ここから先は消化試合
それから先、相手を嬲ることだけを考えて攻撃を加えた。
考え『レリレン以外の奴から、倒していこう』と心に決める。
意味がわからないと思うだろうがこれには当然意味がある。
この話の発端はレリレンであるはずだ。
レリレン以外を滅多打ちにするのだ。
レリレンに付き合っているだけの奴らは俺にボロボロにされたらこう思うだろう。
『レリレンに付き合って俺がボロボロにされたのに、何でレリレンだけが無傷なんだ?』
こいつらは、軍隊や、会社のような、組織的な集団じゃない。ただ、気が合う仲間で集まっているだけだ。連帯感など希薄でリスクに全員で立ち向かうような組織的な力などまるでない。
誰かだけが損をすれば、損をしなかった奴に対して敵意を抱くようになる。
こんなチンピラ達の友情関係などそんなものだ。
それはあいつらに戦意がある場合の事である。戦意を喪失している相手を殴ったとなればこっちの方が卑怯者になりかねない。
完全に腰が引けている奴らに向けて最後の警告をする。
「降参しますか?」
それだけ言う。これを言っておけば後でなんとでも言い訳ができる。
俺の言葉に返事をする者は誰もいなかった。
あいつらの頭は『こんな戦いからは逃げたい。降参をするのは嫌だ』とこんなところだろう。
チンピラなんてこんなもの。芯を持たない自尊心の塊でしかない。
奴らの様子を見てニヤリと笑った。
これで『試合』の形が成立した。
「返事がないなら容赦しませんよ」
そう言い俺は今立っている四人のうち一人に標準を絞る。
「ほの……行け!」
そう指示を出すとよだれを垂らしていたほのは一気に相手に向かっていった。
牙を剥き出しにしたほのが、大きく口を開けて襲いかかる。
「膝だ!」
俺はそう言う。膝は一番治療が難しい。脛であれば松葉杖をついて安静にすることもできるだが膝ほど高い場所になると動かさないわけにはいかないのだ。
患部を安静にさせることができなくては治りも遅くなるし、下手をすれば悪化をする事だってありえる。
ほのは俺の指示に従い敵の膝を狙って噛み付いた。
「ほのは毒の魔法を使う事ができます。解毒の方法がないなら一刻も早く足を切り落とすしかないです」
俺は言う。これはいくらなんでも嘘だ。子供の喧嘩で足を失うような結果になってしまったら、いくらなんでもやりすぎである。
このハッタリは十分効いたようで、相手は世界の終りを見たような顔をして驚いていた。
『そんなに驚かなくてもいいのに……』
俺はそう思うがこんなものは序の口である。続けて俺は言った。
「降参しませんか? まだ今なら毒が体に回る前に治療ができますよ?」
相手の事を気遣うような素振りを見せる俺。この戦いを見物している奴らに向けての印象操作だ。後になって『戦いを止めようとしたが、レリレン達が拒んだ』と言い訳をするためでもある。目撃者もいるからこの言い訳は十分通るだろう。
「では次の敵を……」
残った三人のうち下っ端でありそうな奴をなんとなく見た目で決めて攻撃魔法を撃つ。
ダークアローという単純な魔法だ。
この魔法は、敵に当たるが魔法に耐性があるこの学院の生徒にはまったく効いていなかった。
ダークアローは敵に当たるとまるで割り箸のようにしてポキンと折れた。
「やっぱ、攻撃魔法の腕は最悪だな!」
レリレンは言ってくる。
「この矢には毒を塗ってありますよ」
そうハッタリを言う俺。
「ハッタリなんかに騙されるかよ!」
レリレンは言う。
ハッタリだよ……
だけど、ちょっとくらいは、俺のハッタリをい信じてくれているようだ。
今は魔法を受けて倒れている奴と膝をほのに噛まれて動けない奴の二人を倒した状態だ。
あと三人はどうやっていたぶろうかと考えニヤリと笑った俺。
「面倒ださっさと焼いてしまおう」
そう言うとほのは口から炎を吐いた。
趣向を凝らして戦うのにも飽きた。残りの三人は即効で攻撃魔法を使って倒そう。
「ほの! 準備だ!」
ほののこの姿を見せてしまうが仕方がない……
俺はほのに人間型になるように指示を出した。
ドロン……と煙を上げて姿を変えるほのを見て周囲からざわめきが起こる。
「人間型の使い魔だ……」「なんでいままで人間型にしなかったの?」「魔法力も強そうだしもっていても不思議はないよね」
そう口々に言うギャラリー。
ほのに魔法をかけた。
「その身に触れる者は焼けただれて腐り落ちる」
アシッドバディという魔法の詠唱だ。この魔法を受けると体が薄い酸に覆われる。
その状況で足をかみつかれたりしたらどうなるか?
穴を開けられた傷口が酸で焼けただれる事になるのだ。
今のほのは人間型になっている。そのほのは武器として小さな苦無を取り出した。
それを見た敵達はほのの様子を見て明らかにビビっていた。
それからほのは苦無を持って敵達に向かっていく。
その中で一人逃げようとしている奴がいたのでその背中を遠慮なく刺した。
「こんなのアリかよ……」
そう言い出すレリレン。
簡単に勝てるかと思われていた戦いで大敗をしているのだ。
「分かったもう降参だ!」
レリレンが言う。
「あれ? 次はあなたを狙うつもりだったんですが? もう降参をしてしまうのですか?」
レリレンに向けて言う。
レリレンはそれを聞いてほっとした顔をしていた。それを見た、レリレンの仲間たちはレリレンに恨みでも篭っているような顔でレリレンを見た。
『あいつら俺達はこんな怪我をしたのにレリレンはひとりで助かりやがった』とか、考えているんだろうな……
レリレンを筆頭とするこの不良グループはそろそろ崩壊をするだろう。
俺はそう考えてニヤリと笑った。




