やっぱり、デイナをいじめるのは楽しい
俺は覚えて間もない魔法ワームホールを使って、デイナの真後ろに移動したのだ。
「何か掴めたかい?」
デイナの耳元でそう囁くとデイナは驚いて振り返ってきた。
「待って」
俺がそう言うがデイナは思いっきり後ろに下がり、うちの垣根にぶつかり足を取られていた。
デイナは思いっきりすっ転んでいたのだ。俺はたまらず吹き出す。
「慌てすぎだって。あれで隠れているつもりだったの?」
デイナの事を見つけたのはシィである。まるで俺が自分で見つけたかのようにして物を言う。
この子をからかうのって、面白いんだもん。
「朝からご苦労様。これ、食べて」
そう言って、俺は転んで怯えているデイナに向けてコップと皿を出した。
デイナは食事を出すとすぐに飛びついていきた。
「こんなに美味しいものを食べたの、初めてです!」
そう言い泣きながらジュースとサンドイッチにかぶりついていた。泣くことないだろう。
デイナはボロボロと泣きながらサンドイッチを齧っている。
「普段どんなものを食べているんだい?」
こんな簡単なもので泣くほど喜ぶとは思っていなかった。俺はそう聞くとさらにデイナは泣き始めた。
「私の順番は、最後なんです。みんなが食べたあとだから残っていないことも多くて」
使用人は主人の食事の後に食事をとることになっている。その時、先の人が食事を食べきってしまえば、後の者に食事が残っていない事もありえる。そういう場所もあるらしい。日本よりも恐ろしい年功序列の世界である。
デイナが言うとおりなら食事がなしの日もありえるのだ。
「普段も盛り付けのパセリやキャベツしか残っていなくて、こんなものを食べたことは一度もないんです」
「奉公先を変えたほうがいいんじゃない?」
俺はおもわずそう言う。
だがそう言うと、イナは俺の事を見上げて潤んだ目で俺のことを見上げてきた。
そうだよな。奉公先なんてそんなに簡単に決められれば苦労はない。
運良く貴族の家に生まれることができた。だがそうでない人は貧しい暮らしをしているのだという。
文字を習う方法もなく、仕事の類も貴族の世話にならないとロクなものにつけない。
「なんでもない。悪かったね」
そう言う。
この子の世話なんてしてあげることなどできないのだ。
「それじゃ。失礼のおわびに一つ教えてあげよう」
防御型の精霊戦士を出した。
「どうやら精霊戦士はいろんな型を作ることができるようなんだ」
胸当てと脚絆と手甲だけを装備した精霊戦士の事を見てデイナは身を引いていた。
「そういう態度をとられると、こっちもちょっと落ち込むんだけど」
それでも気を取り直して話を続けよう。
この防御型は次のディラッリェとの戦いで使うつもりでいる。この精霊戦士で時間を稼いでその間に攻撃をするという戦法と取るつもりである。
そう教えるとデイナはこくんと頷いた。
「そんな事を教えてくれるんですか?」
デイナは言う。本音を言えばデイナの事が気に入ったからだ。この子には、なんかいじめたくなるような雰囲気がある。俺の加虐心をそそる何かがある。
さっきもちょっと虐めたしそのおわびをかねて自分の作戦を伝えたのもある。
そんな事を言うわけにもいかない。俺は別の理由を用意する。
「だってキミ。何か情報を持ち帰らないと帰れないんだろう?」
そう俺がデイナに聞くとデイナはおずおずといった感じでコクンと頷いた。
「こういう事だよ」
そう言うと俺は口調を変えて言った。
「家の周りをうろうろされると迷惑なんだよ。欲しいものはもう手に入ったんだからさっさと自分の家に帰れ。それともここで焼き殺される方がいいかい?」
それでデイナは驚いてたじろいだ。デイナは俺の事を恐怖の目で見ている。こういうところが、デイナはかわいいんだよな。
心の中で悦に浸りながらも俺はデイナの事を見下ろしながら言う。
「帰らないって事は焼き殺されたいのかな?」
そう俺が言うと犬の姿になったほのが俺の隣にやってきた。大きく口を開くと俺はほのに命じて火を少し吐かせる。
ちょっと威嚇のために吐いた炎だったが、それでデイナは必要以上に驚き、逃げて行ってしまった。
それを見てこらえ切れずに「くっくっく……」と笑うのをほのは見ていた。
「追いましょうか? 奴めをかみ殺してまいります」
そう言いほのは飛び出していこうとした。それを手で制して止める。
「あんだけ脅せば大丈夫だろう。追わなくていいって」
俺はそう言ってほのの事を連れて家に戻って行った。




