フェリエとシィの戦い 1
「そんな事があったのでございますか。教えてくれれば良かったのですのに」
フェリエはそう言う。
今、昨日ディラッチェと戦った川原にまでやってきていた。そこで、昨日のディラッチェとの戦いの話をしたのだ。
今はお昼を食べた直後の時間帯である。川で遊ぶも一緒にのんびりするもいい。今はフェリエと隣り合って座っていた。
最近、フェリエはその合っているか間違っているか分からないような話し方で話してくる事が多くなった。
そうしながらほのの事を睨むフェリエ。
ほのはそれを見て犬の姿ながら冷や汗を流した。
ほのは属性的にも、立場的にも、フェリエには弱い。蛇に睨まれたカエルのように、じっとしている事しかできないわけである。
本来ならば俺の後ろに隠れたいところであろうが、そうすればフェリエが怒り出すだろう。ほのも少しずつ空気が読めるようになってきた。
「川で遊んできたらどうだ?」
俺はほのに向けてそう言う。ほのはこくりと頷いて川の方に走っていった。
「日差しが強いな」
俺がそう言うとフェリエはカバンの中から傘を取り出した。その傘には取っ手しかない。だがフェリエがそれに魔法をかける。
「燃えるような日差しを遮り暖かな光と化せ」
フェリエがそう言うと光の傘が現れた。太陽からの日差しを遮り心地よくなる程度の光を放ってくる。
取っ手を地面にさすとその傘は俺とフェリエをちょうど良く包む大きさの傘になる。
「ごめんなさいね。使用人の分の傘はないの」
フェリエが言う。その一言でほとんどの事がわかった。
ここで振り向いたらシィがいるんだろうな。そう思たので俺はあえて振り向かなかった。
「そうだ! いまから水浴びをしに行こう!」
不自然なのは分かっている。俺はこの状況から逃れるためにそう言って川の方に向けて走っていった。
「逃げましたわ」
「逃げられました」
フェリエとシィは口々に言う。
俺その言葉を背中に聞きながらほのが遊ぶ川にまで向かっていった。
「はっきりさせないといけない事がありましたわ」
「そうですね。これだけははっきりさせないといけない事がありました」
シィとフェリエは同時に同じことを言い合う。
「どちらが強いか?」
そう言ってシィとフェリエは睨み合った。
その様子を川から見ていた。これは無視するわけには行かないかなと、思いながら二人のところに向かっていった。
「二人きりにしたのは問題だったかな」
ついさっきまでの自分の行動を思い出しながらそう言った。
なんとかして二人をなだめておけばこんな事にはならなかったのだろうと思う。今になってそんな事を考えてもしょうがない。もう戦いの準備は終わってしまったのだ。
「シィも。無茶するよな」
いくら月が光属性の相手を得意としていようと、ちょっと訓練をしただけでフェリエに勝てるものではない。
フェリエはこの先最強の名を欲しいままにする魔術師になる未来が見えている。
俺が弱点属性だからではなく単純にフェリエは強いのだ。
「準備は済みましたでしょうか? 忘れ物でもあればとってきてもよろしいのですよ」
シィが言う。こんなあからさまのな挑発をするなんて彼女らしくないと思う。それだけ自信があるのか、それともただの去勢か。
フェリエはその挑発に簡単に乗ってしまっている。
「どちらがロドムにふさわしいか? 勝負しましょう! 泣いたって許さないですわ!」
フェリエが言う。そのお嬢様言葉が激しく苦しいと感じるのは俺の間違いだろうか?
この戦いの趣旨はだいたい理解している。試合に勝ったからって、おれがなびくという意味にはならないだろう。
白黒をはっきりつけたいという二人の考えであれば理解できないこともない。
「はじめ!」
コートの中心に立った俺は、そう言い中心から離れていった。
シィから声を上げる。
「かりそめの月よ! 我が前に姿を表せ!」
シィのつかった魔法を見て俺は驚いた。これは月魔法を使うために自分の頭上に月を表す魔法だ。
こんな魔法があるのなら俺が辺りを夜にする魔法なんか使わなくても、月魔法は十分に使えるものだろう。そのシィの頭上に光の柱が落ちた。
「天より落ちる槍よ! 敵を撃ち貫け!」
ゴッドスピアという魔法だ。
フェリエがその魔法を使うとシィの頭上に光の柱が落ちていった。そのゴッドスピアはシィの頭上にある月に命中した。
「そんなもの打ち砕いてやりますわ!」
フェリエが言うのにシィはニヤリと笑った。
「この月に攻撃をしてよろしいのですか?」
シィがそう言うがこの月を壊さない限り光魔法はシィには届かないし、月が壊れればシィは月魔法を使えなくなる。月を狙うのは、当然の戦法と言えた。
「私の魔力よ! 矢となり敵を撃ち抜け!」
シィが「ライトアロー」の魔法を使う。それは全ての魔法の基礎となる無属性の魔法だ。
いくつもの光の矢を作り出して敵を攻撃する魔法である。
「この!」
フェリエが叫ぶ。攻撃を直接食らっても大したダメージにならない。石を投げつけられたくらいの痛みを感じる程度だ。この程度の攻撃なら詠唱の邪魔くらいにしかならない。
「なるほど、私の詠唱の邪魔をして月を守ろうとしているんだろうけど」
フェリエは言う。フェリエはそう言いながら無理やり詠唱を続ける。ゴッドスピアがまた月に叩きつけられた。精度というか威力というか、そういったものが著しく欠けているように見える。その魔法でも月に亀裂が走る。それを見てフェリエはニヤリと笑った。
それを受けてシィもさらにライトアローを撃った。
フェリエの詠唱の邪魔はできないようだ。フェリエはまたもゴッドスピアを放つ。
シィの生み出した月の亀裂が大きくなっていく。
その状況にもシィはまったく臆さずにライトアローを撃ち続けた。
このままじゃ、月が壊されちまうぞ。シィはどういうつもりだ?
そう思った瞬間である。シィは大きな声で言った。
「準備は整いました!」
その言葉の意味に気づいて俺は度肝を抜くことになる。