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第九十二話 奇妙な訪問者達

秋渡side


ーー

二日目。

朝目が覚めたら幸紀がいなくなっており、僕が体を起こすと置き手紙があってそこに『またお手伝いに来ます。修行頑張ってください』と書いてあり、近くに朝飯と思わしき弁当があった。それにフッと笑ってから合掌して食べ、食べ終えると弁当を近くのシルクに置いてから僕は早速体を解しながら軽く走り込む。そして刀を抜刀してジャンプをし、空中で軽く連撃を繰り出す。空中だと流石に的がないから素振りに近いがそれでも相手が暁だと空中戦も考慮しておいた方がいいだろう。


「はぁっ!」


本当は斬撃を放ちたいがここで放つと秋之舞が崩れかねないので我慢する。空中で脳内イメージだが斬撃を放つように刀を振るう。秋之舞は高さもある建物なので普通の人のジャンプならば天井に届くことは無い。だが僕は全力で跳ぶと届くので全力では跳べない。


「動きが制限されると考えたらいいかもしれないな」


疲労や怪我で動きが限られることもあるからこれはこれでいい修行になる。独り言をボヤきながら僕はジャンプして刀を振るい、着地すると即座に後退して相手から距離を取るように動く。そしてすぐに前進して一閃、ガードされたと仮定してバク転する。カウンターされることも考えていると本当に動き方を考えさせられる。


「おわっ!?」


と、考え事をしていたら床に付いた汗に足を滑らせる。当然両手に刀を持ってるため派手に転ぶ。だがすぐには起き上がらず寝転んだままで天井を見上げる。


「……ふぅ」


息を吐いてから刀から手を離す。思ってたよりも動いてたみたいで時間も経っており自身の体力の消耗も感じる。だがそこでふと入口から人の気配を感じた。しかも気配的に女子じゃなく男子だ。いや、男子でもこの気配は並の者ではない。男子でこんなに強大な気配が出るのは……。


「よう。久しぶりだな」


当然五神将しかいない。そしてよりにもよってやって来たのが……。


「青葉……龍大……!」


五神将最狂の男、青葉龍大だった。


ーー

僕は即座に刀を手に取って構える。しかし青葉は珍しく慌てるように両手を上げ、降参ポーズを取る。


「待て待て!別にお前と戦うために来たわけじゃねぇぞ!?」


「……?」


言われてから青葉が持っていた大鎌がないことに気が付く。となると戦闘意思は本当にないだろう。僕は刀は降ろすが警戒は緩めない。前に幸紀といた時に戦ったことを考えると棗みたいに信じられない。青葉はホッとして手を降ろすと中に入ってから座って再び話し始める。


「いやぁ、深桜が舞台になったから事前に動かせるものを動かそうと思ってな。お前は底がまだ見えてねーがあいつもまだ見せてない。となるとどうなるかはまだ分からんから用心するに越した事はねぇと思ってな。んでそしたら近くから五神将特有の覇気を感じたから来てみたわけよ」


青葉は楽しそうに語るが、遠回しに僕と暁を人外扱いしてきた。だがそこでふと青葉は笑みを消す。僕は不思議に思ってそのまま言葉を待つことにする。


「……お前、あいつと初めて顔を合わせた時あいつのことどう見えた?」


「どう、とは?」


青葉の質問の意図が分からず聞き返すと青葉は頭をガシガシと掻きながら続ける。


「俺は初めて会ったあいつは笑顔だったんだけどさ、こう覇気みたいなのを感じて正直ビビった。笑顔なのに有無を言わせねぇプレッシャーに絶対勝てねぇと思わせられたよ。実際棗や黒坂と組んでも傷一つ付けられなかったしな」


「……本当だったのか、それ」


暁と青葉達が戦って三人は手も足も出なかったという。本人から語られたと言うことはそれは事実だという信憑性も増す。僕は棗達も弱くはないが青葉ですら傷を付けられなかったという事実に自分の相手の強大さを改めて実感する。青葉は苦笑して「ああ、本当だぜ?」と短く答えた。


「そうか。果たしてあいつに勝てる奴はいるのかね」


「お前じゃね?」


僕が思ってる以上に強いとされる暁に思わず漏らした言葉に青葉は笑いながら答えた。即答で答えたということは根拠でもあるのか、はたまたただ単に僕と戦って思っただけなのか。ともかく青葉の中では僕と暁の戦いは暁の優勢とは思ってないらしい。だがこいつからすれば間違いなく暁の勝利のがいいのだろう。しかし今僕とこうして話してるとなんとも言えない状態だ。


「暁が勝つのをお前は望んでるんじゃないのか?」


思わずストレートに聞いてしまう。しかし青葉は僕の質問に「うーん……」と唸った。それから頭をガシガシ掻いてから答える。


「確かに勝てば俺らにはありがてぇことしかねぇよ?けどさ、あいつが苦戦、もしくは負かすことができる奴もいればあいつの中でも何かが変わると思ってんだよ。あいつ、部下になんやかんや言われても平然と躱してるみたいだし俺らじゃ相手にもならねぇからな。だから負けて何かが変わるなら俺はそっちも気になるからどうとも言えねぇ」


暁が仮に勝ったらそのままだろうし負けても変わるかは分からない。しかし青葉からすれば暁に勝てる者がいたら刺激にはなるそうだ。それが今だと僕が最有力候補となっているみたいで傍迷惑な話だ。


「ま、決戦の日は俺らも手は出さねぇよ」


「信じても?」


「信じる信じないは自由だがこれだけは言えるな」


僕の細まった視線に青葉は苦笑してから続ける。


「下手な妨害なんぞしたら俺らが暁に殺される。あいつの楽しみを奪う事になるからな」


「……本当に分からんな、暁」


「ごもっともだ」


とりあえずは信じてもいいらしい。確かに暁の怒りは誰も買いたくはないだろうしな。それにしても青葉でさえも分からないことが多い暁は本当に何なんだろうな。だがあいつは自分の楽しみは奪われたら奪った奴に容赦なく鉄槌の裁きを下すのか。青葉でさえも怒りを買いたくないならば尚更奴の強さは未知数なのだろう。


ーー

青葉は軽く談笑したら帰っていった。特に妨害もしなかったことから本当に邪魔する気はなくたまたま来ただけのようだ。僕は改めて素振り、踏み込み、空中での動きの把握をしてあらゆる状況を想定して動いた。


「……あと四日、なんとしても勝つためにやれるだけやらなきゃな」


僕はそう呟いてから何度も動き続けた。汗とかで滑るがそれもスリップを想定しての鍛錬としてすぐに態勢を立て直す。だが片手で立て直せなければきっと奴には最高の隙になるだろう。それは僕だって同じなのだから。だからなるべく弱点や隙はなくせるようにしておきたい。さもなければ皆のこともそうだし、何よりも下手なことをして生んだ隙ならば自分が許せないだろう。


「青葉達の横槍がないなら存分にやれるしな」


快く思わない相手もいるだろうがそこは皆に頼るとしよう。僕が相手すべきは暁だけだ。僕は笑みを消して一心に刀を振るい続けた。


ーー

しばらく刀を振ってから数時間。そろそろ昼なので僕は鍛錬を止めてタオルで汗を拭く。だがたとえ疲れてても昼飯は自分で作らなければならな……。


「秋渡さん、お疲れ様です。差し入れをお持ちしました。よろしければいかがですか?」


「かなり動いてたでしょ?飲み物も用意したわよ」


……妙だな。昨日から絶対に誰かここに来るんだが……。しかも今の声は……。


「冬美と愛奈……」


「はい♪」


「ええ」


愛奈は名前を呼ばれて嬉しそうに微笑み、冬美は腰に手を当てながら答える。僕は二人に……特に愛奈に渋い顔をするが本人はニコニコと笑うだけだった。そしてそのまま手に持ってるバスケットを差し出してきた。


「サンドイッチですが構いませんか?」


「お前、本当にマイペースだな」


「やだ秋渡さん、そんなに褒めないでくださいよ〜」


愛奈は何をどう勘違いしてそうなったのか分からないが褒められたと思ったようだ。冬美も横で呆れてるんだが、そんなのお構い無しにイヤイヤしながら体をくねらせてる。お嬢様がしていい姿ではないが、そこはつっこまないでおこう。僕はとりあえず受け取って礼を言うと愛奈は顔を赤らめて蕩けていた。


「はぁ……。で、冬美はどうしたんだ?こいつと同じか?」


「うん。まあ似たようなものかな。あ、お茶いる?」


「……もらう」


冬美も愛奈は放っておいて手際よくお茶を容れる。道場の床でさすがに飲むわけにはいかないので寝床のある部屋に移ってはいるが、そこで冬美がお茶を容れてくれ、それを飲みながら愛奈が持ってきたサンドイッチを頬張る。中身はオーソドックスな卵とかハムとかで挟んであるのだが、少し形が崩れていた。特に気にもしないが愛奈が少しそわそわしてることに気が付いた。冬美も同じようで首を傾げて愛奈を見る。


「もしかして手作りなのか?」


「は、はい。初めてなのでそんなに上手く出来ませんでした……」


愛奈だからてっきりどこかで買ったのかと思ったがそれはないようだ。さっきは分からなかったが改めて愛奈の指を見ると所々に絆創膏が貼ってあった。なんやかんや頑張るよな、愛奈。思わず笑みを浮かべると冬美も同じようで微笑ましく愛奈を見る。


「そか。じゃあ腕を上げたサンドイッチを食べられるよう頑張らねーとな」


「ふえ?」


僕の言葉が分からなかったのか愛奈は可愛く首を傾げる。


「そうね。あ、今度私も何か作るから」


「お、そりゃ尚更勝たねーとな」


「あ……」


僕と冬美の会話でようやく理解したのか愛奈は嬉しそうに、だが恥ずかしそうに笑った。


「はい!絶対に負けないでくださいね!」


「そうよ。秋渡君だから大丈夫だろうけど勝ってね」


「ああ、やってやるさ」


僕はサンドイッチを食べてから二人に答えると愛奈は嬉しさでなのか抱き着いてきた。冬美はそれにムスッとするが躊躇ってか軽く服を摘むだけだった。いつもなら愛奈は振り払うが今日だけは許すことにする。サンドイッチは結構美味しかったから腕が上がればきっともっと色々と作れるようになるだろう。勝利した時の楽しみが増えた日だった。



秋「こんにちは。夜の人はこんばんは。秋渡だ」

龍「青葉龍大だ!……へえ、こんなコーナーあったのか!」

秋「僕からしたらなんでここにお前がいるのかが凄く気になるが……」

龍「まぁ気にすんなよ。なぜここにいるかは俺も知らん!」

秋「しかも作者のアイギアスがいねぇ」

龍「作者?よく分からんがとりあえずここは何をするところなんだ?」

秋「まぁ色々その話を語ったり関係ない雑談をしたりだな」

龍「なるほどな。そういやこんなものがあるぞ」

秋「ん?手紙?……いやハガキか?」

龍「ああ。読んでみるか?」

秋「頼む」

龍「えーっと、ペンネーム、『剣聖の婚約者』さんからのハガキだな」

秋「剣聖?」

龍「なになに?『私は秋渡さんに惚れていてどうしても妻になりたいです。ですがライバルが多すぎて婚約者なのに不安でいっぱいです。どうすればいいですか?』だとよ」

秋「……これ、間違いなくあいつだな」

龍「そうだなー、こいつをものにしたいなら胃袋を掴む……のは厳しそうだな。とりあえずこいつの苦手なことを極めればいいんじゃねーか?」

秋「……なんか投げやりだな」

龍「いや、本気で思い付かねーんだよ。お前苦手なことなさそうだし」

秋「そうか。ま、僕の苦手なことを知ってるなら出来るアドバイスではあったな。ちなみにこの質問コーナーが続くかは分からねーから」

龍「ああ、作者次第ってやつだな。んじゃ、質問に答えたし終わるか」

秋「それじゃ……」

秋・龍「また次話で会おう!」


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