戦術というもの
自分のペンダントを取られないように守っているラッティ君に向けて歩いて行った。
「やめてください。ラッティ君が嫌がっているじゃないですか」
よそ行きの話し方で言う。言葉遣いについては親から厳しく躾られているのだ。うちの顔にドロを塗らないように、穏やかにはっきりとしゃべるようにしなさいとの事だ。
「勝負は勝負だぜ。ガキは引っ込んでいな」
お前もガキだろうがと思うが、相手は十歳くらいでこっちは見た目は五歳だ。そう言われるのも仕方ないだろう……
「勝負をしましょう。私が勝ちましたらラッティ君にそのペンダントを返すという条件ならどうです?」
それを聞いたらそのガキ大将はニヤリと笑った。
「バカじゃねぇの! 俺はこの戦いじゃ連戦連勝をしているんだぜ。お前に出せるものなんてあるのかよ?」
そう言われれば唸るしかない。こっちがラッティ君のペンダントを賭けろと言うからには、こっちも何か賭けるものが必要だ。
「フェリエとのデート権なんてどうです?」
俺は、フェリエに向けて振り向きながら言った。フェリエも、まだ五歳とはいえ、両親が美形なのもありなかなか可愛い。
そう考えるのは俺がロリコンだからではないはずだ。同い年の相手だしな。可愛いと思うのは不自然な事ではない。
「へぇ? いいのか?」
そう言いながらガキ大将はフェリエの事をチラチラと見た。その様子を見るとフェリエはこのガキ大将のおメガネにかなったらしい。
こいつもロリコンか? 同い年の俺と五歳違いのガキ大将では条件が違うはずだ。
その視線を見てフェリエは身をすくめる。
「ロドム様! いくらなんでもそんな約束は!」
そこまでフェリエが言ったところでフェリエに語りかけた。
「勝てばいいんだよ。それともフェリエはボクの事を信用できないのかい?」
「そんな言い方卑怯です!」
フェリエは言う。俺はそのフェリエをからかうために頭をコツンと軽く叩いた。
それでも、まだ不満そうにしていたフェリエだがそれ以上何も言ってこない。それを肯定と受け取りガキ大将との会話を続ける。
「戦いを見ていたからルールは大体わかっています。すぐに始めましょう」
俺はそう言うと丸が地面の上に書いてある部分に立った。
この丸から出ると負けとかそんなものなんだろう。ガキ大将も向かいにある丸の真ん中に立った。
「さあ! 始めるぞ!」
ガキ大将は言う。その直後、ガキ大将は魔法の詠唱を始める。
「我が下僕の精霊達よ敵を打ち砕く高潔な兵士になれ!」
そう言うと精霊がいくつも現れた。すべて、槍を持った古代の兵士のような姿をしている。
それらは槍をかまえ槍の切っ先を向けてきた。
精霊の具現化の魔法は知っている。詠唱を始める。
「契約に従い、我を守る、剣と化せ……我がヘタイロイよ!」
詠唱の内容はある程度自分でいじる事ができる。昔のギリシャの兵士たちの名前を出し魔法の詠唱とした。
これは、強力で逞しい兵士を想像しそれを具現化する魔法だ。
魔法を使うと魔法で作られた人型の兵士達が現れた。
「うわ……」
俺はそう唸る。言い訳をさせてもらうと転生前はオタクであった。
最近は男ががんばるようなアニメ作品より女の子が戦うような作品の方が多い。強く、逞しい兵士の姿をイメ-ジしたら、女の子ばかりになってしまうのはしょうがないことだろう……
言い訳を言い終えた後で何が出たのかを説明しよう。ビキニアーマーを着た女の姿をした下級精霊達が現れたのだ。それを見て肩を落とした。
昔オタクだった頃と変わっていないんだなぁ。
それを見てガキ大将は笑った。
「その年でそんなものに興味があるのかとんだエロガキだな」
十歳からそんな事を言われた。俺はショックで地面に膝をついた。
背後からフェリエが俺の背中を視線で突き刺しているのがわかる。これは無意識で出してしまったんだ望んで出してしまったわけじゃない。
心の中でそんな言い訳をしてもしょうがないか。
俺は立ち上がった。
「もう初めていいか?」
俺の出した精霊の姿にニヤニヤ笑いながらもドン引きをしているガキ大将は言う。ドン引きするか、ニヤニヤするか、どっちかにしやがれコンチクショウ。
少し落ち着いてから言う。
「お互いに名前を聞いていませんでしたね。私はロドム=エーリッヒといいます。あなたのお名前は何でしょうか?」
「ディラッチェ=ロードル……」
不機嫌そうにして言ったガキ大将。
ロードルといえばそれなりに力を持っている家のはずだった。だが自分の家より大きかっただろうかと考えるが、今はそれどころじゃない。この試合に集中しよう。
「始めてください……」
そう俺が言うと、ビキニアーマーの軍団がディラッチェの方まで進んでいった。
「先手必勝とでも言う気か? 甘いんだよ!」
ディラッチェは言った。こんな事で勝てるとは思っていない。
ディラッチェの精霊達は俺のビキニアーマーの集団に次々と石を投げつけてきた。
それに、俺のビキニアー……もうほかの呼び方を考えたほうがいいな。精霊戦士とかでいい。
精霊戦士達を下がらせた。
敵の攻撃には防御で耐えた。攻撃には回らず敵の攻撃から耐える事だけを考えながら後ろに下がる事を指示した。
「お前なんかが俺に勝てるワケがねぇだろう! 持っている魔力も違うしこのゲームに慣れてもいねぇ!」
ディラッチェは言う。
確かに魔力の強さは体の大きさで決まるという。体の中にある魔力は、体が大きいほど、多くを溜める事ができるのだ。
まだ五歳の俺と十歳程度のディラッチェには、魔力の量に開きがあるのだ。
そんな事は問題ではない。どんどんと味方の精霊戦士を自分の近くにまで引かせていった。
「ほら! 俺のほうが強いだろ!」
ディラッチェはそう言ってくる。それを黙って聞いていた。
彼の話に付き合うような時間はない。奥の手を出すタイミングをはかっているのだ。ディラッチェの精霊戦士達が、俺の精霊戦士達の前にまで迫ってくるのを見た。
ディラッチェの精霊が投げた石が足元に当たってくる。だが俺はそんな事を気にしてはいなかった。
一目見る限りでは、完全に劣勢で負けが決まっているように見えるだろう。この奥の手を見てフェリエとラッティの二人は度肝を抜くだろう。
「伏兵よ。時は満ちた。体に溜まった怒りを解き放つがいい」
そう詠唱をすると、敵の両脇に精霊達が現れた。
『やっぱりこいつらも同じか!』
ビキニアーマーを着た精霊達が現れ敵のディラッチェの精霊達に一斉に攻撃を始めた。
「全軍攻撃!」
この優位に立った事で興奮をしてそう声を出した。
調子に乗って、突出をしてきたディラッチェは、精霊たちがガンガンと落とされるのを見て、パニック状態に陥っているらしい。
右往左往をするディラッチェの精霊達。
このように半包囲をされた経験なんて無いのだろう。
前や左右から石が飛んでくるのに、それに対応できずに次々と自分の精霊が倒されていくのを黙って見た。
もちろん精霊の数や質ではディラッチェの方が上である。戦術を少し考えるだけでも軍隊の強さというのは変わってくる。
こんな簡単な伏兵戦術一つで勝てるようなものなのである。