メイドを、モノのように扱う楽しみ
いつもの川原に呼び出された。今回ばかりは一人でやってくるとことができなかった。
この戦いは父と母。シィを始めとした使用人達も観戦している。
俺の父はロードルの主人と隣同士になって何やら話している。その近くにほのもいる。
「使い魔くらい用意してきているんだよね?」
ディラッチェに向けて挑発的な事を言う。ディラッチェは怒りを隠そうともせずに奥歯をかんだ。
こういうところがダメなのである。試合前から戦いはすでに始まっている。挑発に簡単に乗ったり大した作戦を立ててこなかったりすると、戦う前から負けているようなものだ。
服の下にいくつものブラックオニキスのブローチを取り付けており魔力のタンクの用意も十分だ。
まあその点においては相手も抜かりがないだろう。ディラッチェなんかは見えるところにも、ルビーの指輪や、ルビーのピアスなどを身につけていた。
「それじゃあ始めようか」
「お前の方から勝手に始めるな!」
おお。イラついてらっしゃる。
完全に挑発に乗ってくれているようだ。それを見てニヤつきたい気持ちになったが、ぐっと堪えて余裕のある顔でディラッチェの事を見た。
「ディラッチェ! 挑発に乗るな!」
この勝負の審判をするのは、うちの父とディラッチェの父の二人だ。
ディラッチェの父の合図で試合が始まる事になっている。ディラッチェの父は勝負を始める様子はない。
ディラッチェが平常心になるのを待っているのだろう。ディラッチェの父はディラッチェの事をじっと見ていた。
「この勝負。賭けをしましょう」
「何?」
反応をしたディラッチェ。ディラッチェの父はそれを面白くなさそうにして見ている。
これから話すのはもちろん挑発だ。そんな事わかっているだろう。だが勝負に口出しは厳禁だ。さっきディラッチェに挑発に乗らないように注意したのも、本来やってはいけないことであった。
「僕が勝ったらデイナをうちにください」
それを聞いてディラッチェは俺の事を見た。
「どういうつもりだ? あんな使用人一人」
口調がおかしい感じがする。ディラッチェがこの申し出をどう思っているかは、分からないが見ようによっては十分動揺をしているようだ。
「単純にキミのところにその子を置いておくのは忍びなくてね。炎天下の元でうちの事を監視させたり、食事もロクにとれないというじゃないか」
デイナの言った言葉を思い出して言う。
デイナの扱いは相当悪いようだった。食事は付け合せのキャベツやパセリだけだったり、炎天下の下で一日中人の家を監視させたり、ただの使用人に対する扱いとは思えない。その扱いには悪意すら感じる。
その旨を伝えるとディラッチェはまた俺の方を見て歯噛みをしていた。
「使用人の扱いをお前にとやかく言われる事は……」
「今話しているのは、デイナを賭けて戦うかどうかの話ですよ」
俺がそう言うのを聞くとディラッチェは舌打ちをした。
「なら、俺が勝ったらシィっていうメイドをもらうぞ」
「いいでしょう」
俺がそう答えたのを聞いてシィは驚いていた。
「ちょっと! ロドム様!」
「諦めなさい。ああいう人なの……」
シィに向けてそう言うフェリエ。それだけ聞くとシィは俯いた。
「絶対勝って下さいよ! ロドム様!」
「何を言うんだい! 僕が負けると思っているのかい!」
そう言うとシィは黙った。こう言われたら仕方がない『負けると思っている』なんて言うわけにもいかないのだ。
それがわかった上で俺も言ったのだしな。
「お前の方が扱いは悪い気がするけどな」
ディラッチェは言う。こっちのやりとりを聞いて、ディラッチェは少し落ち着いたようだ。それを聞いてニヤリと笑った。
「君こそ僕に勝てる気でいるのですか?」
そう挑発をするがディラッチェはそれを聞いて、気分を落ち着けてしまったようだ。
「勝つつもりでやっているに決まっているだろう」
挑発のやりすぎでむしろ敵を落ち着かせてしまった。小さく舌打ちをして、ディラッチェに向けて意識を集中させた。
ディラッチェが気持ちを落ち着けたのを見てディラッチェの父は試合を開始させた。
「始め!」
ディラッチェはすぐさま精霊戦士を出す。だがいままでより数が少ない。おそらく魔力を温存しているのだろう。
俺だっていくらか数を出す。だが当然魔力を全部使って出すわけもない。
今の状態ではディラッチェの精霊戦士の数は俺の精霊戦士の数よりも多い。その上ディラッチェの使っている精霊戦士は、いつもの槍兵ではなく胸あてのような軽い鎧を着込み大きな斧を持った姿の精霊戦士だった。
「見る限りでは攻撃型かな?」
なにかの能力に特化をした精霊戦士を作れる事はディラッチェでも分かっているだろう。これは攻撃力に特化をさせた精霊戦士のようだ。
予定通り防御に特化をさせた精霊戦士を並べた。
その後ろに投石器の形の精霊戦士を呼び出した。
「撃て!」
『この言葉はどこかで言ってみたかったんだよな』
どこかで大軍を指揮しこうやって指示を出すことを望んでいたのだ。俺の指揮によりものすごい勢いで石がディラッチェの精霊戦士に向けて打ち出された。
投石器の威力はすさまじくディラッチェの精霊戦士に当たり、数機の精霊戦士がまとめて破裂していった。
ディラッチェは、『こんなの聞いていない』といった感じの顔をしていた。そしてデイナの事を睨み出す。
「デイナのせいにしちゃダメだよ。手の内を全部見せるわけがないじゃないか」
俺は余裕の表情でディラッチェに向けて言った。
その間にも次々石を打ち出してく。時間が経つにつれディラッチェの精霊戦士たちは、次々に破裂をしていった。
「そうだよね。前に出ていくしかないよな」
そう言う。その言いようにディラッチェは少しばかり頭に血が上っていったようだ。
隊列の組み方が雑になってきている。これなら攻撃をされても痛くないだろう。
こちらに向かってくる精霊戦士たちは投石器でどんどんと数が削られていった。
こちらの懐に飛び込んでくるまで半数しか数が減っていない感じだろう。これから今出ている残りの半数の相手をしないといけないし、ディラッチェが出していない魔力の分の伏兵も残っている。
これからどう戦うかを考えた。
ディラッチェもそろそろ知恵をつけてきている。真正面からのぶつかり合いになったら勝てない。それらの事を考慮して作戦を頭の中で巡らせた。
それは重荷でもなく恐怖も感じない。戦いであるというのに何の気負いも感じないのだ。
俺はディラッチェとの戦いを楽しく感じている。




