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第九十話 戦いの前段階

祭りの次の日の昼。

暁は突然のように緊急ニュースであることを発表してくる。テレビを見てたら突然画面が変わって、そこには赤髪で青と赤のオッドアイを持つ暁春樹その人が正体を隠さずに現れた。僕は見てるが恋華達は初めてのため、無邪気な笑顔を見せている暁に驚いている。


『こんにちは、全国の皆さん』


挨拶から入って暁は不意に笑みを深める。


『突然で申し訳ないんだけど今度の戦いは僕と世刻秋渡君の一騎打ちに変わったんだ。ただ一騎打ちだからって何事もないってことはないから決闘場所を教えておくよ。それはね』


暁が言葉を重ねる事に謎の威圧が僕に襲ってくる。サラリと戦い方が変わったことを言ったがそれでも場所によっては安全ではないだろう。


『深桜区の街。世刻秋渡君が住んでいるところの街だよ。どれだけの被害が被るかは分からないけど念のため避難しておくことを薦めておくよ。決闘日も一週間後にするから巻き込まれたくなかったら急いでね。それだけだよ、バイバーイ』


決闘場所、決闘日を告げて暁は画面から消えた。同時に恋華、舞、明菜は僕を見てそれぞれが声を掛けてくる。


「秋渡、無理はしないでね?」


「いよいよですね、お兄様」


「簡単に負けないでよ?」


それぞれからのお言葉をいただき、僕は無言で頷いた。暁の強さは前に対峙しただけで本能で理解出来た。あいつは強い。今までの相手とは比較にならないほどに。だからこそ今回は最初から本気で戦うつもりだ。決闘までの一週間、僕は自分のなまってる体をどうにか戻さないといけない。だがギリギリまでやってガス欠では目も当てられないからやれて五日間辺りが妥当だろうな。無言で立ち上がると三人は突然立ち上がった僕を見てくる。


「……少しの間家を開けるから頼んだ」


「……わかりました、お兄様」


「了解よ」


僕の突然の頼みにも舞と明菜は頷いてくれた。恋華は無言でいたが少し寂しそうにはしている。だが今の僕にはどうにかしてやれる時間はない。スマホを取り出して僕はある相手へ電話をかける。


『もしもし?どうかしましたか、秋渡さん?』


その相手は愛奈だ。本来ならば頼りたくないが止むを得ない。ただ先程のニュースを知ってるからかいつもみたいな調子ではない。


「頼みがある。貸切で刀を存分に振れるところがあればそこを五日間貸して欲しい」


雨音財閥の部下が使用してそうなところがあると踏んで僕は愛奈に頼んでみる。ダメならば山とかに行くけど。愛奈は「ちょっとお待ちください」と言ってから別の携帯なのか家の電話なのかで誰かに電話をかけている。それから十分後くらいに「お待たせしました!」とこちらへ声を戻す。


『はい、深桜からは若干離れた場所にありますよ。名前は秋之舞というところです』


「わかった。そこに今から行きたいんだが……」


『いいですよ。お父様にも話はしておきましたので。あ、お父様からの伝言も伝えておきますね』


久英さんからの伝言?なんだろう?あの人からなんて何もない気がするが……。


『遠慮せずにやって来い!だそうです』


愛奈が電話越しにもわかるほどにクスクス笑う。普段はそんなことは言わない人だからなのかは愛奈達しか知らないだろう。けど今の伝言はどう受け取ればいいんだろう?それが伝わったのか愛奈は笑うのをやめて説明してくれる。


『つまりは周りの被害は全て私達がどうにかするから暁さんと戦う時に遠慮はいらないということですよ』


「……なるほど。なんか悪いな」


『いえ、実際に戦うのが秋渡さん一人でも私達が何もしないわけにはいかないですから。私達も全力でバックアップしますよ』


愛奈はハッキリとそう言ってくる。恋華も舞も明菜もだが皆僕と共に戦うことに躊躇いはないらしい。僕は皆の思いが嬉しくて危ない戦いの前なのに笑みを浮かべた。


「ありがとな」


『はい!……ですが秋渡さん、気を付けてくださいね?私達には秋渡さんが無事であることが一番なのですから』


いつものような暴走気味な愛奈はなりを潜めてるが、それでもやはり愛奈だと感じさせられる。愛奈とはそこで通話を切り、軽く荷造りをしてから僕はさっさと家を出る。恋華達も黙って見送ってくれたがやはりどこか寂しそうにしていた。後ろ髪を引かれる気持ちだがそれを振り払って徒歩で向かう。


「……」


幸い愛奈に貸切にしてもらった場所は三十分で行けるので結構すぐに着くのでその間はゆっくり歩くことにする。その道中で急いで引っ越しの準備をしたり車に荷物を積めたりしている家が多く見れる。やはりここだと危険が高いからか。街から少し離れてるとはいえどうなるかまではわからない。だからこそ安全な場所まで離れるのだろう。僕はそれを横目に秋之舞へ向かう。少し説明すると秋之舞という場所は普通ならば予約が必要となる修練場で剣の他に槍や弓などの練習などもできる所だ。だが今回愛奈に頼んで貸切にしてもらったから存分に練習することができるためその間、そこにいようと考えている。距離的には帰れる距離だがやはり皆に甘えてはいられない。だからこその選択をしたのだ。

しばらく歩くと秋之舞に着き、中へ入ってカバンを降ろすと中からビデオを設置する。後から動きを確認するためだ


「(勝ってみせる。僕が……仲間が殺されないようにするために)」


刀を鞘から抜き、早速中で刀を数回振るう。そして目を瞑って青葉をイメージしてその残像と戦う。大鎌が迫り、それを避けるとすぐさま追撃。だがそれを避けると刀を一突きする。青葉の残像には刺さってるイメージだったがそれでも暁はこのくらいでは倒れないし、何よりも当たりもしないだろう。


「(もっと、もっと速くだ……)」


今度は修練場内を目を開けて素早く移動する。重心を若干前に倒しまるで相手の懐に潜り込むかのようにして真ん中へ瞬時に移動して刀を振るう。しかし自分の思い描いたイメージ速度よりも三秒も遅れる。普通ならば問題ないかもしれないが暁相手ではたとえ一瞬の抜かりでも表せばその瞬間やられてしまうだろう。だからこそ今のは失敗。歯軋りをして何度も走り、振るい、蹴り、二刀流にして刀を交差して斬り、片方で受けてもう片方で斬り付けるということをした。


「(っ!この程度じゃまだダメだ!)」


そう思い、時間も忘れて何度も繰り返し、時折ビデオを見て再確認し、ダメと判断したところを直すように動いてみる。だが……。


「っ!うあ……」


どうしても最後の一太刀が足りずにイメージ残像相手にも敗北している。僕は床に大の字で転がると荒い呼吸を静めるために息を整える。


「……どうすりゃいいんだか」


思わず呟いてから起き上がり、再び体を動かそうとする。が、ガクンと膝を折ってしまう。思わず床に刀を刺して杖代わりにすると倒れるのを抑える。


「……体力も落ちたか。無様だな」


それでもなんとか立ち上がって再び息を吐いてからイメージ残像と戦う。速度はなんとかなってもがむしゃらに刀を降ってるだけでは意味がない。だから大きくは振り過ぎずに軽く振ったりフェイントをかけたり時折逆手に取ってイメージ残像の攻撃を受けたり攻めたりする。


「……はぁ……はぁ」


それもしばらくするとまたしゃがみ込む。今度は刀も手から放して床に置く。さすがに疲れるな。時計を見ればまさかの五時間も経っていた。少し休憩にしようと思って近くの水道で水を飲むために立ち上がる。気付けば汗だくになっていて服もベタベタする。とりあえず水を飲もう……。水道の蛇口を捻ってゴクゴクと水を飲む。それから軽くだが顔も洗って汗を少し落とす。


「ふぅ……」


僕が顔を上げると額から再び汗が流れる。やはり動き続けるには無理があるな。人間それは仕方の無いことだが、それでも昔はまだまだ動けたはずだ。


「どうぞ、秋渡さん」


「ん、サンキュ」


横から不意にタオルを差し出されてそれを受け取って顔を拭く。少し濡れてるからか気持ちがいい。と、ここで気付く。今は誰もいないはずなんだが……。そのタオルを渡してきた主へ視線を向ける。


「スポーツドリンク、いりますか?」


「……その前に聞きたいんだが」


「?」


「なぜここに?幸紀」


笑顔でスポーツドリンクを差し出している張本人の幸紀に思わず聞いてしまう。貸切にしたからって確かに誰も入るなとまでは言ってないが行き先を知ってるのは恋華、愛奈、舞、明菜だけのはずなんだが……。幸紀は首を傾げるが、それでも笑って答える。


「妻が夫の傍にいるのは当然のこと、ですよ♪」


「答えになってないぞ」


幸紀の返答に思わず苦笑してしまう。とりあえずスポーツドリンクを受け取って飲む。ちなみにここにいる本当の理由は心配だったから家に電話をかけて明菜から場所を聞いたから、だそうだ。嬉しいんだけどなんか迷惑な気もするしなぜ明菜もすんなりと教えたんだろう……。


「秋渡さん、少し休んでください。汗は私が拭いておきますから」


「いや、そこまでする必要は……」


「私がやっておきますから」


「いやだから……」


「やっておきますから」


「あのさ……」


「やっておきますから!」


「……おう」


幸紀に断ろうとしたら全部を言わせてもらえずに笑顔の迫力に負けた。最後に承諾したら幸紀は嬉しそうにして修練場の汗を拭き始める。……こんなんで大丈夫なのか?僕。世話焼きなのかは知らないが幸紀がこんなことまでするとは思わなかったぞ……。


「〜♪」


鼻歌を歌って機嫌が良さそうにしてるから強くは言えないんだけどさ。それにしても嬉しそうに床を拭いている幸紀だが準備が良すぎやしないか?あまり細かく言うつもりはないがそれでもなんか気になってしまう。汗を拭いながらもそんなことを気にして幸紀を眺めてると視線に気付いたのか幸紀がこちらを振り向く。


「どうかしましたか?」


「いや、なんでもない」


「?変な秋渡さん♪」


クスクス笑うその姿は初めて会った時に比べたら有り得ないくらいに変わっている。あの時は確か周りを見ようとはせずにただただその瞬間にいるだけの雰囲気だったのに今は今を本気で楽しんでいるように思える。


「(きっかけが自分……なんて思えないんだがな)」


それでもなんとなく実感があるから完全に否定はしきれない。まぁいいんだけどさ。さて、休憩も充分だしそろそろ続きでもやるとしますかね。


「幸紀、そろそろ続きをするから離れてろ」


「はい!」


ここで帰れと言えない辺りは僕も甘いんだろうな。それでも幸紀はパタパタと邪魔にならないところへ移動する前に僕からタオルとドリンクを回収し、それから移動する。そしてジッと僕を見つめてくる。……凄くやりにくい。だがそんな雑念を斬り捨てるように僕は刀を構えて先程までと同じことを繰り返す。さっきと違うのは幸紀の熱い眼差しがあるくらいだが、それを忘れるくらいに集中することにした。


ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

明「明菜です」

ア「ついに最終局面に入りましたね!」

明「暁の強さは未知数だと言われてるけど他の五神将も太刀打ち出来ないって話だからね」

秋「勝てるかは正直分からん。だが僕にも守りたいものはある」

ア「なら勝つしかないですね」

明「仮に負けたとしてもタダでは負けられないってことにも思えるわね」

秋「まぁな。僕に勝ち目がなくても爪痕は残す。……負けるつもりはないがな」

ア「一騎打ちならば本当にコンディションが物を言いそうですね」

秋「ああ。不調じゃないことを願うわ」

明「そうね」

ア「では今回はここまでにしましょう」

秋「そうだな」

明「それじゃ……」

ア・秋・明「また次話で!」

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