ネイクの言葉
「ターゲットって、嫌な奴だったね……」
「あんなガキに指揮官の才能を渡すなんて、天の神は何をやっているんだ?」
オルとレデの二人は、そう言い合った。
さっさと、ゲータを救出して、ここから早くトンズラをするべきである。
ちょうど良く厨房に戻ることができたオルとレデの二人は、ゲータの事を探した。
「何を探しているんですか?」
ウナが首を回して厨房の中を探っている二人に向けて聞く。
それに、二人はドキリとして後ろを振り向いた。
その子はさっき『ウナ』と名乗った子だ。二人はすでにあの子の名前を調べており、彼女の名前がシィであるというのは知っていた。
「ご主人様達のお食事が終わりましたから、私達も昼食にしましょう」
「そうですね。シィさん?」
そうレデが言うがシィはそのまま二人に背を向けてキッチンに向かっていった。
「シィさん……?」
オルもそう言ってみる。だがその子は反応をしなかった。
「ウナさん?」
オルはそう言った。そうすると、その子は後ろを振り返った。
「なんでしょうか?」
ウナという名前で名乗ったメイドは言った。
「もしかして、私の名前を覚えられなかったのですか? しっかりしてくださいよ」
シィという名前には反応をしないようだ。オルとレデの二人はこのメイドの名前はシィであるのは知っているのだが、なぜ反応をしないのか?
「私たちの正体を知っているなら……?」
さっさと捕縛をすればいい……そう考えたオルだが、それ以上は言わなかった。
「正体? 学院から派遣をされてきたのではないのですか?」
ウナと名乗るメイドであるシィはそう言った。
『主人が曲者ならメイドも曲者ね……』
オルはここの者達のことを見て、そう考えた。
「ゲータの居場所を探らないと……」
シィからは聞き出せる様子ではなかった。
今は、オルとレデの二人は外でシーツを干していた。
「どうも……いいように弄ばれている気がしない?」
オルは言う。
「そうだよね……ゲータの居場所も聞き出せなかったし……」
オルとレデの二人はワニをどうしたのか? と、シィに聞いたがシィは『ワニ……? 何の事ですか?』『おかしいですね、今晩のお夕飯はシチューにするつもりですよ。ワニなんて食べません』などと言われるだけだった。
「絶対にゲータはここにいるはずよ……」
ネイクにこの小屋の中を探って居場所をさがすように言ったのだが、ネイクからの報告はない。
「ネイクも捕まった……?」
そういう事も考えられるからここの奴らは始末に負えない。
この数日のあいだ滞在をするためだけのこの小屋はそんなに広くはないはずだ。小屋の中をいくら慎重に探したとしたのだとしても、ここまで時間がかかるのはおかしい。
『よう……待たせたな……』
そこまで考えたところで、ネイクがやってきた。
「ネイク……遅い……」
レデがそう言う。
『まあそう言うな。あんな狭い小屋に人が七人もウロウロしているんだぞ。見つからないように動くだけで一苦労だぜ……』
ネイクが言う。それが遅れた理由だというのなら、うなずけない事もない。
『それで、ゲータの事だが……』
シィが言った言葉とは違いゲータは酒を満たした箱の中に入れられたままであるという。
『人間ってのはあんな残酷な食い方をよく思いつくもんだな。あれは酒蒸しっていうんだろう?』
ネイクは言う。シィの言った言葉はウソだったようだ。やはり、ゲータは今晩の夕食になってしまう予定のようである。
『正体を明かして『ゲータを返してください』ってお願いしてみたらどうだ?』
「バカなの……?」
「なんのために身分を隠して潜入したと思っているの?」
オルとレデは二人してネイクを責めたが、ネイクは言う。
『だが、半分バレているのはお前らだって気づいているんだろう? 確信ができたらすぐにでも捕まるぞ。あいつらはまだ学生っていってもお前らみたいな落ちこぼれとは違う』
レデはその言葉にネイクを睨みつけた。
「あんた……いままで反抗をした事はなかったけど……」
『それだけヤバい状況だってんだよ。俺だって口を出さずにはいられないぜ。スパイは見つけ次第拷問の後に処刑だろう?』
ネイクはレデの言葉を最後まで聞かずにそう言った。
「そうだけど……」
『ダブルスパイなんて狙ってみたらいいんじゃないか? 故郷にも帰れるし、給料も故郷とこの国の二箇所からもらえるしな』
「そんな……祖国を裏切るなんて……」
オルとレデは二人でそう言って考えた。
『そこまで義理を感じるほどの待遇を受けているか?』
ネイクは言う。確かに自分達は落ちこぼれだ。だから学生の監視なんていうやっつけ仕事を任されているのだ。
「だけど……片方のスパイすらできない私達がいきなりダブルスパイなんて……」
レデは言う。そこまで言うと、ネイク
『今、ゲータには監視がついているぞ。ほのって名前の主人の使い魔なんだそうだ……』
「ほの……」
その名前に聞き覚えがあったオル。
「もしかしたら、ほのちゃんなら手伝ってくれるかも……」
そうオルが言うと、ネイクはそれから最後にこう一言を言って黙った。
『俺は腹が減った。こんなに緑の多い場所ならウサギの一匹くらいいるだろう。また用ができたら呼んでくれ』
ゲータの事が危険だというのに、このそっけない態度で、ネイクはここから去っていく。
「あいつ……ゲータの事が心配じゃないの?」
ネイクのその行動に腹を立てたオルだが、これから先は自分達の仕事だ。
「はやくゲータを救出しないと……」
オルが言い、レデもその言葉に頷いた。
とりあえずはこれ以上怪しまれないようにしなければならない。二人はシーツを干す作業に手早くとりかかった。




