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第九十三話 秋渡の人望

三日目。


冬美と愛奈は夕方には帰ったが冬美は夜食にとおにぎりを作ってくれた。素直に礼を言うと顔を赤らめてそっぽを向かれたが、照れ隠しだと分かって笑ってしまった。愛奈はムスッとしてたが「絶対に私が胃袋を掴みますから!」と高々に宣言して帰った。冬美はそれに「宣戦布告の相手、間違えてないかしら?」と不思議そうにしていたが。冬美曰く胃袋を掴むということならばあからさま恋華や星華のが上だそうだ。確かに恋華は料理上手だからな。中学の頃に「お前を嫁に貰える男は幸せだろうな」と無意識に言ったことがあったが、その時の返しが「なるなら秋渡のお嫁さんがいいな……」と言われて固まった記憶がある。ただ前に想いをぶつけられるまでそれが本気だと気が付かなかったんだけどな。


「さて、今日もやるか」


朝になって軽くストレッチをして朝飯を軽く摂り、それから昨日までと同様に体を動かす。少しは感覚を戻してきてるのか昨日までに比べたら体が軽く感じる。足の踏み込みからの抜刀、すれ違ってからの向き直りを意識して刀を振るう。暁相手にこれは必要ないという慢心は必ず仇となるため、どんな状況でも油断はできない。不幸な事故が起きてもどうにかするしかないのだ。刀二本に加えて足で体術も少しずつ加えてみる。だが二刀流だからなのか腕に力が行き過ぎて足の力が弱くなってしまう。となると距離を離すための蹴りか、それとも自ら離れるための踏み込みにしか使えなさそうだ。しかも下手にやって足が動かなくなると致命的なのであまり蹴りは繰り出さないようにしておこう。


「ふんっ!」


ブオン!と蹴りで音が出るが、元々足技には自信はないのでこれでいいのかまではよく分からない。音は出るほどに勢いは入ってるが思った以上に隙が大きくも感じられる。やはり蹴りは余程なことがない限りはやめておこう。そう考えて再び刀を振るうことに専念した。


ーー

昼過ぎ。


ずっとほぼ全力で動いてたからか流石にその反動が来て床に大の字に横になる。


「はぁ……はぁ……。……一応順調なんだけどな」


疲れであまり動けないが腹も空いたので何か作ろうと思って体をなんとか起こす。


「……む?」


だがガクッと膝を折ってしまう。思ってた以上に体力を消耗してるらしい。


「……この後はしばらく休んでた方がいいか。連日ほぼ全力で動いてるしな」


僕はそう決め、もう少し休むかと思ってそのまま座り込む。だがそこでまた入口から人の気配を感じ、そちらへ視線を向ける。だが敵意ある者じゃないことは分かってるのでそのまま黙ってる。


「……?」


しかしいくら待っても開く気配がなく、ただシン……と時間が過ぎるだけだった。僕は眉を潜めて開けようと近寄り、ドアに手を掛けようとした瞬間……。


「しゅ、秋渡君!」


ガラッ!と勢いよくドアが開けられた。だがそれはタイミングが悪すぎたとしか言えない事故になった。


プニュ……。


ドアは横にスライド式なのでどちらかがドアにぶつかるということはなかったのだが、逆にそれが仇になった。ドアを開けたのは緑色の綺麗な髪をしてる大人気のアイドル、木上美沙だった。けど僕もドアを開けようとしてたため、その手は普通空を切るはずだったのだが……。


「ふひゃっ!?」


あろうことかアイドルの胸にすっぽり収まってしまっていた。余程テンパってたのか美沙は目を回してたのが更に加速した。


「ひゃあぁぁぁっ!!?」


「ちょ、ま、落ち着け!」


ビックリしたからなのか、それとも反射的に今までの功績が効果を成したのか分からないが美沙はそのまま勢いよくなぜか僕に抱き着いて押し倒してきた。だが手を引っ込められなかったために美沙の胸には未だに僕の掌が収まっている。というか更に押し付けられてしまい、さっきよりも状況が悪化していた。……うん、これは人に見られたらまずい。


「……美沙、少し落ち着いて」


だが来てたのは一人ではなかったようで物静かな声に僕はそちらを向く。そこにはいつも通り無表情な星華が僕と美沙を見つめていた。いや、少し呆れた目をしているからいつも通りとは違うかもしれない。それよりも今はこの状況をどうにかしたい。


「美沙、とりあえず離れてくれないか……」


僕は口元を空いてる手で抑え、胸を触ってる手は動かさないようにしているため、美沙が離れてくれないと色々とまずい。


「ふぁ……しゅ、秋渡……君……」


プシュゥと頭から湯気を出してる美沙はなんとか我に返り、そそくさと僕は離れてくれる。だが同時に後ろを向いて深呼吸を始めていた。そんな美沙になんて声を掛ければいいのか分からなくてとりあえずそっとしておくことにして星華へ向き直る。


「……久しぶり、秋渡」


「ああ」


「……」


「……」


星華との会話はそれだけで終了した。元々口数の多い奴じゃないから無理はないが今はもっと話してた方が気が楽になりそうだ。


「あー、それで……」


「……美沙の胸は気持ち良かった?」


「……は?」


僕は頬を掻きながら話を続けようとしたら星華に遮られ、しかもとんでもないことを聞かれる。思わず間の抜けた声を上げてしまったのも勘弁して欲しい。けれど今の星華の質問にはストレートに答えるわけにも……。


「……ゴクリ」


……なぜか美沙がこっちを見て固唾を飲んでいた。なんで?僕はどう答えようか悩み始めると星華が薄く、本当に薄く笑みを漏らした。すぐに無表情に戻ったけど。


「……美沙はそこそこ大きいから柔らかい」


「ちょ!?星華さん!?」


星華の爆弾発言に美沙は僕から視線を外して星華に慌てて駆け寄ってまだ何かを言おうとする星華の口を押さえる。しかし星華は特に慌てもせずに簡単に口を閉ざした。そして美沙は半分泣きながら僕を見てくるが、僕から言える言葉は一つしか思い付かなかった。


「ノーコメントで」


肩を竦めながらそう答えた。それに美沙はホッとしたがなぜか少し落ち込んでるようにも見える。……というか僕、これはまずいんじゃないか?よくよく考えたらたとえ不可抗力だとしてもアイドルの胸を触ったわけだから事務所にバレたら僕、下手したら暁と対峙する前に殺されるのではないだろうか。


「……はぁ」


「……どうしたの?」


「この後が憂鬱になった」


「「?」」


溜め息を漏らした僕に星華が首を傾げて聞いてきたがあながち間違ってもない返答をすると二人は顔を見合わせて首を傾げる。……雑念を払う為にまた動くか。そう思って立ち上がると星華はすぐに何をするのか悟ったのか美沙と共に厨房へ向かった。さっきまでは美沙のことで気が付かなかったが、よく見ると星華がスーパーで買ったのか食材の入ってる袋を下げていた。そういや星華は以前もらったから知ってるが美沙って料理出来るのか?アイドルって忙しくて練習してる暇とかが作れないと上手くならない気がする。


「っと、それよりも……」


僕は思い出して床に置いたままだった刀を二本とも拾ってそのうちの一本を鞘へ収める。そして刀を一突きし、回転して横に一閃する。突きで不意を突くが敢えて当てずに、ガードしてきた相手が硬直する一瞬に斬る寸法なのだが、この方法は暁相手にあまり期待は出来ないだろう。突き攻撃の位置からあの長刀を傾けて簡単に弾くことは想像できるからな。そもそもあいつ相手に不意を突けるかも怪しいところだ。


「……戦略を練った戦いだと読まれやすいとも言えるな」


こうすると、とか考えてやるとそれを悉く潰しに来るだろうからある程度の動きを把握するだけにしておくか。想定範囲のアクシデントだけは頭に入れておいてあとは自分の動きに任せるとしよう。正直今回は自分の本能の動きが一番の武器になり得るからな。


「(それに……)」


一旦立ち止まって厨房へ視線を送る。何を作ってるかは分からないがそれでも僕に希望を託し、手を貸してくれる仲間には感謝を忘れられない。人望はないと思ってただけにこれははっきり言って驚くことだ。僕は堪らず笑みを浮かべてしまう。


「……存外こんな僕にも力を貸してくれる人はいるんだな」


自分の性格を知ってて改善もしてないから余計に不思議に思えてしまう。だが現実には僕にも笑みを浮かべ、慕ってくれ、仲良くしてくれる仲間がいる。そんな人達に僕が返してやれることは?当然、今は勝利することだろう。だから……。


心の底から負けたくないと初めて思えた。


ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

星「……星華です」

美「美沙です!」

ア「いよいよ決戦が近いですね!」

秋「……ああ。一瞬でも油断したら首が跳ねられそうだ」

美「しゅ、秋渡くん……」

星「……ううん、それはないよ」

秋「星華?」

星「……秋渡が簡単に油断しないこと、皆知ってる」

ア「確かに油断なんてしてるならば初めの棗君との戦いで命を落としてるか、はたまた重傷を負ってるでしょうね」

美「あ、そっか。……青葉龍大の部下から守ってくれた秋渡くん、かっこよかったな……」

秋「今思えばあれがなきゃひょっとしたら美沙とはここまで仲良くなることはなかったのかもしれないな」

美「言われてみるとそうかも。デートだけだったらどうなってたか分からないし」

星「……そもそもデート企画がなかったら会うことすらなかった?」

美「そうかもね。でもあれの事件で命を狙われる怖さを知ったけど同時に守ってくれる男の人にも会えたから結果的にはプラスで終わった……かな」

秋「国民的アイドルにそこまで言われると助けれてよかったと思えるな」

美「うん。秋渡くんは私の王子様だからね!」

秋「……逆にそこまで想われるとファンから命を狙われそうだがな」

星「……秋渡なら返り討ち」

美「ますます惚れ込むことになりそうだなぁ」

秋「ええい!恥ずかしいからやめだ!終わろうぜ」

ア「了解です。それでは……」

ア・秋・星・美「また次話で!」

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