裏切りの代償
メイレナとテルシオの話は、難航をしていた。
そりゃそうだ。テルシオとしては、戦争の賠償金を支払わせたい。メイレナはすぐに敵には撤退してもらいたいと、いうもの。
「そっちから勝手に攻め込んできておいて、賠償金を払えってのは、無茶がすぎます」
メイレナが言う。
「だが、この学校を武装しなければ我々もこの学校を標的にする事はなかった。むやみにこちらの恐怖を煽ったそちらに責任がある」
テルシオは言う。
こんな話、普通だったら通らないが、そこは政治の世界だ。
テルシオだって、こんなの言いがかりであるというのはわかっているだろうが、出征に出た貴族達に何か手土産の一つでも掴ませないと、テルシオ自身が危ない。戦争は国の利益のため、そして、個々の利益のために行われるのだ。出征をして戦利品を得ず、仲間も何人も殺されて帰ってきたとなっては、完全に『敗北』である。
貴族の出でもなく、大きな後ろ盾もないテルシオにとっては『負けて帰ってくる』ことは命取りだ。
そんな事情で、あるのはだいたいこっちだって想像が付いているが、こっちだって、そんな事のために土下座外交をやらなきゃならないなんて事はないはずである。
こんな話はまとまるはずがない。
「この話はここで終わりですね」
メイレナが言う。
メイレナは、車椅子を逆走させた。テントから出て行こうとしている感じだ。
「いい返事が返ってくれば、無事に帰らせたのですが……」
テルシオが言う。
「出番だね……」
俺はそう言い、ワームホールを使った。このために組織したのは、俺の知っている仲間たちだ。
「こんな時だけ呼び出しやがって……」
そうぶつくさ言うディラッチェ。
「ごめんなさい。うちの子は口が悪くて……」
その言葉をフォローするデイナ。
「誰が『うちの子』だ!」
そう言い、デイナはディラッチェから羽交い締めにされた。
「作戦の直前にケンカはやめてくれ……」
俺が言うとディラッチェは舌打ちをした。
「この話はあとだぞ……」
ディラッチェはそう言う。
「きゃー……ロドム君助けてー」
呑気な言いようで言うデイナ。
そこで話は終わり、俺はデイナを通して見ているテルシオとメイレナの会話を聞いた。
『首の一個でももって帰らないと!』
テルシオがそう言う。俺達はすぐにワームホールに飛び込んでいった。
こちらは、メイレナとテルシオの話し合いが行われているテントの中。
幕の中から、兵士がでてくる。全員魔法のローブを着た姿だった。胸に胸当てを付けられている完全な戦闘服だ。
メイレナは周囲を見回して言う。
「やはり……こんなことだろうと思いました」
メイレナはそう言った。
その言葉に返事もせずに、テルシオは指示を出した。
「撃て!」
そう言うと、メイレナは車椅子を逆走させた。
そうするとちょうどその直後にワームホールが生まれ、メイレナは黒い穴の中に飛び込んでいき姿を消していった。
「これは罠だ!」
テルシオが言う。まったくどの口が言うのか? という気分である。そっちがこっちを罠にはめようとしたというのに……
その直後に俺達は、テントの外にワームホールで出た。
「裏切りの代償ってやつを払ってもらおう」
俺はそう言う。その直後に俺は笑いだしそうになった。別に俺はテルシオの事を信じた事なんて一度もない。『裏切り』なんて、綺麗な言葉を使うのはこの場にはまったくそぐわないのだ。
俺はデイナに指示を出し、虫を光らせた。テントの周囲の場所に五つの光っている場所が見える。あそこが伏兵の潜んでいる場所であるのだ。
「撃て!」
俺はそう言った……ていうか、そう言うことしかできない。俺はロクな攻撃魔法を持っていないため、なにも手出しができないのだ。
フェリエのゴッドスピアが、光る場所に思いっきり叩きつけられた。
土魔法の使い手であろうと、そんなに早く土の中を移動できるはずもない。なにもすることができず、フェリエのゴッドスピアで潰されていく仲間を見て、次は自分が潰されると思うと、その恐怖感はハンパないものだろう。
フェリエは『ここが最大の見せ場だ』と思っているようで、思いっきりはり切っていた。
ディラッチェとファンクラブの三人はそれぞれ一人ずつ敵を魔法で丸焦げにした。
「テルシオに裏切りの代償を!」
俺がそう叫び、テントを指さした。
二度目ともなれば、俺もさすがに笑わない。本当に心の底から俺は『裏切られた』などと思っていないのだ。
その言葉の直後に、フェリエはゴッドスピアをテントに叩きつけた。
フェリエのゴッドスピアはテントを思いっきりたたきつぶしたのだった。
「撤収!」
俺がそう言い。ワームホールを作り出し、学院まで撤退していった。
その後、テルシオはどうなったのだろうか?
メイレナは俺達が撤退したあとも、テルシオ達のすべてを見ていたようである。
「テルシオ……ケガはない?」
テルシオはローティに揺り起こされた。
「ボク……生きてるの?」
テルシオは言った。
光の柱に潰されそうになり、頭に衝撃が走ったところまでは覚えている。
「生きているよ。ほっぺをつねってあげようか?」
ローティは言う。
「いや……遠慮しておく」
そう言うが、ローティはそれでもテルシオの頬をつねった。
「いたたたた……爪を立てないでくれよ……」
テルシオがそうやっていたがるのをみたローティは、クスリと笑って、テルシオから手を離した。
「こんな卑怯な方法で攻めて来るなんて……」
ローティが言うのに、テルシオは俯いた。実際に卑怯なのはこっちの方である。
テルシオが上を見上げると、『木』がたっていた。
これがローティの魔法だ。彼女は『木』属性の魔法が使え、その力でフェリエのゴッドスピアの威力を防いだのだ。
『木』の頭頂が、潰れているのが分かり、それがフェリエの魔法の威力を物語っていた。
「でも、フェリエとかいう子の威力はこの程度……」
そう言い、ローティは口の端をすこし釣り上げた。
これは勝利を確信でもしているような顔であるとテルシオは感じた。
「倒せるかい?」
テルシオは聞いた。
「多分いけるよ」
そういうローティ。ローティはそう言いテルシオをさらにギュッと抱きしめた。