接触
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「そもそも“創牙狼”というのはー」
東京都警察本庁の一角で、山田 忠宣は、五十名を前に語っていた。
「いわゆるヤクザのグループです。密輸売買をはじめとした不正取引で主な利益をあげています。構成員は判明しているだけで二千名を超えます」
「二千・・・・・」
「“創牙狼”?センスの欠片もない名前だな」
誰かが呟く。
「ですが、それは憶測です。私は、さらにその十倍、二万以上の人間がいると考えています。何せ彼等は、裏社会を牛耳るだけでは飽きたらず政界にも手を出し始めましたから」
山田の言葉に、室内はざわついた。
「例えば、公明党の議員に最近当選した赤羽 和樹。彼の父は、創牙狼の上級幹部の一人、赤羽 聡です」
どよめきがさらに大きくなる。赤羽 和樹といえば、大学卒業後すぐにして議会の席を手に入れた凄腕である。将来の日本を担う男として、世間からの注目も大きい。
「彼の学歴を簡単に調べて見ましたが、出身校も成績も、それといった特徴がありません。というよりも、むしろ平凡過ぎます。こう言っては失礼かもしれませんが、私には、どうも彼が自分の力で当選したように思えないのです。彼が政治家になれたのは、何らかの力が働いた結果だと思うのです」
「証拠になりそうなものはないのか?」
誰かが山田に尋ねた。
「あります」
山田は顔に喜色を浮かべた。
「立候補する際の彼の資金源の謎です。選挙に立候補する際、最低でも四百万円以上の金額が必要になると言われています。最低でも、ですよ。実際となると、もっと必要でしょう。今春卒業したばかりの一社会人に、そんな大金があるでしょうか?あるはずない」
何人かが唸った。
「それに、ですよ。仮に彼がそんな大金を持っていたとしましょう。さっきも言った通り、立候補にはお金が必要です。当選すれば、是等のお金は全額返金されます。実質上ね。しかしー」
山田は言葉を溜めると、室内を見渡した。全員の注意が山田に向いている。
「しかし、落選すれば、当然是等のお金は返ってきません。無一文です。いわば選挙は何百万を賭けた博打でもあります。それを彼がやる必要がどこにあるのでしょうか」
「とにかく早く稼ぎたかったんじゃないのか?」
また、誰かが言う。
「何故その必要があります?彼の手元には、何百万という大金があるというのに。彼が立候補する理由は何もないのです。まともに考えたらね。なら、彼は馬鹿だったのかといえば、そうでもない。現に彼は当選していますから。いくらなんでも、そこらの適当な馬鹿が選挙に当選するほど国民の目は腐っていないと、私は信じています。ここにも、彼に当選した人が何人か居るのでしょう」
山田の言葉に、全員が互いの顔を見合せた。
「つまり彼は、何かしらの計算があって選挙に立候補した。そういうことだね?」
誰かの言葉に、山田は頷いた。
「恐らく。彼も、創牙狼のメンバーなのでしょう。彼の選挙を後押ししたのも創牙狼。その資金源も創牙狼。彼の計算というのもー」
山田は再び室内を見渡した。相変わらず、全員の集中が自分だ。山田は話を続けた。
「創牙狼の考えでしょう。今後は恐らく、彼を中心に政界への穴を広げて行くつもりなのでしょう。」
山田が話し終えても、誰も何も言わなかった。全員が、山田の話に引摺り込まれていた。
〈諦めずにこの調査を続けてきてー〉
良かった、と山田は満足していた。
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