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第九十一話 長谷川幸紀との絆

再び刀を握ってイメージ残像と戦ってから二時間、今日はここまでとして手を止める。幸紀が床を拭いてくれたから滑ることもあまりなく、一心に打ち込めた。途中から幸紀の視線がなくなっていたが、それはその場からいなくなっていたからだ。やはり退屈だったのだろう。ただ刀を振るって走ってるだけの姿は僕だって退屈になる。


「ふぅ……」


どさりとその場に座り込む。流石に疲れて大の字に転がる。なんとなく勘は取り戻せてる気はするが体力はどうしようも出来なさそうだ。まぁ残りの時間で少しは取り戻す気でいるが……。それにしても幸紀はどこに行ったんだ?帰ったと思ったのだがまだ近くから気配がするからそれはないことがわかったし。しかしその疑問はすぐに解消される。


「秋渡さん、お風呂入れておきました」


幸紀の弾んだ声にそちらへと視線を向ける。秋之舞は寝泊まりが可能だから風呂もシャワーも、そして寝室もある。風呂とかは使ったら掃除すればいいし、寝室の布団はここの管理者がしっかり掃除をしている。……今はその管理者も愛奈が追い出したそうだが。それにしても手際が良すぎるな。だがありがたいので素直に甘えるとしよう。あれだけ動いた後に入れたりすることは正直しんどいし。


「ああ、サンキュ」


「はい。お背中流しますね!」


「ああ。…………え?」


流れで頷いたが今とんでもないこと言わなかった?しかし立ち上がってた僕の背中をグイグイと押して浴室へ向かうと幸紀は服を脱ぎ出す。そこでようやくされるがままだったのが我に返る。


「ま、待て、幸紀!それはまずいだろう!」


前に幸紀の家にお邪魔した時もだが幸紀はどうしてか僕と入りたがる。しかし上着を脱いだ幸紀は下着姿なので直視することはできない。目を逸らして講義するが幸紀は出て行く気配はない。


「お気になされることはありません。以前もあったじゃないですか」


「前も色々と危なかったんだけどな……」


「ふふ……。でもお背中を流したいのでお願いします」


「……はぁ、わかったよ」


色々と諦めて頷く。疲れた後だからかわからんがもう半分自棄だ。しかしそれが伝わっただろうに幸紀は「ありがとうございます」と笑うだけだった。そして僕も服を脱いで風呂へ。その前に体などを先に洗うためにまずは汗を流すことにする。


「秋渡さん、服の上からだと分かりにくいですが結構鍛えてますよね」


椅子に座って頭を洗い始めると幸紀が後ろから声をかけてくる。タオルを巻いてるからと言ってもやはり胸元は見えるから見ないようにする。というかしないと危ない。幸紀が無防備だから気を付けなければならないし、不意に抱き着かれることも警戒するべきだろう。


「(というか折角集中するって決めてたのに何してんだろ……)」


僕はふと内心でそんなことを考えながら頭の泡を流すと幸紀が後ろに回ってスポンジにボディソープを付けて背中を流し始めた。幸紀は機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら流してくれる。それはいいのだがなぜ幸紀はこんなことをするんだろう……。


「なぁ幸紀」


「はい?」


「なんでここまでしてくれるんだ?」


思わず聞いてしまったが、わざわざ集中を途切らせるためには来ないだろう。幸紀がそんなに酷い子じゃないことは分かってる。だからこそ気になった。幸紀は少し困ったように笑いながら答える。


「……実は不安なんです。秋渡さんが勝っても今までのように秋渡さんが側にいてくれるか、秋渡さんがまた私に手を差し伸べてくれるか、秋渡さんが勝っても回復できないほどに動けなくなってしまうか」


幸紀は手を動かしながらも教えてくれる。……勝つことが前提なのは置いておこう。それでもやはり無傷で勝てる相手とは思ってはいないらしい。だからこそ不安だから今出来ることを、僕とやれることをしたいということらしい。確かに僕が勝ったらどうなるかはぼくじしんわからない。世間からどう思われるか、場合によっては幸紀どころか他の皆からも離される可能性もあるし、暁との戦いによっては体が動かないなんてこともあるだろう。少なくとも今までとは何かが変わることは揺らぎようもないから余計に不安になったのだろう。金持ちだから多少の情報は入るだろうし。だがそれはあくまでも仮説の話。だったら僕が幸紀に言える言葉は一つだ。


「なら待っててくれ」


「え?」


僕の言葉に幸紀はポカンとして顔を上げる。僕は背後からのその気配に薄く笑ってから続ける。


「たとえ暁との戦いがどうなろうとも僕は幸紀の側にいるしいくらでも手を差し伸べるよ。仮に回復できないほど動けなくなったとしたらその時は僕が動けるようになるまで……さ」


段々と恥ずかしくて指で頬をポリポリと掻く。幸紀だけでなくこれは他の仲間も思ってるのだろうからなんとしても守らなければならない。これがフラグだとしたら折るだけだし、約束ならば果たしてやるのが義務というものだろう。だがそれで良かったみたいで幸紀が薄く笑うのが聞こえた。


「はい!秋渡さんが来てくれる日までずっと……ずっと待っていますね!」


幸紀が背後から抱き着いてくる。普通ならいい場面なんだけどさ、ここ、風呂場だから……その、凄くやばい。タオル巻いてるとは言っても一枚だとほぼ分かるくらいに体温が感じられる。つまりは、な?柔らかいものが当たってて困るから離れて欲しい。だが今泣きながら抱き着いている中でそれを言うのは野暮な気がして言葉が出て来なかった。


ーー

しばらくして幸紀が我に返り頭から湯気を出して風呂場から走り去った。僕は解放されたことに素直に安堵してから体を洗い、風呂に入って上がると幸紀が布団を用意していた。……こいつ、なんやかんやお嬢様なのに結構色々出来てるよな。たださっきのがあったからか顔を赤らめて目を逸らしてはいるが。それでも帰らずにいる辺りは褒めるべきだろう。それよりも僕は一つ疑問がある。


「……なぁ幸紀」


「……はい」


「……なぜ布団が一つなんだ?」


そう、布団が一人分しか敷かれてなかったからだ。最初は自分の分のみを用意したのかと思ったのだが、枕が二つあるからそれはないだろう。僕は少し困惑しながら幸紀に近寄る。幸紀は逃げなかったがモジモジしてるだけだった。まぁ聞いといてなんだが布団一つで枕二つの時点でなんとなく察してはいるが。


「い、言わせるんですか……?」


幸紀は顔を逸らしてしまったが、チラチラ僕を見ながら答える。だがやはり思ってた通りのようなので諦めて僕は布団へ入る。幸紀は僕の行動にポカンとしてるが、幸紀が入らなければ寝れないだろう(気にして)。なので僕は布団に潜り込むと横をポンポンと叩く。……眠くなってきた。


「何してるんだ?早く入れよ」


「え?ですが……」


「抱き枕……とまではならなくとも夜は冷え込むからな。ちょっとくらい暖かくはなるだろ?」


「あ……」


「ふわ……。眠いから早く入らないと抱きつけねーぞ……」


本気で睡魔に襲われてるため、欠伸が止まらない。幸紀は僕が承諾してると気付いたのかペコリと無言で頭を下げてから横へ入ってくる。


「し、失礼します……」


「おう……」


幸紀は入ると同時に僕にすり寄ってくる。それを優しく抱き締め返すと幸紀は嬉しそうに抱き返して来る。だがそこで限界がきた。僕は睡魔に負けてそのまま眠ってしまった。最後に幸紀が笑いながら「おやすみなさい、秋渡さん」という声が聞こえた。


ーー

幸紀side


秋渡さんが眠ってから私は愛しい人の胸の中で幸せに包まれていました。五神将の青葉龍大から救ってもらい、今度は仲間も皆一緒に救う為の戦いを挑むのです。しかし相手は五神将最強、暁春樹。他の五神将も勝てないと噂で未だに底の見えない強さを誇る男なので秋渡さんでもやはり心配です。そのご本人の秋渡さんは私を抱きながら寝てますが。その寝顔が可愛らしくて不安は薄らいできますが。


「秋渡さん……」


私は秋渡さんの温かさを感じながら秋渡さんの頬に手を当てる。秋渡さんはむず痒そうにしてるだけで起きる気配はなさそうです。私の婚約者であり、命の恩人。凛桜に入った女性の婚約相手は大抵地位が高い家柄から生まれた年上の男で同年代ということはほとんどないです。それを知った時は私はお金持ちに生まれたことを憎んでいましたが今ではもうその気持ちはありません。


「ん……あったかい……」


ポフッと秋渡さんの胸にくっつくと秋渡さんの心臓の鼓動が聞こえてきます。寝てても身の危険を感じれば起きそうな人なのに起きる気配はない。つまりは私は信じられてると考えて……いいんでしょうか?


「……秋渡さん」


私は愛しい人の名を再び呼ぶ。返事はありませんがそれでも私の傍にいてくれる、守ってくれる人。彼の幼馴染みの恋華さん曰く彼は敵対する者には容赦しないそうですが守るべき相手は全力で守るそうです。見た目からはあまり想像出来ないとは思いますが。


「……おやすみなさい、秋渡さん」


私は秋渡さんに少し力を入れて抱き着き、眠りについたのでした。その際に少しギュッと抱き締め返してくれたことに喜びを感じながら。


ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ。今回は僕達だけにさせてもらってるよ」

ア「それにしても修行初日からヒロインが来ましたね!」

秋「正直途中から来るとは思ってたんだが……」

ア「?」

秋「せめて三日目辺りからだと思ってた」

ア「我慢出来なかったんでしょうね。皆秋渡くんが好きなんですから」

秋「悪い気はしないが今は少し勘弁して欲しいぜ。集中できないし」

ア「ですが満更でもなさそうでしたが……」

秋「まぁやってくれてることは助かるからな。料理とか掃除とかに時間を割く必要がなくなるしな」

ア「確かにそうかもしれないですね」

秋「ああ。一通り出来てもやっぱり疲れてると……な」

ア「分かります!……あれ?それなら恋華さんとかに頼むのも手なのでは?」

秋「まぁ気にするな。早いが終えるぞ」

ア「あ、はい。それでは……」

ア・秋「また次話で!」


オマケ


幸「うぅ……恥ずかしすぎます……」

秋「……僕は今の状況のが恥ずかしいぞ」

幸「すみません、秋渡さんに抱きついてると落ち着くので……」

秋「……僕が落ち着かねぇよ(ボソッ)」

幸「え?」

秋「なんでもない。好きなだけ抱きついてな」

幸「!……はい♪」


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