レリレンとの戦闘
学校のグラウンドに立っていた。
見覚えのあるコートを見つけ、勝負の内容は実家でやった石投げらしい事を確認する。
「そういえばルールを聞いていませんでしたね」
そう聞く俺。コートを見ると。俺が実家でディラッチェと戦ったあの勝負と同じであるのは分かった。
細かいルールなどは知らないのだ。
「ルールは簡単だ。相手を全滅させたら勝ち。このチェスピースが出せなくなったら負けだ」
俺が精霊戦士と呼んでいたものはチェスピースというらしい。精霊戦士などと呼んでしまわないでよかった。
実家では石を投げ合っていたが、ここでは本体への攻撃は禁止らしい。
ディラッチェ……なんでそんなルールにしたんだ?
いらない怪我をする事になったじゃないか……
俺の場合はシィの回復魔法で傷を治したから体には傷ひとつ残っていない。
ディラッチェはどうしたのだろうか? 体に傷の跡なんかをいくつも残してそれが古傷になっているような事になっていたら、ちょっと罪悪感を感じる。
回復魔法といえば光属性のフェリエも使えるようになるはずだが……
俺はフェリエの方を見た。このおてんばが回復魔法を使えるようになるなんて全然想像ができない。
光魔法といっても回復魔法を覚えない人だっているらしい。『多分フェリエは回復魔法を覚えないだろうな』そう考えた後俺はレリレンの方を向いた。
「敵への攻撃方法は?」
俺が聞くとレリレンは答える。
「チェスピースの武器を使って攻撃をする。持っている槍なんかに硬化魔法をかける。できないならお前の負けになるぜ」
ニヤリと笑って言ったレリレン。そんな事だったら簡単だ。わざわざ石を使わないと攻撃できないのを面倒に思っていたくらいである。
チェスピースを出した。
俺は大真面目の顔をしていたのだが周りから笑いが起こった。
『あ……忘れてた……』
俺のチェスピースはいままでと全く変わらずビキニアーマーを着た女の姿だったのだ。笑いが起こって当然。
レリレンもそれを見て笑っていた。
「いいとこの出だとか言っていたが、こんな下品な奴だったのか!」
そのうち見た目を変えようとは常々思っていた。後でやろうと思い続け、ついには全く手をつけずに終わっていたのだ。
この世界に転生をする前のめんどくさがりな性格が、ここになって俺の心を突き刺すナイフとなったのだ。
「俺も出すぜ」
レリレンは言う。レリレンは斧を持ったチェスピースを出した。大きな斧を振りかざし、俺の方に切っ先を向けてきた。
「スグ終わらせてやるよ」
そう言いレリレンは開始の合図もなしに俺にチェスピースをけしかけてきた。
「開始の合図も無しですか!」
俺はそう言ってチェスピースを動かした。
投石器を出す。その投石器の石に当たらないようにレリレンは精霊戦士達を動かしたのだ。
投石器を操る人間型のチェスピースもロリ巨乳の女の子の姿だ。
それを見たギャラリーから、クスクスと笑う声がかすかに聞こえてきた。
その声に俺の心はくじけそうになる。だが、俺がショックを受けていようと敵は待ってくれない。
俺の投石器だって攻撃をやめなかった。
どんどんと石を打ち出した投石器。レリレンのチェスピースを確実に破裂させていった。
「あいつ、いまスッゲェ落ちこんでいるけど強いぞ!」
ギャラリーの中からそういう声も聞こえてくる。
『スッゲェ落ちこんでいる』は余計だ。
その言葉通り俺の投石器は石をガンガンと打ち出していった。
この石は特殊な硬化魔法をかけられている石だ。敵に当たったら一発で破裂させるのだ。
レリレンも、戦術というのを少しは理解しているらしい。レリレンのチェスピースは一番右側にある投石器に的を絞り始めた。
投石器は正面には攻撃できるが横腹から攻撃をされたら弱いのだ。それを分かっているから、一つ投石器を壊して横腹の位置を取り、一つづつ攻略をしていこうと思ったのだろう。
「それくらいは予測済み……」
一番横にある投石器の前に、巨大なシールドを持つ防御型の精霊戦士を出した。
もう笑いは起きないな……?
ギャラリーが気になって横目で確認したら、やっぱみんなニヤついた顔をしていた。
もういい。気にしないでおこう。
それを見てもレリレンのチェスピースは止まらない。レリレンのチェスピースは防御型のチェスピースを攻撃した。
それを盾で受け止める。
様子を見るに敵の攻撃には十分耐えることができるようだ。
それを確認した俺は顔を上げた。敵の攻撃から必死に耐える防御型。それを見て投石器を動かした。
投石器は自分の防御型のチェスピースを巻き込む攻撃をし、敵のチェスピースをまとめて吹き飛ばした。
「味方ごと攻撃だと……?」
レリレンはそれに驚いていたようだ。俺は次々に投石器の攻撃を仕掛ける。
どんどんとレリレンのチェスピースは破裂をしていく。
『ありゃ、パニック状態に陥ってるな……』
俺はそう思う。予想外の事態が起きて思考が停止しているのだ。レリレンにとっては自分の味方を巻き込んで敵を攻撃するという発想はなかったのだろう。
初めて俺と戦ったディラッチェのような姿だ。それを見ると、俺は懐かしい感じになった。
『レリレンには勝負の厳しさを教えて……あわよくば……軍師の道を諦めてもらおう……』
そう考える。そのためには、もっともっと完膚なきまでに叩き潰さなければならない。
どうすれば屈辱的でもう軍師を目指すような気が起こらないような、負け方をさせることができるだろうか?
俺は考えた。少し考えると俺は一つ名案が浮かびニヤリと笑ったのだった。




