フェリエの嫉妬は恐ろしい 死ぬかも知れない。
「これから先が本番だ。ディラッチェは学校で知識を得てから、挑戦をしてくるだろう」
そこからの帰り道に父が言った。
ディラッチェは学校に行くと言っていた。そこがどんな場所かはわからないが、新しく戦術を考える機会にも多く出会うだろう。
「いままでディラッチェ君は勉強嫌いでロードルの家は手を焼いていたらしい。目の前に分かりやすい目標ができるとやる気が出て来るものらしい。最近は勉強熱心になったとロードルの奴も言っていたさ」
そうである。敗北の悔しさを知ってディラッチェは努力を覚えた。それは俺に勝つためだ。
「ロドムにも目標が見えただろう。ディラッチェには二度と負けないと誓うんだ。それともお尻ペンペンでもして気合を入れ直した方がいいかい?」
この年でお尻ペンペンは勘弁していただきたい。
見た目は五歳児だといっても中身は四十歳なんだから。
「ロドムにはっぱは必要ないな。五歳でディラッチェと戦えたのは奇跡だが」
「それで満足はしません」
父の考えを先読みしてそう答えた俺。その返事に父は嬉しそうであった。
本来ならばこの勝利は奇跡の勝利であり、賞賛をされてもいいことであろうがそんな事は関係ない。
俺はディラッチェに勝たなくてはならない。何度戦う事があっても何度でも勝利で終わらなければならないのだ。
「家庭教師というのも考えたが」
俺には家庭教師など必要ないと思った。
俺の知識はそんじょそこらの家庭教師なんかよりも上である。
大学生がアルバイトでやるような、ハンパな家庭教師には負けない自信がある。
「私の部屋の本をいつでも持ち出してもいい事にする。しっかりと勉強をするように」
父がそう言うのに俺は「はい、もちろんです」と答える。
この世界にやってきてから俺は変わったと自分でも実感する。
このような厄介事に巻き込まれたら、昔の俺であればさっさと勝ちを譲っていただろう。今の俺はそんな気は微塵も起きない。
戦略シミュレーションをやっている時の感覚だ。勝ち負けに何も意味がなくても……何の意味もないからこそ熱くなれる。全力で頭を振り絞れる。何かを賭けていないからこそ気兼ねなく戦えるのだ。
「ここからが本番だ。今度は本当に本番だ」
父が言う。何かを俺に訴えようとしているようだ。
父が前を見て遠い表情をしているのを見て俺は父と同じ方向を見た。
その先には俺の事を待ち構えているフェリエがいた。フェリエの隣のほのは、今の状況が全くわかっていない感じでチョコンと座っていた。
「ご主人さまー! お帰りなさい!」
能天気に手を振りながら俺に挨拶をするほの。
フェリエは体中に光のオーラをたぎらせていた。それは俺の目でも見えるくらい強、明らかに俺を威嚇しているような様子だった。
「フェリエ君の尻に敷かれるなよ?」
父はフェリエの方に向かっていった。フェリエに二、三回、声を掛けると、家の中に入っていった。
俺は腹をくくるしかないな。
「我が四肢に宿りて地下よりの力を弱めよ」
そう思い俺は両手に闇の魔法を発動した。
グラビティフロウ
体に感じる重力の感覚が全てなくなり足元が地面から離れた。この魔法は空中を浮遊する事ができる魔法だ。俺はそれを調節して地面に足をつける。
地面に足をつけていないと素早く動けないのだ。この魔法は念じればどこまでも高く飛べるが、推力がないと、風に流されるだけでどこかあさっての方角に向かってしまう。
「ロドム様。浮気は許しますが」
そこでフェリエは言葉を止めた。
早く言えよ。
そう思いながら、俺は次の言葉を待った。
「キスをしたようですわね……」
そう言いながらフェリエは震えて魔法を使う。
「その羽は我が神に愛される証拠なり」
セラフフェザー
フェリエの背中から羽が伸びてきた。
その羽は六枚有りフェリエが天から降り立った天使のように見えるくらいに神々しかった。
「キスなんて、私でもまだなのにぃぃぃいい!」
そう言ったフェリエが俺の頭の上に魔法を落としてきた。
「天より落ちる槍よ! 敵を撃ち貫け!」
ゴッドスピアを俺の頭の上に落とそうとする。俺は地面を蹴ってそれをかわした。
「今頭を怪我してるんだよ! 傷口が開いたらどうする気だい!」
俺はフェリエに向けて言う。こんな事を言ったところでフェリエが止まりはしないのは分かっているのだが。
「うるさい! 死になさい!」
フェリエはそう叫び俺の頭の上にどんどんゴッドスピアを落としてきた。
つま先で地面を蹴るだけでそれらを回避していく。
「私が勝ったら! 私にもキスをしてくださいまし!」
「そんな事だったら! 今すぐにでもいいとも! こんな勝負なんてしなくても……」
おれがそう言うがフェリエは攻撃の手を緩める感じはない。
「勝負は別の話です! 聞くところによると随分にメイドとのキスに熱がこもっていたようでしたけど!?」
その答えを言うかどうかを迷った。
これを言ったらフェリエは納得するだろうか?
それともさらにキレるだろうか?
そう考えて迷ったのだ。
「何か言いたいことがあるなら言えばいいでしょう! 何を隠しているんですの!?」
フェリエもこう言っている。そういう事なら言ってやろう。
「楽しかったんだよ! ちょっと脅かしてやればすぐにアワアワ言うし、優しくすればそれだけで泣いて感謝をするし、すっごく可愛く見えたんだよ!」
俺はカミングアウトした。
「ああそうだ遊び半分だったよ! ちょっとからかってやるってくらいのつもりだったんだよ!」
「そんな相手にキスまでしたんですか! 許せません! 女の子の敵です! すぐにお仕置きですわ!」
俺の言葉にフェリエが言う。
結局戦うんかい。
何を言ってもとりあえずフェリエは俺の頭にゴッドスピアを落としたいようだ。
「お仕置きなんて受けないね! デイナには感謝をされてるし、いい気分にもなっただろうさ!」
「でも結局騙しているだけではないですか! 女の敵には変わりないですわ!」
俺とフェリエの口論は俺の魔力が切れるまで続く。
ディラッチェとの戦いで魔力を削っていた俺のほうが先に魔力を切らし、フェリエのゴッドスピアをくらうのだった。




