戦争準備
「「あなたの仕事は少しくらい手伝うべきでしょう?」とは言いましたが……」
十歳で、すでにスタイルのいいフェリエは、看板を持って部室の前に立たされていた。しかも、ナース服を着ていた。
もちろん、ミニスカで看護帽手には注射器というかっこうだ。
ああ……これは完全に俺の趣味さ……それは認めるとも……だが、このファッションはこの世界でも通用すると思っている。
白く清潔感のある色に、やさしげな看護帽。注射器のアクセントがあり、俺にとっては、前の世界での最高のファッションであると思う。
俺はそう思う。
「フェリエ……人を集められなければ、お仕置きだよ……」
俺は、フェリエに向けてそう言ってから部室の中に入っていった。
「この部室が何の部室かというと……」
部屋の中にいるのは、シィとディラッチェと俺だけだ。その中で俺が言う。
「戦略情報部……とでもしておこう……」
俺はそう言った。大体の事はディラッチェもシィも分かっている。ここは、密かに隣国のラルファル帝国からの侵攻から学院を守るためには、何をするべきか? という事を考えるための部だ。言っちゃ悪いが、フェリエは俺達の会話にはついてこれないだろうから、部員の勧誘をさせる事にした。
そうはいっても、この部に進んで入りたがる人間もいないだろう。俺は評判は悪いしディラッチェも社交的とは言えないほどである。
とにかく、部員の獲得よりもこの部の知名度を上げるのが先決なのだ。
あの奇抜なかっこうなら人目を引くだろうし、フェリエだって、必死になってアピールをするだろう。
とりあえず『なんか変な事をやっている奴らが居るぞ』くらいの認識を持ってもらおうと俺は考えていた。
「この件は極秘だ。ここでの相談の内容は他言無用。この学院の未来がかかっていると思ってくれ」
俺が言うと、ディラッチェもシィも頷いた。
「まずこの学院を落とすには、どれくらいの兵力が必要だと思う?」
戦争を一度も経験をしたこともないハンパ者の集まり。そう向こうは思っているだろう。ここの学院の生徒は合計二百人前後。せめて、うちの生徒以上の数はほしいところだよね?」
そう俺が言うと、シィはメモにそう書いた。
彼女の役割は筆記だ。これはディラッチェと俺の会話で話が進められる。
「想像もつかないな、二百人の学生がいる建物を占拠するには、それだけの兵力が必要か?」
ディラッチェがそう言う。そういう言葉が出てくるところがいけない。ディラッチェは、戦争の事を全く分かっていない。
「それでよく軍師なんか目指しているね?」
俺が言う。
「なら、お前ならわかるのか? この学院を攻め落とすためには、どれだけの兵力が必要か?」
ディラッチェが言う。
「さっきいったろう? 大体二百くらいの兵力になるだろうって……」
城を攻めるのには、基本的に立てこもる敵の三倍以上の兵力が必要になる。真正面からバカ正直に攻め込もうとすると、十倍の兵力があっても足りない。
まあ、ここは城や砦ではないから、そこまでの防衛能力を期待するのは無茶がすぎるというものだろう。老練の兵士たちと、この学校の生徒達が戦うと考えれば、それくらいになるだろうと予測をされる。
「敵を撃退するには。敵を攻撃しないといけない」
俺が言う。ディラッチェは俺の言葉の続きを待っていた。
ここで「そんな事は分かっている」なんて言い出そうものなら、俺はディラッチェの事を見放していただろう。
「どうした? 続きを言わないか?」
そうディラッチェは言ってくる。
「ここの生徒には攻撃魔法を使えない、支援専門の人間だっている。彼らにも敵に攻撃をしてもらわないといけない」
「支援がいないと戦いにならないだろう?」
ディラッチェは言い出す。『いい質問だ』と、俺が教師ならば言っていたところだ。
「攻撃魔法科の君には分からないだろうけど、補助魔法科の生徒は百人以上いる。彼ら全員を補助に回す必要はない。せいぜい必要なのは二十人くらいだろう」
俺はそう言う。
「しかし、攻撃魔法を使えないだろう? どう攻撃するというのだ?」
こう言う俺も、攻撃魔法は、火を吹くだけのしょっぱい魔法くらいしかない。後は属性関係なしに覚えることのできる、威力の低い無属性の攻撃くらいだ。
「この世界にも、弓くらいはあるだろう?」
俺はそう言った。ディラッチェはそれを聞いて、首をかしげた。
「この方はたまに、『自分は異世界から来た人間』だとか、痛い事を言う時がありますの。あまり気にしないで続けてください」
シィが言う。『痛い』はないだろう……『痛い』は……
「だけど、弩、クロスボウはない。まずはこれを量産する」
俺はクロスボウの構造は分かっている。これが、ある日戦争を激変させ、教会から『悪魔の兵器』などと呼ばれた過去のある武器であるとなれば、俺の中二心を刺激される事間違いなしだ。
そんな経緯で、俺はクロスボウを作る自信はあった。
「そして、『矢』だけど……」
俺は言う。この学院には矢は存在しない。
遠距離攻撃をしたければ魔法を打てばいいのだ。矢の用意などされているはずもない。
「これには、考えがある」
俺は言う。ディラッチェは言葉を黙って聞いていた。
「こんな事……上手くいくのですか?」
俺はメイレナ学院長が隣にいるところに立っていた。
「上手くいきます。これで、矢を大量に手にいれることができるのです」
これは『大量の矢を用意せよ』と言われた男が矢を調達した方法だ。昔の策士が使ったその方法を完全に真似たものだ。
この学院が所有する大きな船を見ながら言う俺に、メイレナは半信半疑といった顔をしていた。
「出航してください」
メイレナが言うと、船は川を遡って進んでいく。その先にはラルファル帝国の砦がある。そこにまで、船を移動させて敵から攻撃をされるのだ。
それが今回の出航の目的である。
俺からの説明を聞いているはずのフェリエもディラッチェも渋い顔をしている。
「これで、あの船が沈んだら大損害だぞ……」
ディラッチェはそう言う。
「こうしないとラルファル帝国に負ける。そのためにこの船が犠牲になるならしょうがない」
俺は最後にこう言い切った。
「君の言葉を信じますよ」
メイレナはそう言う。
この作戦が上手くいかないと、この学院は占拠をされてしまうだろう。そう考えた俺は船のことを、期待を込めて見つめた。




