ベッドの中に、ほのがいる!
次の日起きたらベッドから体を起こす。
すぐ横を見ると可愛い寝息を立て気持ちよさそうに眠るほのがいた。
まだ布団すら用意していない状態である。床の上で眠らせるのは忍びないと思い、ベッドの中に引き入れたのだ。
だがそれは、ほのが犬の姿をしていたからであるというのもある。俺は昨日の夜父から言われていた。
『お前にはまだ魔力は足りない。鍛えたら使い魔を常に実体化させておくことぐらいはできるだろう』
父から『常にほのを犬の形態にさせる』事を言いつけられた。
常にほのの実体化のために魔力を使い続けていれば、それだけ魔力も鍛えられる。鍛え続ければ寝ていてもほのの形態を犬の姿で保ち続ける事もできるだろう。
昨日の夜のほのは犬の姿のままで俺と寝食を共にしていたのだ。
「しまった」
こんな状況をフェリエにでも見られたらキレるだろうな……
フェリエは朝早く俺の家にまでやってきて俺が寝ているベッドにダイブをしてくる。
それに対し「いきなり何をするんだ!」などと抗議しても「ロドム様がねぼすけなのがいけないのですわ」「隙を見せるのがいけないのです」などと笑いながら言ってくる。
普段はもうちょっと大人びた事だって言ったりする彼女が子供らしいいたずらごころを見せる貴重な瞬間だ。
とはいえ、寝ているところにダイブをされるのもそうしょっちゅうであったらたまったものではない。
それから、俺は早く起きる事ができるようになった。フェリエがいつものように早朝に俺の家にまでやってきて、すでに起きているのを見て残念そうにするのを見る事も多い。
ベッドから抜け出し朝の歯磨きをするために起きだした。
さて、ほのが起きたらまた犬の姿になってもらうか。
それから、顔を洗うために洗面所に行こうとした、寝起きで頭が回っていない。足取りもフラフラになってしまっている。
「ロドムさまぁ!」
いきなり背後からそう声が聞こえた。この声はフェリエだ。
寝室の方からその声が聞こえてきたのに気づいた俺は『しまった』と思った。
フェリエの奴ベッドにダイブをしたな。
普段なら俺しか使っていないそのベッド。誰か寝ている人間がいるのを見たフェリエは、俺が寝ていると思い込んでそのままベッドにダイブをしたのだろう。
ベッドで寝ているのはほのだ。これは早くフェリエに説明をしないといけない。もしかしたらほのの事を殺しかねない。あのフェリエならやりそうだ。
「フェリエ! そいつは!」
そう言いながら自分の部屋に向かう。間に合ってくれ。
「ニャー!」
そういう声が聞こえた、この声はどう聞いてもほのの声だ。お前はネコか?
「なんですか! ロドム様のベッドで寝ているあなたは何者です!?」
予想通りの反応を見せるフェリエ。ほのの事を敵を見るような目で見ていたりするだろう。
部屋に戻るとほのは四つん這いになってまるで犬が敵を威嚇をする時のようにしていた。全身の毛を逆立たせ歯を向いて精一杯にフェリエを威嚇していた。
「その子はボクの使い魔だよ!」
俺の声を聞くとほのはフェリエの横を抜けて俺のところにまでやってきた。後ろに隠れそこからフェリエの事を威嚇していた。
「使い魔ですか。属性を覚えたばかりでもう使い魔を持ったというのですか?」
疑いの目で見てくるフェリエ。いくらなんても使い魔を持つようになるのは早すぎるとフェリエも思っているのだろう。
「ボクの場合は事情が事情だからね。ロードルの家は調べてみたらとんでもない家だったよ」
ロードルの家は軍師の家系なのだという。
ここまで言えばわかるだろう。国に軍師なんてそう何人も必要はない。うちとロードル家は軍師の地位を取り合うライバル同士であるのだ。
「ボクとディラッチェの戦いは家同士の代理戦争みたいなものになったんだよ」
そう言うとフェリエは納得したようで頷いた。
「だから使い魔だって早めに手に入れて相手の先を行く必要があるという事ですか」
そう言ってからマジマジとほのの事を見るフェリエ。言いたいことはよく分かる。
「こんな人型の使い魔である必要があるのですか?」
その通りだ、本来は犬型の使い魔を願っただけなのだ。何を間違ったのか犬耳ロリ巨乳という明らかに狙ったような使い魔を呼び出してしまった。
こうなるのは予想済であったため昨日の夜にほのと打ち合わせをしておいた。
「ほの。昨日の事、覚えているか?」
俺がほのに向けてそう小さく言うのを聞いたフェリエは俺に疑いの眼差しを向けた。
「なにを」
話しているんですかと、でも続けようとしたのだろう。そのフェリエの言葉に割って入りほのは前に進み出ていった。
「あなたがフェリエ様でしたか。失礼しました」
行儀よくそう言うほの。
うんそうそう。初対面の時はそうやって礼儀正しくするんだ。
昨日の夜に、ほのに教えたことは簡単なことだ。まずは礼儀正しく挨拶をする。
そして、俺の婚約者であるフェリエ。ほのにとっては二人目の主人であるも同じだと、ほのには教えてあった。
「フェリエ様。ロドム様の許嫁であらせられますね。フェリエ様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか? それとも奥様と?」
こう言えばいい。そう思ってほのにそう教えた。フェリエの反応はよかった。驚いたようだがすぐに状況を飲み込みほのに対して挨拶をした。
スカートの裾をちょんと、つまんで挨拶をする上流階級特有の挨拶だ。
「最初から、そうすればよかったですのに」
フェリエはふん。と鼻を鳴らした後ほのの前に進み出てきた。
「み、みみ」
フェリエが恥ずかしげな顔をして言った。
「みみを触ってもよろしいでしょうか?」
ほのに向けて言ったフェリエ。ほのは頭を少し下げてフェリエの前に自分の耳を差し出した。
「どうぞ」
ほのがそう言うとフェリエはためらいがちにしながらほのの耳に触った。
耳に触るとほのはビクンと体を震わせた。だがそれでもフェリエはほのの耳を遠慮なく触り始めた。
「ああ、この手触り。気持ちいいです」
フェリエはそう言いながら夢中でほのの耳を触り続けた。つまんで引っ張ったるすると、ほのは「ひぃ!」と言って顔を赤くして叫ぶし指を使って耳の感触を確かめるためにさするとほのは目をつぶってそれに耐えていた。
なんかエロい光景のように見える。いやいや、五歳のうちからそんな事を考えていてはいけないか。
俺は頭に浮かんだ不埒な考えを振り払った。
「フェリエ。そろそろ」
明らかにほのは辛そうである。それ以上の事は考えないでおこう。五歳児の気持ちに戻るんだ。この状況はエロい状況ではない。そう考える。
「失礼しました。つい夢中に」
そう言ったフェリエだが名残惜しそうにしてほのの耳の事を今でも見つめている。
そのフェリエは最後にこんな事を言いだした。
「今回の事を不問にする変わり。一つお願いがあります!」
フェリエは言う。不問にするとは言い過ぎではないかと思う。本来、俺がどんな使い魔を持とうと勝手なはずだ。そんな事を言えるような状況ではないのは分かっているのだがな。
「私をロドム様のベッドで寝かせてください!」
フェリエは続けて言う。なんでそんな事をと考えるが、特に実害はなさそうだし承諾をする事にした。
「そんな事でいいならどうぞ」
俺がそう言うとフェリエは一気に上機嫌になり俺のベッドにダイブをしていった。
「うへへ~。ロドム様のにおいー」
そう言いながら俺のベッドに顔をうずめるフェリエ。そういう事のようだ。
それを邪魔したら今度こそ大目玉をくらう。そう思い俺はほのの手を引いて部屋から出ていった。