いざ戦ってみたら
「すごいではないですか。あなたのチェスピース捌き……動きも素早く、効率的で攻撃にも防御にも気を配って戦っている」
自分では気づかないが、やっぱ俺って熟練者なんだな……
鼻が高々な気分になりそうなところだが。ここは見ず知らずの人間の言うこと。素直に受け取ったりなんかしない……
「挑発に乗らないところは当然として、おだてにも乗らないというのはよろしいです。本当に僕と同じ十歳とは思えませんよ」
そう言い出す。なんで、俺が十歳だとわかるのか? と一瞬考えたが、さっきから、俺の事を新入生と呼んでいる人もいた。
まあ、見た目もあると思うがな。大体同い年であるというのは、見れば分かるし……
「すごいのはフェリエのほうだと思いますけど? あの数を一気に出すなんて、並の魔力じゃできないですよ」
俺は冷静にして言った。
俺の言葉に照れくさくなったのか? 恥ずかしそうにして頭をかいているフェリエ。
『フェリエ……おだてに簡単に乗るな……』
俺はそう思いつつも、テルシオの言葉の続きを聞く。
「数で押すだけなんて、美しくありません。あなたのように、ああやって繊細に、大胆に動かす方が美しいです」
「それはどうも……」
俺はそう言った。顔は引きつった苦笑いをしていただろう。どうも、テルシオの言葉は、素直に聞く気になれない。
「グラウンドに上がってください。試合をしましょう」
そう俺が言うと、テルシオはグラウンドに歩いてきた。
テルシオは、銀髪に青い瞳をしている。その二つが合わさると、綺麗な湖のような精練とした雰囲気がある。
彼の、綺麗なイメージとは裏腹に、今は、俺の事を射抜くような目をしていた。
「気をつけてください……あの子は見た目とは違い、暗い力を感じます……」
フェリエ独特の勘が、何かを囁いているようだ。俺は、フェリエの持つ野生の勘が冴えているのを感じた。
「あの子の目を見ると、なんか、身震いをするんだよな……」
俺はそう言う。
彼からは、何か危険な匂いがする。そう感じるが、フェリエは俺の事を見ながら言う。
「それについては、ロドム様も負けていませんけど……」
「おいおい、そりゃどういう意味だい?」
「普段から、戦いの時は似たような目ををしていますよ。ロドム様の方が、若干ドス黒いくらいです」
なんだそりゃ……俺はそう思うが、フェリエの言葉を聞いて、シィも頷いていた。
「まあ、あなたは試合に集中してください」
そう言うフェリエ。
『なんだよ……この話は終わりってか……?』
その事はいい……今は前の敵に集中しよう。
俺は、前にいるテルシオを見据えた。
「そうです、そうです、その表情です」
フェリエが言う。俺はいまどんな顔をしているというんだ……携帯でもあれば写真を撮ってもらいたいぐらいだ。
俺は、言う。
「では始めますか……」
「そうしましょう……」
お互いに試合開始に合意をする。俺は、いつものつもりで、防御型のチェスピースと投石器を出した。
相手は、防御型のチェスピースと見える敵を出してくる。
テルシオのチェスピースはモンスター型のようだ。今出たのは、石を組まれて作ったような、『ゴーレム』の姿をしていた。
それが、攻撃を待っているような感じで、動かずこちらの事を伺っていた。
「そうだよな……そう来るよな……」
その時に、自分が不利な立場にいる事を思い出した。俺はさっきの戦いで消耗をしていたのだ。
騎兵型のチェスピースを出すのは、相当の魔力を使う。いわば、ゲームで言う、コストの高いお遊びキャラのようなものだ。強いが実用的ではない。
チェスピースは、出しているだけでも魔力を食う。このままでは、少しずつ魔力を食われてしまう。
それは相手だって同じだが、このままにらみ合っていたら、先に魔力が切れるのはこっちの方だ。
戦争というのは、有利な方が主導権を得る。
有利な方が、相手に攻撃を仕掛けるか? 相手が出てくるのを待つか? の選択をする権利を持つのだ。
今不利なのは俺の方だ。相手は、俺が出てくるまで待つという選択を選んだ。だから、俺のほうが攻撃を仕掛けねばならない。
防御型のチェスピース。そして、投石器型のチェスピース。二つのチェスピースを、ジリジリと動かす。
投石器の射程範囲に入る直前になると、テルシオが動いた。
「いい目だ……射程距離を見切ってる……」
俺は舌打ちをしながらそう言った。テルシオは、投石器を倒す時の方法というのを、よくわかっている。とにかく、白兵ユニットを投石器に近づけ、接近戦を仕掛けるのだ。
だが、敵が投石器に射程距離に入ってきてくれたのは、好都合。俺は投石器の石を飛ばした。
爆撃をかいくぐってきた敵のゴーレムは、大盾を持った俺のチェスピースを殴りつけた。
「これなら充分耐えれる……」
俺は言う。やはり防御型のチェスピースだ。攻撃力はそれほどでもない。
無理をせずに、投石器の攻撃を続ければいい。
「今だ!」
テルシオがそう言うと、投石器を出した。
俺の投石器では、作業をしているのは昔のロリ巨乳の姿をしたほのであるが、相手の投石器で作業をしているのはドワーフのような背の低い寸胴のおっさんだ。
テルシオの投石器は、俺のチェスピースに向けて石を投げつけた。
「同じ戦法で攻撃をしてくるか……」
どっかの誰かみたいに、練習もしていない投石器を見よう見まねで使ってくるような事はしないようだ。
投石器の狙いは正確で、着実に俺のチェスピースを削ってきた。
「何かをしないと負ける……」
俺は、どんどんと自分のチェスピースを後退させながら考えた。
「騎兵だ!」
俺はそう叫んだ。
敵に向けて騎兵を突っ込ませるのだ。俺は、残った魔力を全部使うくらいのつもりで、騎兵を出した。そのまま、俺は投石器に突っ込ませる。
「ゴーレム!」
テルシオはそう言い、ゴーレムを動かした。俺の防御型のチェスピースを狙うのはやめ、投石器と俺の騎兵の間に壁を作った。
「そうしたら、こっちのほうが手薄に!」
俺は叫ぶ。
ゴーレムを動かしたのだ。そうなれば俺の防御型のチェスピースががら空きになる。
俺は防御型のチェスピースを敵の投石器への攻撃に回した。
防御型といえど、投石器を壊すだけの力は持っているのだ。ガンガンと進軍をさせ、投石器を壊していく。
テルシオの投石器は、俺の攻撃などお構いなしに、騎兵の方に攻撃をしていった。
俺の投石器は、どんどんと石を投げつけ続ける。そして、辛くも、テルシオの投石器を全滅させる事に成功する。
『だが、この先どうしろと……』
投石器の攻撃を受けていた騎兵は全滅。そして、俺にはこれ以上の魔力は残されていない。
もう、残った投石器と防御型のチェスピースだけで戦わなければならないのだ。
テルシオは攻撃型と思われるチェスピースを出した。
「もう、魔力は残ってないでしょう? 降参をしませんか?」
これだけの数のチェスピースと戦うような魔力は残っていない。
「降参だ……」
生まれてから二回目の敗北だ。俺は、悔しさを噛み締めてそう言った。




