戦闘決定
「兵站の訓練がなぜ必要なのか? 知る必要がありますね」
メイレナは言った。
「デルクト君。君とロドム君の勝負をしましょう……」
メイレナ学院長の無茶ぶりがきた……
いくらなんでも、俺とデルクトがガチで戦ったら、俺は負けるだろうと思われる。
「ロドム君は五対一で勝ったこともあるんですよ」
メイレナが言う。確かに、そんな事もあったなぁ……この騒ぎを聞きつけてきた野次馬の中にレリレンがいるなー……そして、俺の事をめっちゃ睨んでるなー……
俺がそう考えると、シィが俺のところに戻ってきていた。俺の考えを読んだのか? クスリと笑った。
「ロドム様、授業中にいきなり呼び出すなんて、説明が欲しいですわ……」
シィとフェリエは息を切らせていた。fフェリエもいきなり呼び出されたので不機嫌気味だ。
「彼女を呼んだという事は、やる気って事だね?」
そう聞いてくるデルクト。どうやら、彼もケンカごしのようだ。この学院には俺の敵がゴマンといる。それは前々から分かっていた事であるが……
「デルクト君。そんな事を言わないで、ロドム君に力を貸してあげて……」
俺の後ろからティーナが言った。
「待った! そこまでにして! ティーナ!」
こんなところで、自分の許嫁から、俺の事をかばうようなことを言われて、頭にこない男はいない。ティーナの行動はデルクトの怒りに火を注いだのだ。
「勝負をする……そういう事でいいんだな?」
デルクトが言う。すっげえ怖い顔をしているデルクト。俺はそれを見てたじろいだ。
その様子を見ると、「フン……」と生徒会長がするには不適切なような、悪い顔で舌打ちをすると、デルクトは俺の前から消えていこうとする。
「お待ちなさい。勝負の日取りも決まっていませんよ」
メイレナ学院長が言い出す。
ちょっと待て……本当に勝負をするような流れになっているの? チェスピースでの戦いの事であると願いたいが……
「こういうことなら、お互いに魔法を使うことを許可しましょう。チェスピースの戦いではなく、本気の魔法の撃ちあいで勝負を決めるとよろしいですよ」
俺の願いは一気に打ち砕かれた。メイレナは俺の方を見る。シワの刻まれた顔の奥にあるメイレナの目は、俺に対して何かを期待するようにして細められていた。
当然、俺はそんな勝負をやっていけるような自信なんてない。
「ロドム=エーリッヒは、随分と腰が引けているようだが?」
デルクトが言う。当然俺はそれに乗っかって首を横に振った。
「そうそう、チェスピース同士の戦いならまだしも、新入生と最高学年が戦っても勝ち目無いでしょう?」
俺はそう言った。
俺は本気でそう思っている。メイレナも無茶な事を言ったのを分かってくれるだろう。俺に攻撃魔法はひとつしか無いわけだし、あの魔法は魔力を使うくせして威力がない。効果範囲なら広いけど……
「ロドム君だって攻撃魔法のひとつくらいは使えます。十分戦えるのです」
戦えないって! 学院長は俺の魔法のショボさを知らない……こんな魔法で敵を倒せるわけがない。
俺は、横目で学院長に訴えかけた。だが、メイレナは俺の言葉なんて聞いちゃいない。
「ロドム君、君は強いんですよ、この学院の誰よりも……」
俺の手を握りながら、そう言うメイレナ。
何? この、俺が戦わないといけない感じ……
デルクトも俺の様子を見て、余裕の表情を見せた。
「学院長のお墨付きなら、期待に答えるのが男の道だよ」
デルクトが言うのだ。俺の様子を見れば、そう思うものだろう。俺は、戦わないといけない状況になってきた。
「試合は、七対七の勝負とします。これなら、勝機があるように思えませんか?」
「俺の知り合い全員の数じゃないですか……」
俺、フェリエ、シィ、の三人。そして、ファンクラブの会員のセリット、ティーナ、デイナ、そして、仲間になってくれるかどうかわからないディラッチェ。
このメンツしか思い浮かばない。
メイレナは俺の頭の中を読んで、それからニコリとした。
「大丈夫です。あなたなら勝てます」
普通だったら、それを言われてやる気もでる人もいるのだろうが、俺は、その言葉はただの無責任な言葉にしか思えない。
前の世界で、仕事を押し付けられるたびに言われていたからな「君ならできる」「お前には期待している」そう言われて面倒すぎる仕事を押し付けられた事なんて星の数ほどある。
それから、集まった人垣は解散をしていった。
そして、俺の友人達プラス、あんまり仲のよくない親戚一人が学院長室に集められていた。
メイレナが座る机の前に整列をしている。
「ロドム君あなたには悪いことをしました……」
「そうですよ……デルクトはおそらく最高のメンツを集めてきますよ……」
「そうでしょうね……」
俺とメイレナ学院長はそう言い合った。他のメンツはその会話を聞いて、不安そうな顔になる。
「勝ち目のある戦いではないのですか?」
フェリエが聞いてきて、ファンクラブの三人もそれを聞いて俺のことを見た。
「連携なんて、そんな簡単に取れるようになるものじゃない」
俺はそう言った。事の始まりから終わりまで、ここにいる人間にはすべて説明をされた。センファイが連携の授業を始めようとしたこと、それに俺が便乗をした事。そこにデルクトがやってきた事に、俺とデルクトとの普段の仲の悪さが引き金になって勝負をするような話になってしまった事。
「デルクトくんは真面目でいい子なんですが、ちょっと常識をわかっていない所がありまして……」
あれほどの常識人は、そうそういないと思った俺だが、メイレナはわざとらしく頭を振っているのを見て、俺は次の言葉が何か? と身構えた。絶対になんか、屁理屈を考えたのだ。そうメイレナの顔に書いてある。
「女を寝取られたからって、あそこまで未練たらしくしているのはどうかと……ああいう子を草食系というのですか? それとも、ただの情けない男というのですか?」
「俺が寝とったわけじゃない……」
俺が言う。ファンクラブのみんなは『寝とった』の言葉の意味が分からなかったらしい。それを聞いて顔を赤くしているのは、意外と耳年増であるフェリエと、人の頭の中を読めてニュアンスを読み取る事のできるシィの二人だった。
「そう……そういうところがまた気に入らないです。自分が彼女とほったらかしにしたからロドム君になびいたんですよ。しかも、ロドム君がティーナさんを誘惑したわけではないのに、ロドム君を逆恨みなんかしているところが、さらにイライラしますね」
顔をニヤつかせながらそう言うメイレナ。
この場の女子達は、その言葉に共感したようで「うんうん……」と頭を振った。
シィだけはメイレナの頭の中が読めるから、メイレナの事を白い目で見た。
なんとなくわかった。これでメイレナは、女子達にデルクトに対する悪意を植え付けようとしているのだ。
「センファイ先生に相談をしよう! とにかく、連携の事を考えないと、勝負にすらならないよ」
諦めた俺はそう言う。俺は戦闘の連携なんてわからない。連携をとる事の大変さは、知識で知っているのだが、細かい連携の取り方は知らないのだ。
とにかく、細かい部分はセンファイ先生から、学ぶしかないのだ。




