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その2

なぜ、戦うのだろう。


僕は、その答えを見つけ出せずにいた。



※『旅の書1』は残念ながら消えました。







 仕方がない。旅の書2で再開だ。セーブを3つの旅の書にしておいて良かったなぁ。








………


《フィールドにて》


 住んでいた街をあとにし、僕はとりあえず戦士ビーと魔法使いエムと一緒に草原を歩くことにした。


 そういえば勇者たる僕の目的は何だろう。





「あ!魔物だわ!」


 魔法使いエムが叫んだ。見遣ると半透明の軟体生物と巨大なカラスが襲いかかってきていた。


 とりあえず僕は『あぶないハイレグ水着』の上に着けたベルトから長剣を抜いた。




 しかし、よく考えると、僕は普通に生活していた普通の少年であって、剣士や武術家ではない。その僕が、なぜ戦わなければならないのだろうか。また、どうやって戦うのか。さっぱり分からない。


 それに、勇者に選ばれた理由も皆目見当がつかない。僕は特に運動神経が良いわけでもなく、頭が冴えているわけでもない。魔法なんて使えないし、父母も祖父母も一般人だ。なのに、なぜ僕が勇者なのだろうか。





 と、考えている内に二人が魔物を片づけてしまっていた。








※勇者のレベルが上がった!


※10金を獲得!





 しかし、僕は思考を廻らせていただけであって、戦闘に加わっていたとはお世辞にも言えない。なのになぜ経験値を得ているのだろうか。


 それに、相手は魔物とは言え、殺害しておいて金品を強奪するのは強盗致死罪もしくは強盗殺人罪にあたるのではないか。勇者たる者、そのような金品を取るわけにはいかない。





 僕は10金をポケットにねじ込んだ。








 それにしても、なぜ魔物が襲ってくるのだろうか。まあ、僕の推測だが、たぶん勇者たる者の旅の目的は、世界を震え上がらせている大魔王や魔神のような輩を成敗しにゆくのだろうと思う。言わば昔に読んだ『桃太郎』のフィクション版といったところか。…いや、『桃太郎』もフィクションか。





 と、考えている内に二人は先々と歩いて行ってしまった。目的地もないのに元気な連中だ。





………


《洞窟へ》


 洞窟へ入った。


 そして、案の定、中は明るい。やはり僕が心配していたとおりだ。


「明るくする魔法や松明もなく、なぜ初めから洞窟内が明るいのですか。おかしいじゃないですか。第一、洞窟は深い穴でしょう。鼻をつままれても分からないくらい真っ暗なはずです」



 戦士ビーが壁を指差した。見ると、壁自体がほんのりと光を放っている。光る苔の一種のようだ。



「お見それいたしました。僕の思い違いでした。すみません」


 僕は、とりあえず頭を下げて洞窟に謝った。


 人間、誤りに気づいた時は素直に詫びるのが筋であり、清廉な精神の基本ではなかろうか。






 しばらく歩いていると広い部屋に着いた。


 と、一歩踏み出すと同時に、一番前を歩いていた僕の足元の床が急に崩れ、なす術もなく暗い穴に取り込まれた。





 落ちる、と思う間もなく僕は地面らしき所に打ちつけられていた。



 すると、なぜか残りの二人も僕に続いて飛び降りてきていた。


 なぜ、ついてくるのだろうか。普通、前を歩く人が落とし穴へ落ちた場合、ロープを垂らして救出するか、もしくは入念に注意してロープやはしごを利用して降りるのが人間の防衛本能ではなかろうか。なのに、この二人は無防備にも僕に続けて飛び降りてきた。



 …もしや、勇者たる僕に対する愛情や尊敬の念により、他をかえりみない勇気を得ているのだろうか。




 僕は二人の肩を同時に抱きしめ、その果敢な精神をねぎらった。






 前を見遣ると、宝箱がひとつだけ真ん中にポツンと置かれているのが見えた。実に不自然だ。


「だいたい宝箱がひとつだけ鎮座しているのは不自然です。第一、お墓でも盗掘されるのに、こんな洞窟に置いてある宝箱が盗られていないなんておかしいです。絶対に罠のはずです。触れるのは、やめておくのが得策です」


 僕が言うのも聞かず、戦士ビーが宝箱を開けた。中には立派な剣が一振り入っていた。




「僕が勇者ですから、この剣は恐らく僕の使う物でしょう」


 ためらわず、僕は剣を手にした。こういう品は勇者である僕の物と相場が決まっている。



 そう。抜かりなく行かなければ世の中、生き残ることはできないのだ。






………


《遠い街角》


 何日か歩いていると街に着いた。わりあい大きな城下街だ。


「勇者様!助けてください!」


 僕たち3人が道を歩いていると、身なりの良い女性が言ってきた。


「いきなり何事ですか。それに、なぜ僕が勇者だということをご存知なのですか。驚くじゃないですか」


「大魔王ダブリューが世界を闇で包み込もうとしているのです」


「そうなんですか。やっと旅の目的が分かりました。しかし、初対面で挨拶もなく用件が頼み事ですか。まあ、それは良いとしても、あまりのベタな展開に僕自身ついてゆけず、困惑いたしておりますが、どこへ行けば大魔王とやらがいるのです?」


「世界の中心、悪魔城にいます。早く平和を取り戻してください」


 何だかよく解らないが、突発的に目的の輪郭が描けたようだ。






 今日はとりあえずこの街に泊まることにした。適当な宿屋を見つけて入る。


「計3名、宿泊を要請いたします。料金は等分のワリカンでお願いします。びた一文、計算間違いのないようにお願いいたします」


 しっかりと僕は宿屋の主人に頼んだ。こういうことはキッチリとしておいたほうが後腐れがなく賢明だ。





 と、ふと自分の鞄を探ると…ない。僕のサイフが。


 しかし、貸し借りは厳禁と言ってしまった手前、貸してくれとは言えない。






 僕は恥を忍んで宿屋の主人に申し出ることにした。



「…あのう、僕は身体で払います」


「結構です」


 即答された。






…………


 夜。ふと目が覚めた。パーティの3人が同じ部屋で寝ているが、ちょうど僕が真ん中で、その左右に戦士ビーと魔法使いエムが寝ている。蛇足だが、ベッドは別々だ。念のために言っておく。



 よく見ると魔法使いエムは色っぽい寝顔をしている。実に、そそられる。


 反対側を見れば戦士ビーは肉体美で男の色香ムンムンだ。実に、ときめく。



 しかし、勇者たる者、間違いがあってはならない。どこまでも聖人君子を貫かねばならない。色香に惑わされていては周りが許さない。




《つづく》




お読みいただきまして、ありがとうございました。

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