シィとフェリエを離れさせ
「ティラッチェはどうなの? また勝負を仕掛けてくるんじゃないですか?」
フェリエはそう言った。
フェリエがうちにやってきた時、俺はシィには家の中にはいるように言い、フェリエには俺の隣に座るように言う。
ふたりともしぶしぶといった感じだったが、俺の言葉を聞いてその通りに動いた。まだお互いに言い合いたい事もあるんだろうな。
シィは家の中に戻る寸前にフェリエに一瞥をくれてから家の中に入っていった。
どうやら、シィとフェリエの二人は戦わないといけない仲のようである。そうでもしなきゃ二人も禍根が残ったままだろう。
俺が見張りをしながらでどこかで勝負をさせないといけない。
今のフェリエは俺の隣に立ち、俺が渡した牛乳を飲んでいる。
「冷たく冷やされた牛乳は最高ですね」
フェリエの言葉に俺は同意した。つめたくなった牛乳は飲み過ぎると腹を壊すだろうが、それでも抵抗のできない旨さがある。
これはシィが買ってきたものであるという事は黙っておく。
「ディラッチェは確実に勝負を挑んでくるよ。多分勝つまで続けてくるつもりだと思う」
俺がもし負けたとしたら父あたりから、ディラッチェと戦って勝つように指示が来ることだろう。
どっちが勝っても、どっちが負けても、この戦いは決着をしない事だろう。
「訓練などは、しなくてよろしいのですか?」
フェリエが聞いてくる。言われるまでもなくほのと一緒に訓練をしていたところだ。今、防御型と攻撃型の精霊戦士を作ってシィと戦いの試運転をしていたのだ。
それをフェリエに話すと顔をぱっと輝かせた。
「ロドム様! やはり次の戦いの事を考えておいででしたのですね!」
やけに持ち上げてくるフェリエ。
フェリエの考えも分かるというもの。五歳も年上のディラッチェに何度も勝っているということだけでもすごい事なのだ。
父や母からは将来が楽しみにされていることだろう。
「フェリエは幸せです」
そう言いフェリエは頭をコツンと俺の肩に当ててきた。
「だって、ロドム様みたいな許嫁に恵まれたのですから」
フェリエが言うのに俺はドキッとした。
フェリエは苦手な感じしか感じてこなかったが、ここにきて俺の事を見つめて顔をあげるフェリエの姿を見たのは初めてだった。
「ロドム様。正直に言いますと私は浮気は許します」
フェリエが言う。
ニコリと笑いながら言うフェリエ。フェリエはおもむろに俺の口の中に指を入れてきた。そして両手の指で俺の口を広げる。
『フェリエ? どうしたの?』
そう言おうとしたが口を広げられているためほがほがといった声しか出せなかった。
「最後に私のところに戻ってきてくれさえすれば」
大人な考え方を言ってきたフェリエ。そう言うとフェリエは、俺の口から指を抜き俺の唾液で濡れた自分の指をなめて俺のヨダレを拭き取った。
それについつい赤面をしてしまう。俺が動揺をしているのをみてフェリエは可愛く笑った。
「さっきの妾の話かい?」
フェリエにそう聞いた。フェリエはクスリと笑いながら言う。
「そうですよ。あのメイドのことが好きなら、いかようにでもしてくれていいです」
フェリエにこんな可愛い顔ができるのだろうかって、思うくらいに可愛い笑顔をしていた。
「ただし」
そう言い出すとフェリエの顔が一気に鬼の形相になった。
「彼女との決着だけは付けさせてくださいまし」
フェリエはシィに負けているのだ。リベンジをしたいという気持ちはわかる。
「その時は僕も同行させてもらっていいかな?」
「いいでしょう! あの駄メイドの事を一瞬だなぎ倒してごらんにいれましょう!」
闘志を燃やすフェリエのことを見て俺は『絶対に止めなくては』と思ったのだ。
「さっきの話聞こえていましたよ」
家の中に戻るとシィが言った。
今はフェリエが帰ったあとだ。
あれからフェリエも闘志を燃やしっぱなしというワケでもなく、あれからすぐに可愛いフェリエに戻っていった。
それから『ごきげんよう』と俺に向けて言い家に帰っていったのだった。
あの時の笑顔を思い出すとどうも顔が赤くなっていく。
「フェリエさんの言った事私も賛成です……」
シィが言う。
「たしかに私はメイド風情ですよ……」
そう今晩の夕食の料理をしながら言うシィ。
「本来ロドム様の近くにいれるだけで満足をするべきなんです……」
シィは言う。
「しょせんメイドですからね、ご主人様には逆らえませんよ。それなのにフェリエ様は私と対等の位置に立って。一緒になってケンカをしてくれます」
確かに普通の家ではこんな事はまかり通らないだろう。主人の許嫁に逆らっていては、いつ暇を出されてもおかしくないはずだ。
こうやって一緒に遊んでくれるだけ、フェリエと俺は特殊なのかもしれない。
「ロドム様…」
そう言いながらシィは俺の耳に顔を近づけてきた。
「あの子を見てどう思いますか?」
シィは目線だけで窓の外を刺した。
俺がそっちの方向を見ると、一人のどこかの家のメイドが垣根の後ろからこちらを見てきていたのだ。
どこかの家とは言うがあの顔には見覚えがある。デイナだ。
「そんなにじっと見ないでください。あの子に気づかれます」
小さな声で言うシィ。そうして、何でもないようにして料理の続きを始めた。
「今日の朝からずっといましたよ。偵察のつもりなのでしょうね」
シィはそう言うとジュースの入ったコップを俺に渡してきた。
「あの子みたいに使われるのが本当の使用人の使い方ですわ」
ああやって無茶な事であろうと押し付けられて、それに逆らうこともできない。もしかしたら『何か、情報を掴むまで帰ってくるな』とでも言われているかも知れない。
「朝から何もたべていません。あの子に渡してきてくださいますか?」
俺はシィにジュースの入ったコップにサンドイッチの乗った皿を渡された。




