属性は何?
「お父様。入ってもよろしいでしょうか?」
俺は書斎のドアを鳴らしながらそう中に声をかけた。
「入りなさい」
父はそう言う。
中に入るとシィの母のメイドが立っていた。父に紅茶を淹れたのはシィの母らしい。
父が一つ視線を送るとそのメイドは部屋から退室していった。
「どのような御用かな?」
俺の事を見ながら言う父。聞きたい事は二つだ。まずは当たり障りのなさそうな事から聞くか。
「魔力を上げる方法を教えてもらおうと思いまして」
父に向けて言う。こんな言葉使いで父と話すのは他人行儀であるように感じるだろうが、上流階級の人間はこれくらいは普通だ。
「上げる方法はいくつかあるのだが、お前もまだ五歳だ。そんなに無理をしてまで魔力を上げる必要はないだろう?」
そういう返事が返ってきたか。これは二つ目の質問をしてみるべきかな。
「お父様はロードルという家系をご存知ですか?」
俺がそう言うと父の眉根が動いた。これは当たりもしれないなどと考えつつ続きの質問をする。
「私はロードル様の御子息と勝負になりまして」
『勝負』とはいうものの実質的にはケンカだ。ケンカをしたなんてまともに言うと烈火のごとく怒られるだろう。
そう言うと俺の服の足元が汚れているのを父は見た。大体の事は察しただろう。
「それで。、恐らく御子息は再戦を申し込んでくるだろうと思います。ですからその時のための準備をしたいのです」
「敵はあのロードル。間違いはないのだな?」
父がそう言う。俺はペコリと頭を下げて頷いた。
「ロードルは十歳くらいになる御子息がいると言われる。魔力の量でも戦術経験でも劣るロドムに勝てるものなのだろうか?」
そりゃ、半信半疑だろう。元の世界でも五歳が十歳の子供に勝ったなどと話されても信じる人間はいないだろう。しかも相手は体格もいいし身長も高い。
「もし、そうだとしたら面白い話ではあるね」
そう言うと父は魔法の器具を取り出した。
「私だ。メイドを一人ロードルの家に送ってくれ。そうだうちのせがれと向こうの子息がケンカになったらしい。その事についてお詫びをしてだな。そうだ察しがいいな。詳しい事も聞いてみてくれ」
それは、対象者の頭の中と直接念話をする事のできる魔器具である。
「魔力を上げる方法だったな……」
父もそう言い立ち上がった。
「手っ取り早く魔力を上げる方法だったら、宝石を身に付ける事が一番早い。私が昔使っていた宝石を持つといい」
なるほど宝石には魔力が宿ると聞く。
その宝石にたまった魔力を使うことができれば魔力の総量も必然的にあがるのだ。
「そのためには自分の『属性』を知らないといけないな……」
父が言うには魔力には種類がある。
火属性ならルビー、水属性ならサファイヤ、といった。その属性に会った宝石があるのだ。
「お前は自分の属性を知るにはまだ早い。魔術の基礎を覚え、精神的にも円熟をしてからだな」
父はそこで言葉を止めた。
「十分か。お前はすでに基本はマスターしているし精神的には円熟をしている……」
魔法を覚えるのは楽しかったし俺は精神年齢は四十になる計算だ。両方の条件を達成している。
「教えていただけますか?」
そう言う。父はそれに考えながら答えた。
「まあいいだろう。ロードルに負けるのだけは絶対に避けないといけないからな……」
そう父が言うと俺のことをじっと、見つめた。
「ロードルの子息にだけは負けるんじゃないぞ……」
この反応から察する。ロードルの家とは何か因縁でもあるのだろうかと感じたが、何があったのかまでは聞かないとわからない。それを不安に思いつつも父が俺の属性を検査する器具を取り出すのを手伝った。
ワクワクしていた。これから自分の属性を知ることができる。
属性というのは誰もが持っているものだ。
無属性というものもあるが、それでも無属性の魔法というのも存在するし、無属性は属性が存在しないとは一概に言えない。
八割の人間は、地、水、火、風、の四つのうちの一つであるらしい。属性というのは無数に存在する。
闇属性や光属性というのもあり、他の、¥マイナーな属性を上げていけば枚挙にいとまはない。
『特殊で強い属性にならないかなぁ』
八割の人間がこれだというが、やっぱり地、水、火、風、のどれかじゃ味気ない。もっとマイナーで強力な属性になりたいと思う。
マイナー好きなんてオタクの考え方だろうな。誰も知らない、いい作品を知っているというだけで周りの奴に優越感を感じたものだ。
それが周囲からは気持ち悪く感じるのだろうというのもあるのだ。それはさておき、その属性を計る器具を見つめる。父がそれについて説明を始めるため俺はそれに触るのはおあずけになってしまっている。
「この宝石に手をかざすと属性がわかる……」
父がそう言って、宝石に手をかざす。そうすると宝石の色が赤く変わった。
「私の属性は火だ。これに手をかざした人間の属性に合わせた色に変わる。これに手をかざしてみるんだ」
父はそう言い宝石から手を離した。
「それでは失礼します」
そう言いドキドキしながらその宝石に手をかざす。
宝石は黒い色をしていた。その宝石の色が変わったら、それが俺の属性だ。その宝石に手をかざしながらその宝石の色を見るが、宝石の色は全く変わらない。
「闇属性だ」
宝石の色は黒いまま。これは闇属性の反応なのだという。
胸に嬉しさがこみあげた。
「イヨッッッシャアアァァァアア!」
大声で叫んだ。
闇属性だという。そんなクールな属性になれた事に歓喜をしたのだ。
そうすると父は俺の頭を叩いた。
「もう少し上品に喜びなさい……」
父は少しでも悪い言葉使いをすると、こう言ってくる。
「すみませんお父様」
俺はそう言いしょげる。
だけど、属性が決まった時くらい、好きに喜ばせてもらっていいじゃないかとも思う。それを口には出さないが。
「君らもやってみないか?」
父は上機嫌で言う。父の視線の先にいるのはフェリエ一人だ。だがその先にドアの向こうから、こちらの事を伺っている影があった。
「私もよろしいのでしょうか……?」
シィが言う。それに気づくとフェリエはシィを睨みつけた。
「あなたは掃除でもしていなさい」
フェリエが言うとちぢこまったシィは、ペコリと頭を下げて部屋から離れようとした。
「フェリエ君。君もそんなに意地悪をしないで」
「そうですか。旦那様がそういう事なら入ってきてもいいわよ」
そうフェリエが言うとシィは「失礼します……」と、おずおずしながら入ってきた。
俺の属性が知れたところにシィとフェリエの属性も知る事ができるのだ。
「二人の属性は何なのでしょうね? 見せてみてくださいよ」
俺はそう言う。そう聞くとフェリエとシィは二人で属性をはかる宝石に近づいていった。