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第八十九話 決戦方法

舞が半分寝ててそれを明菜と眺めていたらリビングへのドアが開き、そこから幸紀が顔を覗かせた。


「お風呂いただきました」


温まったばかりだからか頬が赤い幸紀。届けられたのがピンクのパジャマだからなのか若干色気が出てるような気がする。幸紀は迷わず僕の横へやって来てソファに座る。特に止める理由もないので何も言わなかったが。ともかくこのままだと間違いなく舞が寝てしまうだろう。


「明菜、舞と入って来てくれねぇか?」


「いいわよ」


頼むと明菜は二つ返事で返してくれ、寝惚けてる舞に声を掛け、肩を貸しながらリビングから出て行く。それを見送ってた幸紀はくすくすと笑みを零していた。


「舞さん、相当お疲れだったんですね」


「まぁこっちの祭りは初めてだったからな。はしゃいでたんだろう」


向こうではこっちのような祭りはなかったらしいし。仮にあったとしても茂実村は主にお年寄りの人が多いところなんだから余計に厳しいだろう。だからこそはしゃいで遊んだ分、帰ったら疲れが出て眠くなったんだろうな。舞が金髪でオッドアイなのは特に何も言われたりしなかったみたいだしよかった。内心そう安堵していたら幸紀がそっと寄り添って来た。


「……まだ風呂入ってないから多分臭うぞ?」


「秋渡さんからそんな臭いはしませんよ」


「……甘えん坊だな」


「好きな相手の前ですから」


幸紀は離れまいとするかのように腕を組んでくる。振り払うことはせずに好きにさせてやると幸紀は幸せそうに微笑む。その際にふわりとシャンプーの匂いがして理性を崩壊させようとしてくる。僕は色々と抑えるために鍛えた精神を信じてなんとか二人が上がるまで耐え抜くことを決意する。それか恋華が戻って来たら助かるかもしれない。だがそんな風に耐久してなんとかやり過ごそうとしてるのに気付いたのか、幸紀は何もしてこないことにムスッとして更に密着して柔らかな身体を押し付けてくる。しかしそんな簡単に僕は堕ちるとは思ってないのか頬と頬をくっ付けてきた。


「んー♪」


機嫌が良さそうにスリスリしてくる姿は小動物を連想させる。それよりも暑くてなのかそれともわざとなのか幸紀は胸元を少しはだけさせていて目のやり場に若干困る。恋華曰く困ってるように見えないとのことだが困るものは困る。

それにしても本当に無防備な女周りに多くないか?色んな意味で勘弁して欲しい……。


「ふわ……」


不意に横から聞こえた欠伸にチラリと視線を向けると幸紀が若干眠たそうに目を擦っていた。頬擦りもやめてポスンと頭を僕の肩に乗せてくる。しかしまだ眠気を堪えているのか目を瞑ろうとはしない。だがこれで幸紀が寝てくれれば理性との戦いは終わる。そう判断して僕は幸紀の頭を優しく撫で始める。


「秋渡……さん?」


ぽやっとした目で見上げてくる幸紀に僕は無言で撫で続ける。幸紀は段々と気持ち良くなってきたのか瞼がどんどん下がり、疲れもあってか目を閉じると完全に眠った。規則正しい寝息を立てて寝てること、すぐに眠ったことから余程疲れていたらしい。舞もそうだったし恐らくそれは皆同じなのかもしれなかった。ともかく幸紀をこのままにしておくわけにはいかないので僕は起こさないようにしてお姫様抱っこをし、ふと空いてる部屋のベッドには布団を用意してないことを思い出して仕方なく自室へと運び、ベッドへと降ろして寝かし付けた。自分は別に床でもソファでもいいしな。


「すぅ……すぅ……」


「おやすみ、幸紀」


眠ってる幸紀を見てフッと笑ってからもう一度撫でて部屋を出る。リビングへ戻っても舞と明菜はまだ上がっておらず、恋華もいなかった。それを確認してからソファに座ると僕はスマホを起動して棗にとあるメールを送る。賭けに近いものだが他に被害が出ないならばそっちのがいいと思ってやってみたことだ。


「……尤もあいつが乗ってくれるかは本当に賭けだがな」


暁がこの条件でも構わないと言うのならば己を鍛えるだけでいい。しかし呑まないならばまた色々と考えなければならないためなんとも言えなかった。棗には苦労をかけるがそこはもう頼むしかないと割り切ろう。


「……」


一人無言でいるリビングは久々な気がした。恋華も度々来てたし舞や明菜が来てからは一人の時は更になくなっていたし、賑やかなのも当たり前になりつつあった。だからか無音の空間がいつも以上に虚しく思えてしまった。


「(らしくないな、僕も。ま、それもまた一興か)」


自嘲気味に笑ってるとスマホが振動してメールの受信を確認する。送り主は棗でその内容に僕は目を見開いた。


『件名:なし

内容:さっきお前からの内容だけど問題ないぞ!暁のやつもどうやらそっちを望んでるみたいだし聞いたら承諾してくれた。あいつはあいつでお前との戦いを望んでるみたいだからな。ともかく戦う場所は深桜で戦い方はお前と暁の一騎打ちだ。あいつも凄く強いから頑張れよ!ちなみに一騎打ちになることは報道するみたいだし決戦の日も早めるらしいぞ』


棗からの内容から察せるように僕がさっき棗に頼んだのは暁に僕と一騎打ちにしろとの内容だ。正直期待はしてなかったのだが、それは杞憂に終わったようで安堵する。しかし報道か。前みたいに前もって準備してたわけじゃないだろうからどうやるのだろうか。……いや、それは今は置いておくとしよう。ともかくこれで僕は暁との一騎打ちに集中できる。他の五神将達の妨害が不安だったし皆を守り切れるかがわからなかったから本当によかった。


「久々に剣でも振るか」


時は待ってはくれない。日にちも早まるなら尚更だ。僕はそう思い部屋にある刀を取りに行ってから庭へ出て鞘から刀を抜く。目を瞑って相手をイメージし、ぼんやり浮き出た影に一閃する。そしてすぐに次に浮き出た影に今度は刀を突き出す。次は目を開き何度か刀で攻撃を受けるように構えて僅かな隙を突くようにして刀を逆手に取ってカウンターを与えるように振るう。そのようなことを何度も続けてから今度は二刀流でも同じように繰り返す。次に相手の背後に素早く回り込むようにして動き、斬り上げる。そして刀を交差させて同時に斬り付けたり、斬り付けた隙を狙われないように蹴りを突き出す。二刀流の場合だとその隙が大きくなりやすいため、刀で防御するよりも他の体術で補った方が素早い。踏み込んだりしたら後方へ回避するのも難しいだろうし下手したらバランスも崩しかねない。まぁそれは蹴りを繰り出すのも変わらないが、相手が踏み込めないならばそれに越した事はないだろう。彼此三十分くらい同じ事をやってから手を止める。祭りにも行った後だから疲れを溜めすぎても良くないからここまでにしておこう。


「……それにしても少し落ちたか?」


自分で刀を振る速度が落ちてる気がしてならない。時間を見ては偶に振ってたんだが……。だがあまり気にしないようにして刀を鞘へ戻し、家の中へと戻る。汗を拭くためのタオルを取りにタオルの置いてある部屋へ行こうとしてその必要はなくなる。


「随分熱心だったね。はい、タオル。少し冷やしておいたよ」


恋華がいつの間にかやって来ててタオルと飲み物を用意してくれていた。僕は恋華に「ありがとな」と礼を言ってから受け取り、汗を拭う。恋華のことだ。恐らくは家に来て僕が刀を振ってるところを見て即座にタオルを取りに家に戻り、タオルを冷やしておき、僕がやめるタイミングも大体はわかってるからそれに合わせて飲み物も用意したのだろう。


「それで、どう?」


恋華の「どう?」は暁とのことだ。多分だけど恋華の性格上僕が皆を巻き込まないように動こうとしてたのはお見通しだったのだろう。流石は幼馴染みだ。


「なんとかやるさ。一騎打ちに持ち込めたしな」


「……そっか。じゃあ私達は全力で応援してるからね」


「それは益々負けるわけにはいかないな」


恋華は戦いに巻き込まないようにしてくれたのを嬉しそうに、しかしどこか寂しそうにしながらも受け入れてくれた。僕はそんな恋華の頭をくしゃっと撫でるとフッと笑う。恋華は振り払おうとはせずに大人しく撫でられる。


「さて、中に戻ろうか」


「うん」


撫でるのをやめると恋華は名残惜しそうな顔をしながらも素直に頷いた。そして中へ入り、リビングへ行くと明菜が一人で本を読んでいた。だが僕達に気が付くと本から顔を上げる。


「おかえり。舞なら先に寝かせたわ」


「ああ、悪いな」


「舞ちゃん、疲れてたもんね」


恋華曰く帰り道からすでに眠そうに目を擦ってたそうだ。僕と明菜は微笑を浮かべるとリビングに小さく笑い声が響いた。……こんな風にまた笑えるようにするために僕は負けられないな。こんなに楽しくて和やかな時間を簡単に失うわけにはいかない。暁、お前がどう思ってようが僕はお前に打ち勝ってやる。改めてそう決意した。



ア「どうも、アイギアスです!」

恋「恋華です」

明「明菜です」

ア「いやー、ついに決戦方法が完全に決まりましたね!」

恋「五神将同士の一騎打ちって多分並じゃないんだろうなぁ……」

明「しかもその一騎打ちをするのが五神将最強同士だしね。暁は青葉達が束になっても敵わないらしいし」

恋「あの人達も大概強かったと思うんだけど……」

ア「その強い三名を秋渡くんも倒してますけどね」

明「そうね。だからあっさりではなくとも秋渡は今回も勝つんじゃない?」

恋「……そうだね、秋渡なら勝つよね」

ア「以前敗北したこともありますがあれも運が悪かったとも言えますからね……」

明「私はその勝った人には少し尊敬するわ」

ア「少しなんですか?」

明「ええ。だってそれ、彼の報復を受ける数少ない対象になるでしょ?秋渡の報復とか恐ろし過ぎるわ」

ア「……あー、確かに否定はしません」

恋「自分のことで報復は余程のことがないとしないと思うけど……」

ア「ま、それはそれとしてお二人はやはり秋渡くんの勝利を?」

恋「疑わないわ」

明「相手が相手だけど負けるとは思えない」

ア「さすが秋渡くんですね!見事な信頼です!」

恋「秋渡なら……やってくれる!」

明「援護はできずともやれることはあるはずだからね」

ア「そうですね!……では今回はこの辺にしておきましょう。それでは……」

ア・恋・明「また次話で!」


おまけ


美「ひゃっ!?」

秋「危ない!」

ふに…

秋「……あ」

美「ん……!」

秋「す、すまん」

美「い、いやいいんだよ!?頭下げなくていいから!」

秋「だが触ったのは事実だ」

美「こ、転びそうになった私を支えてくれただけだよ!?」

秋「それでもだ。本当に悪い……」

美「う、うん。大丈夫だから顔上げて?」

秋「優しいな、美沙は」

美「(さ、触られたのが嬉しかったなんて言えないよぉ……)」


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