男の子は面倒
「ラッティ君のペンダントを返してもらいましょう」
ディラッチェに向けて言った。ディラッチェは舌打ちをしながらペンダントを俺に向けて差し出す。
それを受け取ろうとして手を伸ばしたが、ディラッチェはいきなりペンダントを握り締めペンダントを地面に向けて投げつけた。
「よく見りゃただのガラクタじゃねぇか! そんなもんいるかよ!」
捨て台詞を残してディラッチェは去っていった。
ラッティ君は地面に投げつけられたペンダントを拾い上げ土をはらった。
「災難でしたねラッティ君」
そう言うと、ラッティはそのペンダントを拾い上げてから渋い顔をした。
「ラッティさん。ロドム様にお礼くらい言ったらどうですか?」
そう言うフェリエを俺は手で制した。
ラッティ君も八歳だ。三歳も年下のガキに助けられても複雑な気分になるのだろう。
それがいけないのだが……
こういうイジメられるタイプっていうのは、気弱なくせにいらないところで意地がすわっている。いじめっ子に正面からぶつかる勇気はないためいいようにされる。その事を誰かに話したりはしない。
『子供の世界での事だし子供同士で解決をするべきだ』とか、『イジメられているなんて恥ずかしくて言えない』とか、いらない意地を張って周囲に助けを求める事もないのだ。
「ボクがそのペンダントを取り返したことは秘密にしておきます」
ラッティ君の意地を感じ取りそう言った。
自分の心の中を見透かされたのが嫌だったようでラッティ君はむっとした顔をした。
「ラッティさん。助けてもらっておいて何ですかそのたい……」
フェリエがそこまで言うと俺はさすがにフェリエの口を塞いだ。これ以上は言ってはいけない。
「どうもありがとう……」
ラッティ君は小さくそう言い俺たちの前から姿を消していった。
「なんですか? 男の子ってそんな面倒な事ばかり考えているのですか?」
ラッティ君の心の中をフェリエに話した。
フェリエはそれが納得いっていないようで、ふくれっ面をしながら見つめてきた。
フェリエはそれ以上の事は言ってこないだろう。
フェリエが俺に対して意見なんかを言ってくる事はほとんどないし、これでフェリエも五歳にしては達観をしている。俺の意見に対して納得をしている事だろう。
俺とフェリエは川原から出てお互いに自分の家に帰ることにした。
服は多少汚れているしフェリエも腹の虫の居所が悪い。今日はさっさと帰って不貞寝でもしてもらおうと思ったのだ。
少し歩くと家も近くなり民家の並ぶ市道を二人で歩いている。足元の岩は形が揃っており馬車でも問題なく通れる道であった。
こういう整備をされた道はこの世界では珍しい。磨いてもいなく形を整えもしない岩を並べているだけの道も多いのだ。
そういう道を馬車で通ると、馬車の乗り心地は最悪ですぐに尻が痛くなってくる。
「それより問題なのはボクの方だよ」
あのディラッチェがどう出てくるかが気になる。
ああいう手合いは何か仕返しをしようと考えるものだ。そして、陰湿なところはゲームでの借りだからゲームで返すとかそんな事は一切考えないのだ。
とにかく何でもいいから借りを返す。そのためなら卑怯なことだって平気でやる。
転生前だったら、その仕返しをしっかり受けて相手の気が済むのを待ったものだが、この世界でもそれが通用するだろうか?
「転生って、またのその話ですか?」
フェリエはそう言う。何度もこの事を彼女に話したものだがフェリエは当然信じようとしない。
そのことに関してはもはや諦めている。
俺とディラッチェの立ち位置の差を調べないとなんとも言えないところであるのだ。
「ボクは帰ったら父上に聞いてみるね。ロードルって家がどんなところか?」
「なら私もご一緒させてください。事の顛末を見てしまったんです。今更無関係を決め込むつもりはありません」
フェリエはそう言う。
俺の事になると随分と積極的に動くようになるフェリエ。いままで『これはボクの問題だ』などという言葉を何度使っただろうか? それでもフェリエは食らいついて一緒に俺の問題を片付けようとするのだ。
ここまで俺の事を慕ってくれるのはありがたいが、そこまでフェリエが俺にくっつくのも彼女の重荷になるのではないだろうか?
「旦那様でございますか? ただいま書斎で紅茶を飲んでおられますよ」
俺は家に帰ると最初に出会ったメイドに父の居場所を聞いた。
その子は俺と同い年くらいの女の子だ。彼女の名前はシィ。母親はここで働くメイドで長年父に仕えているらしい。
シィは五歳である。俺の周囲の人間全員に言えることだが年甲斐もなく達観をしている。
緑の髪が綺麗で、目もいくら眺めていても飽きないくらい綺麗な緑色をしている。
個人的には彼女の瞳は吸い込まれそうという表現が合うくらいな綺麗さだと思っている。彼女の事をよく見つめるせいで、母や父からシィに惚れているんじゃないか、などと勘違いをされたりする。
フェリエと一緒にいる時は、なるべくシィに会わないようにしている。なぜならフェリエはこの子を威嚇するからだ。
今でもフェリエは俺の首に手を回しながら俺の事をギュッと抱きしめている。少し苦しいくらいだ。、この時ばかりはフェリエも言うことは聞かない。
フェリエが後ろからシィの事を睨んでいるのが分かる。
シィが怯えながらも、失礼の無いように笑顔を見せている。その笑顔はたまらなく引きつっておりなんだかシィに申しわけないような気が起きてくるのだ。
フェリエは耳元に声をかける。
「お父様のところに向かいましょう」
早くいけと言わんばかりに怒りの篭った声でいうフェリエ。その声に内心ビクつきながらもコクリと頷いて書斎に向かっていく。