霧 神志”は東京に入ろうとしてるんだろう」

「くそ、あの野郎。やっぱり嵌めようとしたんだな」

平林が舌打ちをする。ウィリアムは、構わず続けた。

「となると・・・俺が奴なら、埼玉に身を置く。三日後、だったな。もう埼玉に居るだろう」

「“矢霧 神志”がですね」

ウィリアムの目が光った。

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