愚かな敵
『敵が攻めてきましたよ……』
俺の頭の中に、そうメイレナの念波が飛び込んできた。
「どうやって? この状況だよ?」
俺がそう言うと、メイレナはそれに対して答える。
『多分、テルシオ君の『天』の魔法です。背中から魔法の羽が伸びています』
「無謀な……」
俺は言う。これで一旦食べ比べは中止だ。
「デイナ、フェリエ、二人共来てくれ」
そう言って、俺は屋上に上がっていった。
確かに敵襲はやってきていた。
テルシオの天の魔法を使って背中に羽を生やした敵が、こちらに向かってきていたのだ。数はおよそ十くらい。
「フェリエ。ゴッドスピアで撃ち落として。デイナも虫の魔法であの羽を食い荒らしてやれ」
俺が言うと、フェリエは魔法を使った。空から落ちてくる光の柱が、敵を打ち落とす。
敵の姿は見えないが、増水した川の中に撃ち落とされていったのだろう。多分彼は助からない。
デイナは、虫を飛ばした。
まるでイナゴのような姿をした虫は、敵の羽に食らいついた。魔力を食う虫だ。羽をガリガリと食っていき、その羽は消滅をしてしまう。
羽を失った敵は、濁流に落ちていった。
「デイナ。監視を続けて」
俺はそう言って、食堂に戻っていった。
途中で邪魔が入ったからといって、ハンバーグの食べ比べがなくなるわけがない。
俺は、この時間で妙案を思いついていた。
「さて……仕切り直しですわ」
俺の目の前には三つのハンバーグが並んでいる。俺はそれを見て、大きく口を開けた。
三つのハンバーグは試作品で、材料をあまり多く使わないために薄めにしてあるというのが幸いした。俺は、素早く三つのハンバーグを掴み、三つまとめて口の中に押し込んだ。
「ああっ!」
三人の声が同時にあげられる。
「シィは生焼け。デイナは焼きはいいけど、スパイスが足りてない。フェリエは焼きすぎ。確かにボクはウェルダンが好きだけど、これじゃ大豆の味しかしない」
そう俺が言う。
どうだ? まとめて食った上に評価まで出してやったぞ。
俺がこう言うと、みんなぐうのねも出ないようで、俺の背中を恨めしそうにして見つめていた。
「こっちにたどりつきさえすればこっちのもの……」
ある男が言った。濁流の中を泳いできた彼は、学院の柱にしがみつき、足が付くのを確認しながら、学院の入口にまで進んでいった。
彼に羽虫がたかっていく。その羽虫を気にもせずに彼は学院の中に足を踏み入れようとした。
「待ってたよ……」
入口をくぐったところに、ロドム=エーリッヒを先頭にした数人の集団がいるのを見た。
「デイナ……お手柄だね」
俺が言うと、デイナはその男の近くに配置していた虫を呼び寄せた。
羽虫は、デイナの方に向かっていき、空間に空いた黒い穴の中に飛び込んで魔界に帰っていく。
「もっとほめてもいいんだよ。ロドム君にそう言ってもらえると、もっと頑張れるから」
「調子に乗りすぎ」
デイナの言葉に俺がそう返すと手を上げた。
手を挙げたのを合図に、俺の後ろにいるフェリエやシィ達は同時にクロスボウを構えた。
「武器を捨てて投降してください」
俺が言うが、その男は腰にぶら下げていた魔法のスティックを構えようとした。
「撃て!」
俺が言うと、その男の体に矢がいくつも打ち込まれた。
「しんじゃったかな……?」
デイナが言う。もしかして敵の事を心配でもしているのだろうか?
俺がデイナの事をジロリと見ると、デイナは俺から顔を逸らした。
「魔力のタンクの心配だよ……今回、私、今回でかなりの魔力を使っちゃったから」
確かに、拘束をした魔術師は特殊な魔法陣の上に座らされて、魔力を吸われ続け、常に魔力が空っぽの状態にされるのだ。
吸った魔力は、魔力がなくなった者などに吸わせるなどして、有効活用されている。
「相手に同情をしているような余裕は、こっちにはないんだよ……」
俺はデイナの事を見て言った。こういうところが、まだ甘いと思う。確かにいまの状況を見ると、自分達が敵を虐殺しているだけにも見えるだろうが、勝っている戦闘というのは、こういうもである。
「こっちに被害が出てからじゃ遅いからね」
おれはデイナに釘を刺すためにそう言った。
これから先、考えなければならない。
敵はどのような手にでてくるか? 今の状況で俺達が敵からされたら怖いことは何だろうか? 敵はそこをついてくるはずだ。