噛み砕いて話したら、きっと甘酸っぱくなる話。
「お」
ポ●フル、と言うお菓子がある。
様々な味の――だが、どの味にも混じる酸味が特徴的な――グミを楽しめる、全国のスーパーで購入できるであろうお菓子だ。
そして、そのポ●フルには、たまにハートの形をしたグミが混じっている事がある。
とは言っても、ハート形のグミが出る確率はそこまで低い訳でもなく、そこそこ当たりやすいものなのだ。
が。
「まさか、一つの箱から二つもハート形が出てくるとは……」
左手には残りのポ●フルが入った箱。
右手にはハート形のポ●フルが二つ。
そんなポーズで、僕は硬直していた。
一つの箱から二つのハート。
これがどれくらいの確率で有り得る事なのか、僕は知らない。
でも、割と珍しい事だったりしたりするのでは無いだろうか。
学校の、教室の、自席で、硬直してもおかしくないほどには。
「ふぉぉお……」
左手にあるポ●フルの箱には、『ハートのグミが出たらラッキー』と、可愛らしいフォントで書いてある。
つまり今日の僕にはラッキーの二乗が降りかかってくるのでは。
「とりあえず、写真に残しておく事にしようかな、うん。うん」
左手の箱を机の上に起き、机の上にティッシュを広げ、そのまた上にハートを二つ並べる。
そして、ぱしゃっ、とケータイを鳴らす。
「これ、壁紙にしておいたらご利益とかあったりしないかなぁ」
ハートが二つ。ハートが一つ、なんて状況よりもご利益がありそうではないか。
ハート。二つ。これはもう、恋愛的なご利益があったりなかったりあったりするのでは無いだろうか。
となれば。
「ポ●フル?」
数時間後。
僕は校内を走り回り、かけずり回り、なんだかんだすったもんだの後にコイツ――前角朝霞を見つけ出した。
「随分可愛らしいお菓子持ってんじゃん。お前らしくもない」
同学年だがクラスは違う、でも所属している部活は同じだから交流はある。そんな感じの存在だ。
口調やら髪型やら背の高さやら性格やら私服のセンスやら小物のセンスやら何やら、男らしさ全開な女子である。
「いや、朝霞から色恋沙汰の話を聞いた事って無いじゃない?」
「まぁ、話してねぇしな」
「あ、いるんだ」
「さぁな」
「まぁいいや。そこでコレですよ」
「なんでそこでポ●フルが出てくるんだよ」
真顔でそう返されてしまったので、ハート形が云々の説明からする事にした。
「――だから、ハートが二つあるコレを上げるから、誰かと一つずつ分かち合ってみたりすれば?」
「なるほど。理解した」
言うが早いか、朝霞は僕の手からポ●フルの箱をひったくり、中からハートを一つ取りだし、
「後はお前にやる」
残りはすぐさま突き返してきた。
「……、え?」
話、聞いてたんですよね?
それなのに僕に渡す、って――
「いや、人から貰ったモンを誰かに渡すのはなんか嫌だし、本当はそもそも好きな奴とかもいねぇし」
「ですよね!」
勘違い、って恥ずかしいね!
僕の顔は、きっとハート形のポ●フルみたいな色になってるんだろうね!