俺は、問題児と認定された
シィは乱れた髪を整えながら上機嫌な顔で廊下を歩いていた。
髪を直しながらも、廊下を歩くシィの事を見ていつかこの借りを返してやると心に誓う俺。
さっそくシィと一緒にいることで問題が起きた。
「ロドム……様……? これは一体どういう状況ですの……」
俺とシィが一緒になっているところを見てフェリエが言ってきた。
そうか……フェリエは今日もデザートのために先に並んでいるんだ。
「別に何でもないですよ。私はロドム様の支援人なんですから、ロドム様と一緒にいるのが当然です」
「そうではありませんの!」
フェリエはそう言う。そりゃそうですね……いくら支援人だからと言っても一日中連れだっている必要はない。
本来授業中はシィ。放課後はフェリエ。とか時間毎に区切るのがいちばんいいはずだ。
そもそもこの問題は俺も悪いけどな。
許嫁がいるのにたとえ家の使用人といえど四六時中ベタベタしているのは問題だ。
俺がそう考えているのをよんだのか、シィはいきなり俺の腕にしがみついてきた。
「フェリエ。こんなベタベタな挑発には乗らないよな……?」
俺はフェリエに釘を刺すためにそう言う。フェリエは俺の言葉を全く聞いていなかった。
「ロドム様……あなたが食事を摂るまで待っていますわ……この使用人同様にあなたにもお話がありますからね」
フェリエさん……簡単な挑発には乗らないですよね……
そう考えるがフェリエはシィの挑発にバッチリと乗っている。
俺はフェリエの事を見て、溜息を吐いた。
その、俺の心の中を読んでいるようでシィはくすりと笑っていた。
「このさい、上下関係をはっきりさせておくのが一番じゃないかと思いますの……」
俺とシィはフェリエと同じテーブルに座っていた。と、いうか座らされた。
「フェリエ……もうバックライトはいいでしょう?」
鳩の姿をしたフェリエの使い魔が言う。
この魔法は恐怖の魔法だ。この光を浴びたものはフェリエに対して畏敬の念を抱くようになる。
その魔法の効果は相手が闇属性だったり魔力が少なくなっていたりすると効きやすい。
つまりは俺だ。
俺は今フェリエの顔をまともに見ることができない状況だ。それでも俺の魔力はバックライトの効果で今もガンガンと削られている。
魔力が尽きると脱力感に苛まれるのだ。そろそろ、俺の魔力も枯渇し始めていた。意識が朦朧としてくる。
「これくらいでやめないと、彼は死ぬよ……」
鳩がそう言ってくれる。そうしてくれると助かる。そろそろ頭がグチャグチャになりそうだったところである。
フェリエは鼻を鳴らしてバックライトの魔法を解いた。それで俺は体の力を完全に抜いてテーブルに突っ伏した。
あわや、俺の顔は自分のとってきた料理に突っ込むかと思われたが、シィが俺のトレイをどけてくれたから顔を汚さずに机に突っ伏すことができた。
「シィ……なんですか? 仲良しアピールですか?」
フェリエはそれを気に入らなそうに見ていた。
「そう言うなよ。ボクが料理をぶちまける事にならなくてよかったじゃないか」
俺は言う。フェリエはそれを聞いてまた「ふん……」と鼻を鳴らした。
あれから俺はデザートを取ることができた。
フェリエは昨日同様俺と一緒に食べるために一個デザートをキープするつもりだったらしい。昨日のように俺と分け合って食べるつもりだったのだ。
「こいつも罪作りなやつだな……」
俺はそう思い今日のデザートである、ショートケーキに乗っているいちごをつついた。
「一番罪作りなのは自分自身でしょう?」
フェリエが言いシィもそれに頷く。
「俺ってそんなにすけこましか……?」
そう考えるのだがシィは俺の事を見て「うんうん……」と頷いていた。フェリエは俺の事を「じーっ……」っと見ている。
「また、君のところはいつもにぎやかだな……」
そう言ってデルクトがやってきた。
「早いですね……デルクトさん」
俺はそう言う。
「そりゃそうだ『お前の寮の同居人がまた痴話喧嘩を始めているぞ……』なんて言われれば、様子を見に来るってもんだよ」
そんな事を言われていたのか……
「もう、君はこの学園では有名人だしね……レリレンだってあれで戦略科の成績は、ディラッチェ=ロードルに次いで二位なんだよ。『それに勝った入学間もないの新入生がいる』なんてなれば、それはもう有名に……」
「あれで二位!?」
俺は思わず言ってしまった。そうするとデルクトは俺のことを見た。
「君から見ればあんなのは子供のままごとみたいなもんなんだろうな? ディラッチェが実家に帰ったとき彼の相手をつとめていると言うじゃないか……」
バレてる……この事は当分隠しておきたかった……
デルクトは俺を完全に問題生徒の一人とみなしているようで、俺の事を見る目が冷たい。
「誰から聞きました?」
「ディラッチェ=ロードル君の支援人のデイナっていう子からね。なんでも、ディラッチェ=ロードル君と家も近いらしいっていうから君の事を聞いてみたんだ」
「なるほど……」
デイナが喋ったのか……
彼女が嬉々として俺の事を語っている姿が想像できる。
「あら? デルクトさん! どうです? ロドム君の凄さをわかってくれました?」
ニコニコしながら言うデイナ。どこにいたんだ貴様……そして、このタイミングでよく顔出せたなコノヤロ。
デイナも俺達のテーブルに座ってきた。
「ディラッチェの事はいいのですか? 一緒に食事をしているところなんて見られたら怒られるんじゃない?」
俺は言う。ここにデイナが入ってくるのは御免被りたかったが、デイナはそんな事まったく気にしていなかった。
「今日ディラッチェ様は機嫌が悪くて部屋に篭っているし、見られても私が誰と仲良くしてもかまわないって言われているんで、大丈夫だよー」
呑気にしながら言うデイナ。
「これで俺は出る杭になってしまったのか……」
「ついでに『なぜ? あいつ一人がモテモテになっているんだ?』とか言われてる。君の事を羨ましく思う……を通り越して殺意まで感じている者も少なくないよ」
「情報提供ありがとうございます……デルクトさん……」
ものすごく知りたくなかった情報だがな。
周囲から特異な目で見られる俺。これからの学園生活は皆から痛い視線を突き刺されながら過ごす事になるだろう。




