転生先の世界で
丘の上に登って自分の屋敷とその周辺を眺めていた。
この丘の下には自分の屋敷から一般庶民の家、または他の貴族たちの家が建っていた。
今五歳だ。精神年齢ならもっと上をいっているのだが、この世界で埋めれたから五年しか経っていないので、そういう事になる。
前の世界の記憶を持ったままこの世界にやってきた事もあり、いつの間にか『神童』などと呼ばれていた。
この世界の人間が知らないような特殊な知識を持っている『神童』。
この世界の人間からすればいろんな知識を持っているのは『神から授けられた知識』という事に見えるらしい。
自分の持つ知識は前の世界に生きていた時の知識を話しているだけだと言っても、案の定誰も信じなかった。
周囲からは年不相応に落ち着いた子供といった評価を受けている。
この年になって近所の子供達と一緒に遊ぶ気になんてならないし、大人と一緒になって遊びなどをしようにも五歳の子供が酒や博打の世界などに連れて行かれるはずもない。
「ロドム様。またこちらにいらしたのですか?」
子供特有の甲高い声で声をかけてきたの俺の許嫁のフェリエ=ドロランドだ。最初は、許嫁などというものには抵抗があったが、この子は思いのほか可愛いしフェリエも俺の事を慕っている。
許嫁というのもいいものだなと思う。
「ロドム様。ロドム様が特別な存在であるのは、私も重々承知しているのですが、周りから浮いてしまうのはどうかと思いますわ」
フェリエはそう言ってくる。彼女の燃えるような赤髪は、気の強いイメージを見せるのだが、本来は、甘えん坊の泣き虫だ。
これくらいの子供だったらそれが普通なのかもしれないが。
こんな事をしていたら、周りから浮いてしまうとか、フェリエも随分と大人びた事を言うものだ。
それも五歳児にしてはの話。五歳だった頃は周囲の目を気にして友達を作るとか、そんな計算高い事まで考えなかった。
この辺のガキ大将なんかと遊び、暗くなったら『また遊ぼうね……』などと言い合ってお互いに家に帰っていく。
それを思い出すと俺はふと懐かしい感覚になる。
フェリエの言う事ももっともだ。
こんなふうに遊んで過ごせる時期なんて、あっという間に過ぎ去ってしまう。元々は三十五歳だった俺にはそれが痛いほどよくわかっていた。
「ありがとうフェリエ。こんなところでじっとしていてもつまらないもんな」
昔はもうちょっと乱暴な言葉使いをしていたが、こんなに柔らかく話すようになっている。
子供らしく振る舞い生意気な事を言わないように注意しているというのもあり、家の教育で言葉使いまできっちり教育をされているのもある。俺が美形に生まれたのもあった。
出る杭は打たれるのは前の世界でもこの世界でも変わらない。
神から知識を授かった可愛い許嫁のいる美形の男の子に、人の反感を受けるような要素なんていくらでもある。
大人しくしているのが一番いいのだ。
「ラッティ君が向こうの川原で石投げをしていますよ。行きましょう」
石投げとはまた危険な遊びをするものだ。
最初の頃はそう思っていたが、子供の安全が声だかに掲げられる現代になってからの考え方だ。
昔は日本でも子供同士のケンカや、ケガをするような遊びなどいくらでもやっていた。
俺が子供の頃から危険な遊びは見直されるようになって、小学生の頃に高い登り棒やうちの小学校の名物の高いすべり台が撤去をされて地を這うような高さの遊具が変わって設置をされる事になった。
危険なことをやっているんだろうな? そう思いながらフェリエのついて川原にまで行くと、そこでは精神年齢が四十歳になる俺でも『面白い』と感じるような遊びをやっていた。
この世界には魔法がある。
魔法があって精霊と契約をする事もできる。その契約に基づいて人は低級精霊を自分の意のままに動かす事ができる。
ガキ大将たちは、その低級精霊達を使って石投げをし合っていたのだ。
精霊は石を拾ってそれを敵の精霊に投げつける。石を投げつけられた精霊は爆発四散する。そうして、どんどんと精霊の数が減っていき、遂には本丸である魔法の使用者本人にまでその石が飛んでいく。
石をガンガンと投げつけられた者は降参をしてそれで勝負は決まる。
中世の戦争の矢の打ち合いを見ているようであった。
「降参! こうさんだよ!」
そう情けない声を上げたのはラッティ君だ。隣の家に住んでいる子で親は下級貴族で本人も頼りげのない子だ。
「ははは! なら、お前のそのペンダントは俺のものだな」
物を賭けて戦っていたんかい
昔の遊びのメンコとかもお互いに自分のメンコを賭けて戦っていたらしいしな。
これも勝負の世界だ。そう呑気に考えていたが、ラッティ君はそう言われ驚いて目を丸くした。
「勝負に何かをかけるのは当然だぜ。いつも大事そうにしているからにはすげえ値打ちの物なんだろうな」
なんかこのガキ大将はオヤジみたいな事を言い出すな。
この少年はガキ大将でいいんだよな? 後ろに取り巻きみたいな子が二人いるし、大柄でこの年にしては貫禄がありまくる体格をしている。
ガキ大将の見本のような奴だった。
「ラッティ君。あれはお父さんからもらった大事なペンダントなんですよね」
フェリエはそう言う。
昔からの付き合いである。ラッティ君はいつもそのペンダントを肌身離さずに持っていた。
王宮で働いていて、なかなか帰ってくることのできないお父さんからもらったペンダントなのだという。
それ自体はそこらので店にでも売っていそうな安物のアクセサリだが、本人にとっては命と同じくらい大切なものだのだろう。
「ロドム様。なんとかなりませんの?」
フェリエは俺の事を見つめながら聞いてくる。それを聞いてうーん……と唸った。
「なんとかなるかも知れない」
俺がそう言うとフェリエは顔を輝かせた。