負けてもいけない
「それではコテンパンにしてやりますわ」
あれから俺はその女子生徒にグラウンドにまで呼び出された。チェスピースを使った戦いをするつもりらしい。
「生身同士で戦ってもいいのですが、あなたが一方的に攻撃されるだけですものね。これくらいがちょうどいいハンデです」
この校内のモメ事や問題はチェスピースを使った戦いで決着をつけられるものらしい。
あの三人のリーダー格の女子が俺の相手だ。
まさにお嬢様といった感じだ。金髪碧眼に縦ロールの髪に青い瞳。気の強そうでつり上がった目をしていた。
特に俺に敵意があるように見えない。詳しく言えば相手にしていないという感じだ。
その様子を見ると『生意気な新入生にお灸を据えてやろう』くらいに思っている感じがする。
その女子の後ろに立っている子だ。
髪は綺麗な青色で瞳も綺麗な青色だ。その雰囲気はシィに似ているように見える。
「戦う前に時間をください!」
フェリエがそう言ってきた。
「このまま始めても……」
俺がそこまで言ったところでフェリエは俺の口をふさいだ。
「とりあえず今は私の言う事を聞いてください!」
そう俺の耳元で言う。
フェリエに引きずられるようにして、コートから去って行った。
「ロドム様。この戦い、負けていただく事は出来ないでしょうか?」
フェリエは言う。俺はむっとして答えた。
「そんなに仕返しが怖いかい?」
ここで勝ってしまっては、後になったら他の方法で仕返しをしてくるかもしれない。フェリエはそれを怖がっているのだと思った。
「それについては大したことではありませんわ……」
フェリエは言う。
今日戦ったレリレンとあの青色をした髪と瞳の女子は、なんと許嫁なのだと言う。
「なるほど……それはきまずいね……」
それを聞いてしまったと思った。俺が散々に挑発したり、バカにしたレリレンの事で意趣返しをしようとしているのだろうと、俺は想像した。
「だけどワザと負けたらどうなるのさ? レリレンとの戦いで負けるならともかくさ」
この問題はただのレリレンと俺の問題だ。俺が相手の許嫁の友人との勝負に負けてもレリレンが勝ったというワケにはならない。
「ですが、拳の振り下ろし先くらいは」
フェリエは言う。とにかく、相手に勝ちを与えてスカッとさせようというのだろう。そんな事でレリレンと俺の仲が良くなるとは思えない。
今相対しただけであるがあの女子生徒には勝てる。勝っても俺の敵が増えるだけだというのがフェリエの考えらしい。
ワザと負けるというのは一考の余地があるかもしれない。意地をはって勝っても敵が増えるだけだ。
「むずかしいな……」
俺はそう言うがフェリエはウルウルした目で俺の事を見つめてきた。俺が勝つとルームメイトとの仲が険悪になりそうなのだし必死なのはわかる。
「負けても意味はない。勝ったら後が怖い」
ならどうすればいい? そう考えた俺は、少し考えた。
「負ける必要はない」
俺は言う。それに、フェリエは驚いていた。
「ロドム様!」
そう、俺にすがるようにして言ってくるフェリエだが、俺はニヤッと笑って答えた。
「相手に満足をしてもらえばいいわけだ。そうだよな」
俺が言う。フェリエは意味がわからないといった感じであった。
相手が満足をするには結局俺が負ければいいわけだ。フェリエはそうとしか考えられないのだろう。
「一つ方法がある。負けても相手に『収穫あり』と思わせればいい」
俺の考えをフェリエは全くわかっていないようだ。
俺は性格が悪い。この件で俺はそれを思いっきり自分自身で感じた。
だからこそこの件を丸く収める事ができるのだ。
「すみません。待ちましたか?」
コートに戻るとそう言った。
「もちろん。上級生をここまで待たせるなんて礼儀がなっていない子ですね」
いきなり挑発的な言葉を言う女子生徒。かなりイラッとくるがここはガマンだ。
俺はおもむろにコートを開いた。俺の服にいくつも取り付けられたブローチを見せつける。
「体に宝石を付けることで魔力をアップさせる事ができるのですよ。僕が魔力切れになる事はないです」
そう俺が言うと相手の生徒は目を細めた。
後ろの女子二人がヒソヒソと話を始める。『自分から手の内を明かすなんてバカじゃないの?』と、でも言っていてもらえているなら儲け物だ。
それを見た金髪碧眼の女子は、強がっているようにしてふんっと、鼻を鳴らした。
「その程度の事で私に勝ったつもりですの?」
だがその反応から相手は宝石を付けていない事が分かる。俺の勘だ。俺のこういう勘はよく当たるのである。
「始めます!」
そう言いチェスピースを出した。それに合わせて相手も出す。
「僕の基本戦術は、防御に徹して、敵を引きつけて、投石器での攻撃を仕掛ける事です。無策に突っ込んでくるといいカモですよ」
そう言う。ここまで説明臭いくらいに説明をする。説明をしている相手は、レリレンの許嫁の後ろの青い髪のあの子。
相手は俺の意図に気づいていないようでメモ帳にペンを走らせていた。
『そうそう……その調子……』
俺は自分の考え通りに事が動いていくのを見て内心でほくそ笑んだ。
「ボクに勝つ方法は防御に徹する事です。チェスピースを出し続けるのには、魔力を使います。魔力の総量の多い先輩方であればボクの魔力が尽きるまで、チェスピースを出し続けて睨み合うのがいいです!」
ここまで言った俺。この通り今の俺は自分の手の内をワザと明かしている。
敵に情報という戦利品を与えているのだ。
それから俺は説明臭いぐらいに自分の手の内を明かし後ろの女子はそれをメモにとっていた。




