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第八十八話 祭りの終わり

祭りの締めはやはり定番の花火であり、その花火は皆で見るために全員が合流した。それぞれ満足したのか皆笑顔だ。場所取りも橋本と相澤が取っておいたみたいで花火が打ち上がるところから凄く見えやすい。今までは祭りから帰って一人で屋根から見たり高台から恋華と二人で見たりしてたな。これだけの大所帯で見るのは初めてだが悪い気はしない。


「秋渡さん、楽しみですね」


横から幸紀に声を掛けられ、楽しみなのは僕もなので「そうだな」と短く返す。ちなみに僕の左右には右に幸紀、左に恋華というポジションになっていた。相澤と橋本も近くにいるがなぜか話し掛けてこない。美沙も愛奈や星華と共におり、舞は明菜と変わらずで生徒会のメンバー達は固まって会話を弾ませていた。


「花火、かぁ。祭りは毎回来てるけど花火を秋渡と見るのは久しぶりかな?」


恋華の疑問に最後に一緒に見たのは高校に入る前だったなとぼんやり思い出す。去年は恋華の親が実家に戻らなければならなくてその戻っている間に花火があり、祭りの期間には戻って来れたが花火までは一緒に見るのは不可能だったのだ。だから去年は祭りには一緒に行ったが花火は家の屋根から一人で眺めていた。その時は星華とも関わりはあったがそこまで仲が良くなっていた時期でもなかったし。

……去年の僕は今年にここまで色々と変わるなんて思いもしなかっただろうな。


「ま、これはこれで悪くないがな……」


「どうしましたか?秋渡さん?」


思わず呟いた僕に幸紀が不思議そうに声を掛けてくる。それに「何でもない。花火楽しみだな」と答えておいた。幸紀は笑顔で「はい!」と答え、恋華も「そうだね」と答えてくれた。……本当に暁の戦争宣言が嘘みたいだ。一騎打ちだけならばまだ気が楽なんだがな。そんな出来ないだろうことを考えていたら……。


バァンッ!


一発の花火が打ち上がり、周りから感嘆の声が聞こえる。かくいう僕らも皆先陣を切った花火を軸にどんどん上がる花火に全員が見入って眺めていた。舞や明菜は花火を見ることはなかった可能性が高いから余計に新鮮かもしれないし、冬美や室川、工藤は生徒会があってそこまでの余裕なども少なかっただろう。幸紀も見たことはあまり無いらしく、友達等と来ることもほとんどなかったらしい。愛奈は大体毎年忙しくてそれどころではないようだが今年は久英さんが気を利かせてくれたらしい。理由は知りたくもないが。美沙は花火が上がってる中でのライブはあるようだがじっくり見れるのはかなり久しぶりとのこと。……うん、なんか本当に普通じゃない奴らが多いな、僕の周りの女子。


「……秋渡さん」


コソッと横から声を掛けられ、僕は視線を横へ逸らすと幸紀が目を瞑って顔を上げていた。何をしたいのかわからない……ということはないのだがこの中でやるのはさすがに躊躇われる。幸紀もそれを感じ取ったのか目を開けてちょっと残念そうに笑う。おかげで助かったと思ったのだがどうやらそう思うのはまだ早かったみたいだった。


「ん……」


幸紀の方から近付けてキスをしてきたのだった。僕は目を見開くが幸紀はすぐに離れ、悪戯が成功した子供のように無邪気に笑った。その笑みに内心「やられた」と思いながら頭をポンッと軽く叩く。幸紀は目を閉じてそれを受け入れるが口元の笑みはそのままだった。……しかし問題はまだあった。反対側に引っ張られ、左腕を恋華に拘束される。恋華に視線を向けるとちょっとムスッとした顔が出迎えてくれた。


「……私もする」


恥ずかしいのだろうがそれでも宣言してから僕の返事も待たずにキスをしてきた。ただ幸紀と同様にすぐに離れたが。やがて腕も離して元の位置に戻ると幸紀は目を丸くしてるが恋華はそんな幸紀にまだ負けてないという視線をぶつけた。だが今の心境は二人共同じで恥ずかしがっているところだろう。なので僕のやった行動は二人の頭をポンッと叩くことで収めることだった。そして小さく一言呟く。


「……続きはまたな」


その言葉で恋華も幸紀も目をパチくりとするが、すぐに顔を見合わせ、渋々なのかちょっと納得しないようにして頷いた。それに僕も頷いて再び花火を楽しむことにする。どうやら他の皆は花火に夢中で見てなかったようで内心安心していた。のだが……。


「……ニヤニヤ」


室川がこっちを見てニヤニヤしていた。それに気付いたが今下手なことをすればバレるので無視するしかなかった。

その間の花火を見てる皆は静かにしていたので割愛させてもらう。


ーー

花火を見終え、祭りも今日は終了に近付いたところで解散した。相澤と橋本はさっさと挨拶して帰り、名残惜しそうにしながらも星華、冬美、愛奈、美沙、そして室川と工藤は去って行く。幸紀は俊明さんに言われて泊まってこいと言われたとさっきメールが来てたらしく、断る理由もないので承諾した。舞と恋華は若干不服そうだが決定権は僕にあるからか黙っており、明菜は顔を逸らして笑いを堪えていた。幸紀は幸紀で許可したら嬉しそうに笑って尻尾があれば主人に褒められた犬のようにブンブン振っていただろう。思わずそう連想したせいか無意識に頭を撫でていた。それに益々不機嫌になる恋華と舞だったが、二人にもしてやるとその場はなんとかなった。明菜は笑ってたけど。

そんなこんなで帰ってきてリビングへと上がる。


「お、お邪魔します……」


幸紀はおずおずしながら中へ入り、リビングへ入ってまず浴衣から着替えたいとのことなのだがなんせ急なために着替えがない。だがさすがは俊明さんと言うべきなのかタイミング良く長谷川家に仕えてる執事さんが着替えを届けに来たのには皆驚いた。がおかげで着替え以外の必要なものも届けられたのでとりあえずは安心して着替える。執事さんは幸紀の浴衣を持ち帰るよう言われたので少しの間待つと言っており、二階の空いてる部屋で女子達を着替えさせて着替えた後に執事さんに浴衣を渡し、執事さんは会釈をして立ち去った。僕もその間に別室でさっさと着替える。なお、恋華は着替えるために一度戻り、今日は泊まるとのこと。部屋はあるから別にいいが恋華はそのまま家で寝てもいいような気もする。口には出さないがな。


「んじゃ風呂は……」


「秋渡さんと入ってもよろしいですか?」


「ちょ、長谷川さん!?」


恋華がすぐに戻って来ないので幸紀に先に入ってもらおうと考えた矢先、幸紀は僕の言葉を遮ってとんでもないことを言ってきた。当然それには舞が反応し、明菜も驚いた顔をしている。僕はいつぞやの幸紀の家でのことを思い出して顔を逸らした。しかしそれをさせないかのよえに幸紀は服を少し摘んで下から見上げてくる。


「ダメ……でしょうか……」


……あざとい。主に捨てられそうな子犬が甘えるように引き留めるのと同じだ。だがここで折れては僕は何かが終わる気がしてなんとか堪えようとする。


「ダメだ。いくらなんでも限度が……」


「……そうですか」


断ると幸紀は見るからに落ち込んでしまい、とてつもない罪悪感に見舞われた。だがそれでもここは心に傷を負ってでも折れるわけにはいかないので申し訳ないが幸紀には我慢してもらう。……横で舞がめっちゃ安堵してて明菜が右手で腹を抱え、口に左手を当てて顔を逸らして笑いを堪えていたが見なかったことにする。幸紀は諦めて離れ、執事さんから受け取った着替えなどと共にリビングから出た。僕は耐え切ったことに安堵してソファに座り込む。すると舞はなんか上機嫌に飲み物を入れに、明菜はやっと笑いが収まったのか息を吐いてから近寄って来る。明菜に「助けろよ」と視線で訴えると「どうやって?」と困ったように視線を返してくる。それもそうかと納得して息を大きく吐く。


「見てるのは面白かったわよ」


明菜からそんな感想を頂戴するが全然嬉しくない。こっちは理性やらなんやらと戦ってたんだし。


「女子って裸を見られるのは嫌なんじゃないのかよ……」


「相手によりけりだと思うよ」


そう愚痴ると明菜は至って平坦に返してくる。本当に女ってわからんな……。小説とかだと服とかに触れただけで変態とか言われてたのに……。僕の周りの女子は無防備なのが多くないか?愛奈とかなんて平気で胸とか押し付けてくるし美沙はライブの後とかどうだったか聞いてくる度に手握ってこようとするし星華は知らないうちに接近してくっつくし……。挙げたらキリがなさそうだ。


「(僕も大概無防備だな。結構簡単に接近許してるし)」


去年までだと想像もしてなかったことだ。同居人が増えるとも思わなかったしとんでもない大物と友人関係……いや一部は婚約関係になろうとしてるが……にもなるし。言っちゃなんだがこれも運命ってやつなのかね。そんなもん信じてなかったんだがここまでなるとそう思わずにもいられなかった。


「(ま、おかげで楽しくなってるんだから別にいいんだけどな)」


そう思いフッと笑みを零した。それを見て何かを悟ったのか明菜も笑った。


「お兄様、明菜さん、お茶は如何ですか?」


「ああ、もらうよ」


「私も」


舞は台所から冷たい麦茶とコップをお盆に乗せながら聞いてくる。僕と明菜はお言葉に甘えてお茶を入れてもらい、舞も自分の分も入れてからソファに座る。祭りで疲れてることもあってか皆無言だが変な空気が流れてることもない。何よりもこうして皆でゆっくりできるのも全て僕次第にもなっている。暁との戦いで得られるものもあれば間違いなく失うものもあるのだろう。だけどせめて僕の周りの人達はなんとしても守りたい。八月が過ぎれば九月だが、今年の九月は歴史に残るかまではわからないがそれでもいつものような、そして当たり前の日々で終わることはないだろう。


「(……せめて大惨事にならないようにだけはしたいな)」


生き延びても戦いの後遺症で生き延びた理由を失うのも嫌だしな。棗に聞いて暁に聞いてみてもらうか?……ダメ元で試してみるか。だけどせめて今はのんびりさせてもらおう。折角祭りで楽しんだ後なんだから。ふと舞と明菜へチラリと視線を送る。舞は少し眠いのかうつらうつらと夢の中へ旅立ちを始めている。明菜は静かに麦茶を飲んでいた。二人から視線を外してそのまま天井を見る。守りたいのはここにいる人だけじゃないことを思うとやはりプレッシャーが襲って来る。だけどなんとしてもそのプレッシャーに勝たなければ暁に勝ち目なんてないだろう。



ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

ア「おや、今日はお一人なのですね」

秋「ああ。たまにはそれもいいかもしれないと思ってな」

ア「そうですか」

秋「ああ。それよりも今回は結構微妙な終わり方だな」

ア「はい。次は世刻家でのお泊まり会にしようかと思ってましてね」

秋「……男一人は寂しいからやめてほしいんだが……」

ア「いえ、そうしないとあなたの婚約者さんやらに私が殺られます」

秋「ああ見えて幸紀は凛桜の生徒会メンバーだから強い上に権力もそれなりにあるからな。それ以上に強い権力を持ってるのが愛奈だが」

ア「秋渡くんの周り、本当に普通の人って少ないですね」

秋「結構気にしてるんだから言わないでくれ」

ア「気にしてたんですか……」

秋「そりゃな。普通なら知り合うことなんてないような女子ばっかだしな」

ア「確かにそうですね」

秋「と、それよりもお前読者の人達に言うべきことがあるだろ?」

ア「はい。このタイミングで言うのもなんですが投稿が遅くなってしまい申し訳ありませんでした」

秋「不定期更新って最初に言ってたから気長に待ってくれる人もいるのかもしれないけど本当に申し訳ない」

ア「次もいつになるか分からないのでまた気長にお待ちいただけたらなと思います。それでは今回はここら辺で失礼します」

秋「あ、それと感想をくれた方々、大変感謝している。本当にありがとう」

ア「それでは……」

ア・秋「また次話で!」


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