大芝居をうつ
オルとレデの二人は、一番にキッチンに向かっていった。ゲータが連れられているとしたら、そこしかないだろう。
そこには食事の支度をしているメイドがいた。
「おや、話のお手伝いさんね。私はデイナです。どうぞよろしく」
ペコリと頭を下げるデイナ。
「今日のお夕飯はワニのお作りなんです。いまからワニをしめなければならないので、丁度お手伝いさんが欲しかったんですよ」
そう言いながら鼻歌まじりでパスタを茹でるデイナ。
「ワニさんは酢でしめています。こうしておけば臭みが抜けていくんですよ」
デイナはオルとレデに向けて言った。
「オルさんとレデさん……いや、間違えました。アイリさんとイースさんですね?」
そう言われオルとレデはビクリと体を硬直させた。
「なんですか? オルとレデって……」
オルが聞く。デイナは「フフフ……」と笑って言った。
「さて、なんでしょう?」
オルとレデの二人はお互いに視線を合わせた。
『私達の事……完全にバレてる……』
『ならなんで、私達の事を屋敷にあげたんだ?』
オルとレデはそう視線で会話し合った。この屋敷の主人はよほどの切れ者のようだ。オルとレデの二人の名前まで、すでに調べ済みだったのだ。
この状況で気づかないわけがない。オルとレデの二人は完全におもちゃ扱いだ。ここの主人の気まぐれ一つで、二人は捕らえられてしまうのは想像に難しくない。
だがオルとレデの二人は逃げるわけにもいかなかった。もしかしたら、ここの主人達を出し抜いてゲータを救い出す事もできるかもしれない。
そう確認をし合った二人は、デイナからの言葉を聞いた。
「もう出来ましたよ。パスタは簡単に作れるからラブリィですね」
そう言ったデイナは二人に皿を渡した。
「ご主人のディラッチェ様のところに持って行ってください」
皿の数は六つ。調べによるとロドム・エーリッヒとその許嫁。それと、ディラッチェ・ロードル。それにロドムのファンクラブの二人の分が必要なはずだ。
「ファンクラブは三人でしょう?」
レデはオルに向けて聞く。
「バカね。さっき会ったメイドのデイナって子がファンクラブの一員でしょう?」
メイドの食事は主人の後である。そう考えるとこの数はおかしい。
「あ……そうか……なら誰なんだろう?」
オルとレデはそう考えた。すぐに部屋についた。考える時間はないようだ。
「失礼します……」
そう言うと部屋のドアが中から開けられた。
「ドアを開けたのは黒い髪で黒い着物を着た女の子だった。
「そうか……使い魔の……」
この六人目の分はロドムの使い魔の女の子の分であるのだ。
オルとレデの二人はテーブルにスパゲティを並べていった。
「ほの……おあずけだ……」
ロドムがほのに向けて言う。
「アイリとイースさん。ちょっと賭けをしない?」
ロドムがそう言い出す。この状況であればロドムの申し出は受ける以外にない。
「問題は、このほのがどれだけ耐えれるか? 時間を当てよう」
そんなゲームに、ほのは驚いた顔を見せた。
その少し前、俺は食堂で魔法を使ってオルとレデの二人の様子を見ていた。
「さっさとすっぱ抜けばいいだろう? スパイは見つけ次第処刑のはずだ」
今は、ロドムとディラッチェ。そして、フェリエとファンクラブの二人が一緒にいる食堂だ。ディラッチェが言った言葉にロドムは首を横に振って答えた。
「まあまあ、あの間抜けそうな二人なら、器用にダブルスパイなんかもこなせるはずだよ」
「ダブルスパイ……正気か? そんなもんを扱えるのか?」
ディラッチェは言う。
ロドムはこの二人から情報を聞き出すつもりなのだ。
それも穏便な形で。
「僕らは情報を得なきゃいけない。まだ学生だなんて言い訳を言っているヒマがあるなら、どんな手を使ってでも何かの手を打たないとダメだ」
この国はすぐにでも隣国に攻め込まれる。そのような一触即発の状態だというのだ。国を守るために軍師になる事を目指している自分達には、そうする責任があると考えている。
「だからって……ただのスパイが情報を持っているはずが……」
「だから言ったろう? ダブルスパイだって……」
自分達の情報もある程度流す。
そして、隣国にその情報を持ち帰ってもらう。そうして実績を得たら、また隣国の情報を持ってこっちに戻ってきてもらう。
「危険はあるけどこうするのが一番だ」
こんな事は何度も言われてきた。
スパイというのは小さな頃からスパイになるように訓練を受けてきたような人間ばかりじゃない。
なんにも取り柄のない者が、捨て駒のつもりで隣国に潜入をさせられる場合も多いのだ。
「ディラッチェ……協力しろ……軍師志望なら、こうするのが正しいはずだ」
俺は真剣な顔でそう言った。
ディラッチェもそれに乗ってくるだろうと思った。こんな事ができるのは、俺とディラッチェの二人しかいないと本気で思ったのだ。
「もうちょっと、敵に悟られないように注意をすることはできなかったのかね……?」
ロドムは言った。デイナは不意に奴らの本名を言ってしまったのだ。それで敵は感づいた事だろう。
「デイナには俺の方からキツく言っておく……」
ディラッチェは言った。俺はここにまでやってくるスパイ二人の事を待ったのだ。
これからの作戦の事は、ほのにもディラッチェにも了承を得ている。
ひと芝居うってオルとレデの二人を、こちら側に引き込もうと考えているのだ。
オルとレデがやってきた瞬間俺は顔をニヤけさせた。悪印象を与えるようにだ。俺はこういう演技なら自分でも得意と思っている。
「ほの……てはず通りに……」
俺はほのに声をかけほのにドアを開けさせた。
それから、俺はオルとレデの二人が料理を並べ終えたのを見て声をかけた。
「ほの……おあずけだ……」
そう俺が言うとほのはスパゲッティに向けて視線を向けた。
『いいぞ……そうやって同情を引け……』
俺は悪い顔をしながらそう思う。できるだけいやらしく笑い相手を見下すような目つきをしてほのの事を見る。
「アイリさんとイースさん。ちょっと賭けをしない?」
そうすると疑問のありそうな顔で俺の事を見つめてきた。そして、ここはとてつもなく嫌味な顔をして言った。
「問題は、このほのがどれだけ耐えれるか? 時間を当てよう」
このゲームでオルとレデが負けたらほのは食事にありつくことができない。そういうゲームをして楽しもうと俺は言いだしたのだ。




