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闇の中を踊る  作者: 東田 悼侃
10/20

密偵1

 一階のロビーに下りると、ウィリアムはレストランを探した。手に持った銃を袖で隠しつつも、その口は常に男の方を向いていた。

「その男は・・・・先程の騒ぎ、一体どうしたのですか?」

ウィリアムがキョロキョロと辺りを見回していると、木下が声をかけてきた。

「ニコラスはどこだ」

「平林さんですか?平林さんなら、あのレストランに」

木下の指した先に、平林を見つける。平林もウィリアムに気付き、手を挙げた。

「その男は?」

木下がウィリアムに尋ねる。

「後で話す」

とだけ言うと、ウィリアムはレストランへ男を促した。


「何か騒ぎがあったようですけど・・・・・その人誰ですか?」

平林も、木下と同じ反応を示した。

「たったさっき、部屋に居るところを襲撃された。その二人組の一人だ」

ウィリアムは、男を窓際に座らせながら答えた。

「もう一人は?」

「やむなく、な。これから、こいつを尋問する」

「また通訳ですか?」

平林が口にする。

「いや、こいつは英語を喋れるからな。一人でやるより、二人の方が効率がいいだろ」

「んん、まあ、一理なくはないですけど」

「無駄口はいい。聞き出せるだけ聞き出す」

ウェイターがウィリアム達の注目を取りに来る。平林が、コーヒー三つと答えた。

「まず、名前を聞かせてもらおうか」

とウィリアム。

「金澤 泰夫やすお

「本名か?」

「本名だ」

「誰に雇われた」

ウィリアムが、重ねて尋ねる。

「さあな」

金澤は、答えを濁した。

「組織のトップの人間か?」

「さあな」

また言葉を濁す。

「幹部の一人か?」

「さあな」

「お前の目的はなんだ」

「ウィリアム・グレイスを殺す」

ここではじめて、金澤は具体的な答えを示した。

「何のために」

「さあな」

かと思えば、再び答えを濁す。

ウィリアムはため息を吐くと、立ち上がって平林を手招きした。

「埒があきませんね」

金澤に聞こえないように、小声で平林が話す。

「あえて逃がそうか?」

「その後を追うんですか?」

「それもいいが・・・おそらくまかれるだろう」

「じゃあ、どうするんです?」

「さあな、とりあえず、このままでは駄目だ。何かアクションを起こさないと」

ウィリアムは、席に戻った。

「さてと、とりあえず、お前の処分は保留だ。別の人間に預ける」

金澤を立ち上がらせる。

「ニコラス、会計だけ済ませてくれ」

ウィリアムは、店を出ると木下に金澤を預けた。

「不自然にならないように、あいつを逃がしてくれ」

金澤から聞こえない所で、ウィリアムが木下に耳打ちする。

「何故です?せっかく捕まえたのに」

「捕まえただけじゃあ、何もわからないんだよ」

「その逃がした後を追うということですか?」

「いや、追わないでくれ。感づかれれば困る」

「ですが、折角見付けたヒントをみすみす逃がすのは」

「俺の勘じゃ、奴はもう一度俺の前に現れる。どういう形でかは知らんがね」

「その賭けには乗れません」

「いいか、この仕事は俺の領分だ。あんたらは俺の監視だけしてればいい」

「分かりました」

木下は了承した。



「失礼します」

男は部屋に入った。中は闇に包まれている。

「どうだった?ウィリアム・グレイスは」

闇の中から、男の声がした。

「噂通りの男です。最後まで、一分の隙も見せませんでした」

「殺れそうか?」

「ええ。今回は様子見だけです。噂通りとは言いましたが、あの程度なら、次は確実に殺れます」

男は冷や汗を拭いながら答えた。男は金澤だった。

「三日後、あのお方が愛知の名古屋へ移動する。その時までに、奴を片付けろ」

「分かりました」

金澤は頭を下げた。

「・・・と、言いたい所だが」

闇の中から、不穏な声がかかる。

「何故、お前が帰ってこれたのかが疑問だ。ウィリアム・グレイスとは、その程度の男なのか?ならば、どうやって十年前のあのアメリカでの抗争を生き抜いたのだ?」

金澤は首を傾げた。

「どういうことでしょう?」

「お前は逃がされたんだよ。故意的に」

「まさか・・・」

「利用された事にも気付かない無能はいらない」

金澤は、いきなり横に跳んだ。左腹部に痛みを感じる。ナイフだ。金澤は舌打ちした。

「流石だな。今ので仕留めたつもりだったのだが」

入り口が閉じられる。部屋は完全に闇に包まれた。金澤は、懐から銃を取り出し、構えた。

「だが、仕方の無いことじゃないかな?」

金澤は、声のする方に発砲した。

「闇の中でこれ程正確に狙えるとはね。動物みたいだな」

金澤は、再び移動しようとした。その足元が崩れる。

「構造もよく知らない部屋は、迂闊に動かない方がいい。罠が無いとも限らないだろ」

部屋中に、物が落ちる音が響く。

「落とし穴だよ。床に穴を掘ってその上に物を積んだんだ。簡単には抜けられない」

闇の中を、男は歩いた。その足音が、それまで金澤のいた場所で止まる。

「君はそこそこ有能だったからね。失うのはいささか残念だよ」

男は、穴の中に向かって言った。

「そんなに俺を評価しててくれたのか。それは有難い」

男の頭上から、金澤の声がした。

「何!?」

男は上を見た。が、闇が逆に災いして金澤の姿は見えない。男の背後で、金澤の着地する音がした。

「けど、俺はまだ死ねないんでな」

男は背後を振り向く。部屋の扉が開いた。

「今度会う時は、ウィリアム・グレイスを連れてきてやるよ。敵としてな」

部屋は再び闇に包まれた。

「シャンデリアに掴まったか」

闇の中、男は天井を仰いだ。

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