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第八十七話 期待してくれる人

恋華side


ーー

恋華はいつから自分が秋渡に恋をしたのかは覚えていない。ただ彼が近くにいたからこそ好きになれたのは間違いないだろう。昔から親同士が仲が良く、よく家を留守にしていた(というかほとんどいなかった)世刻秋雨、舞渡の代わりに秋渡を預かっていた。当然そうなると昔から遊んだり風呂に入ったり一緒に寝たりもした。その時は純粋な子供らしく、一緒に遊ぶ相手であり一緒にご飯も食べたりする仲だった。まぁ秋渡の場合はあまり普通の子供とは言えなかったが……。それでも子供らしい無邪気さだけはあった。少なくとも今みたいに冷静で滅多に笑みを浮かべないで冷たい印象はしなかった。

今と変わらないと言えば恋華のことをしっかり守っていることだろう。幼稚園の頃はよく秋渡を遊びに誘うと他の子が嫌がって恋華をいじめていたら秋渡はそのいじめっ子をボコボコにしていたものだ。先生も止めていたがそれでも秋渡はいじめていた子に容赦はしなかった。両親にも電話が入ったこともあったが原因が恋華をいじめていたことから秋渡の両親は先生が止めなかったことも事の発端の一つと考えて逆に恋華のことについて追求した結果、先生達は黙り込むしかなくなってしまった。

恋華はそんな昔を思い出して横にいる逞しく、そして恰好良くなった幼馴染みを見つめる。


「(昔からずっと助けてくれてたんだよね、秋渡)」


秋渡は恋華の視線に気付いてフッと笑みを浮かべてくれる。恋華はそれに笑顔を返すと滅多に他人には見せない秋渡の笑みは深まる。内心恋華はそれを喜ぶがやはり今は秋渡の周りには彼の笑みを見れる者が増えている。恋華はそれが複雑になって不安にもなる。


「(中学までは本当にこの笑みは私だけのだったのにな……)」


その不安から恋華は段々と秋渡が自分から遠ざかるような気がしていた。先日、由紀が婚約者であり、その婚約も秋渡が認めたということから更に不安は深まっていた。このまま秋渡は側からいなくなってしまうと思うと恋華は笑顔を曇らせてしまうだろう。いや、笑顔が減るのは何も恋華に限ったことではない。秋渡のことが好きな人で選ばれなかった人全員がそうなってしまうだろう。それでも最終的に決断するのは秋渡だ。


「(もっと……。もっと早く好きって言えば……言えれば違ったのかな……)」


恋華は秋渡にバレないように顔を背けながら寂しそうな顔をする。今になってしまえば後の祭りなのだがそれでもそう思わずにはいられなかった。仮に想いを伝えてもどうなるかはわからない。彼氏彼女の仲になってたかもしれないし逆に距離が開くかもしれない。それは秋渡だけでなく周りや本人達の意思にもよるだろう。いずれにせよその結末は神のみぞ知る。


ーー

秋渡side


僕達は祭り会場にて先程のガラの悪い連中に絡まれたせいで嫌に目立ってしまっていた。人とすれ違うとヒソヒソ聞こえ、遠くからバレないようにしてるのかはわからないが指を指してくる人もいる。おかげで今僕達の居心地は凄く悪かった。


「折角のお祭りなのにごめんね?」


美沙が僕に謝罪しているがあからさまこれは美沙のせいじゃない。自覚があるから言うが原因は間違いなく僕だ。なんせ不良共をゴミよろしく放り投げたりしてるし。後から気付いたがそんなことをすれば悪目立ちするのは間違いないだろう。


「いや、今回は僕が悪い。もっと穏便に済ませればよかった」


僕が謝るとなぜか恋華から「それは無理じゃない?」みたいな視線を受けた。それに抗議したいがよくよく考えたら昔から穏便に済ませるなんてことが出来なかったから無理だと想い、否定ができなかった。そのため僕は恋華の視線から逃れるために恋華から顔を逸らす。恋華がジト目で僕を見てるのがわかるが何も言わない。


「さすがは秋渡さん。愛する者を守るのに手は抜かないのですね?」


「え、それどういう……」


幸紀の言葉に口を開いた僕は即座に閉じた。口元は笑みを浮かべていたのだが目が笑ってない。まるで夫の浮気が発覚して咎める妻のように。……正直に言って怖い。いや、浮気とかしてないからなんで咎める目で見てるのかがわからないが……。それはそうとこのまま目を合わせているのはまずいような気がして幸紀からも視線を外す。……誰か助けてくれ。


「(なんか、今年になってから僕の運気、とてつもなく低くないか?しかも不幸なことがほぼ女関係って……)」


ハーレムに憧れている男にはいいかもしれないが僕にはそんな憧れはない。守る奴を守り、他は無干渉を突き貫いてきたのに今年になってからはそれがなくなってきている。……それとも……。


「(これが他の五神将と対立する唯一の五神将の運命なのか?)」


だとすれば筋は通る。五神将の四人中三人と戦い、勝利したことで残る最強の相手と対面する。それが今年だから守るべき者達の運命すらも突き動かしたってところになるのだろう。今目の前にいる恋華、美沙、幸紀はもちろんのこと、僕を恐れずに友として接している橋本、相澤、僕が偶然助けたことで出会った愛奈、遅刻したら偶然出会い、偶然目撃したイジメから助けて仲良くなった星華、生徒会と棗との戦いで助け、臨時の生徒会の戦力として共になったことから会話が増えた冬美、爺達の村の壊滅宣言と共にやって来た爺の村の唯一の生き残りにして実の妹の舞、櫻井ファミリーからの勧誘と共に敵対し、舞と会話して仲間になった新たな家族の明菜。これら全てが僕が変わることになったきっかけになってるのかもしれないな。


「(……中学の頃とは大違いだな。決して人と触れ合おうとはしなかったのに今は触れ合わないことの方が珍しくなってる。我ながら変われるもんだな)」


最もそれが起因で面倒事も転がっては来るのだがな。……まぁその面倒事もどうにかしちまってる時点で僕もまた受け入れているのだろう。……ただ不思議なのはなぜか男子からの視線は嫉妬ではなくほとんどが温かい同情の視線のが多いんだよな……。と、内心葛藤していた時だった。


「おう、秋渡君に恋華ちゃんじゃねぇか!」


聞き覚えがある声が聞こえ、そちらへ向くと丁度客を捌き終えた洋菓子店のおっちゃんがいた。正体がわかり無言で僕はおっちゃんへと近寄ると恋華が横から「こんにちは」と挨拶をする。美沙と幸紀が分かってない顔をしているので軽く教えてやる。


「この人は家が街の洋菓子店の人なんだ。昔ケーキを食いたがってた恋華を連れて偶々入った店だったんだが……」


「秋渡、甘い物を食べる時はコーヒーか紅茶も一緒に飲むからそれがなくてね」


「アドバイス……って程じゃないがケーキや他の洋菓子に合うコーヒーを勧めてみたんだ」


「そしたら客が来るわ来るわで今までの赤字が嘘のように消えたんだ!あん時は驚いたよ」


おっちゃんがそう言い、笑いながらたこ焼きを作っている中で僕と恋華が説明をした。美沙も幸紀も黙って聞いてはいたが聞き終えるとなんと答えればいいかわからない顔をしていた。……まぁ当然だわな。僕は苦笑するとおっちゃんへと向き直る。


「あれからどうだ?最近全く行けてないから気にかけてはいたんだ」


僕がおっちゃんに聞くとたこ焼きを返しながら嬉しそうに笑った。


「問題ないぞ。色々勉強して新しくコーヒーとか紅茶も増やしたんだ。アルバイトの子も増えてるから最近は大分楽にもなったぞ」


焼けたたこ焼きをパックに詰めてソースやマヨネーズ等をかけると六個入りのものを作る。それから同じような手順で二つ目をさっさと作り終える。待たせてる客でもいたのだろう。立ち去った方が良さそうと判断して背を向ける。するとおっちゃんがふと思い出すように声を掛けてくる。


「ああ、そうだ。さっき秋渡君の妹さんとお友達に会ったぞ。妹さんがいたなら教えてくれよな!」


「……妹だってよく分かったな」


髪色と目の色は特殊な舞だがそれだけでも僕と繋がるのは難しいだろう。血は繋がっているが似ているとは思えないほどに差はある。まず髪色。金と銀ということから兄妹に繋がることは難しい。目の色。2人ともオッドアイだが舞は片目を髪で隠していることが多いし今回も特に髪を纏めていることもしていないので難しいだろう。顔もそこまで似ている訳じゃないからやはり判断はできないと思う。そんな僕の考えを読んだのかおっちゃんは笑顔で答える。


「なぁに、雰囲気がどことなく似てるんだよ。お前さんみたいな特殊な雰囲気を持つ人はそういるもんじゃないだろ?」


「まず雰囲気を読み取れることが驚きだよ、おじさん」


おっちゃんの言葉に恋華が苦笑する。美沙と幸紀は黙って聞いているが恋華と同意見なのだろう、苦笑していた。女子3人に苦笑されてもおっちゃんの笑顔は崩れることはなくたこ焼きのパック詰めをテキパキと終え、なぜかそれを差し出してきた。


「ほれ、四人で食いな。サービスだ」


おっちゃんはニカッと笑ってそう言ってきたがさすがに恋華達は首を振る。


「いやいや、それは悪いよおじさん」


「そ、そうですよ!」


「いくらですか?」


恋華はある程度予想してたのか自然と断り、美沙は慌てて断り、幸紀は最早買うことを決めていた。しかし三人におっちゃんは答えることなく僕にたこ焼きを渡してきた。それを受け取るとすかさず金を渡そうとするとおっちゃんはさっさと手を引っ込めてしまった。


「ほら、さっさと食わないと冷めるぞ?せっかく上手く焼けてるんだから食ってくれよ」


「サービスは悪いだろう?何もしてないし」


「家の店を閉める必要がなくなった貢献をしてくれただろ?だからだよ」


「飲み行ったらいつもサービスしてるじゃないか」


「いんだよ細かいことは!」


おっちゃんは頑なに金を受け取ろうとしないのでここは諦めてやるべきだろう。


「……悪いな」


「気にするな。秋渡君、暁との戦い、勝ってくれよ?」


「?おっちゃんの場合暁が勝った方がいいんじゃないのか?」


おっちゃんに暁との戦いのことを聞くとおっちゃんは得意気に笑って答える。


「そりゃそうだろうよ!だけどな、俺からしたらお前さんのこともそれなりに理解してるからな。きっと今より男女の仲が良くなる国にしてくれると思ってるよ」


「……責任重大だな」


「はっはっは!それでもどうにかしちまうのが君だろう!」


悪気はないことはわかってるが改めて期待をされるということは自然にプレッシャーとなる。だが恋華を始めとして様々な人が意外にも僕の味方をして勝利を疑わないでいてくれる。剣に自信があってもそれでも暁相手だと通用するかがわからないという弱気な心も消えていく。


「(全く、どいつもこいつも自由に言ってくれるな)」


そう思わずにはいられないが不思議と嫌な気分ではない。恋華達を不安にさせないためにも勝つことが大事だが勝ってもそのまま動けないと不安にはさせてしまうだろうから気をつけなくてはならない。……最も青葉同様に無傷で勝利なんて甘い考えは持ってないけどさ。さて、折角もらったたこ焼きだ。頂くとしよう。


「期待に応えられるよう頑張るとするよ。じゃあな」


「おう!また店にも遊びに来てくれや。色々とサービスしてやるからよ」


「ああ。その時はよろしくな」


「おじさん、またね」


「ありがとうございます、おじさん」


「ありがとうございます」


僕は軽く手を挙げるだけで、恋華は手を小さく振って、美沙と幸紀は軽く頭を下げてからおっちゃんと別れる。おっちゃんはニカッと笑って見送ってくれ、その後に入ってきた客にたこ焼きを作り始めた。それを見てから僕達は近くのベンチに座り込んでたこ焼きのパックを開け、爪楊枝に刺して食べ始める。……あのおっちゃん、たこ焼きの焼き加減が去年よりも絶妙になってるな。おかげで凄く美味い。


それにしても暁との戦いに僕の勝利を信じてくれる人って結構いるもんだな、と思わずにはいられないな。正直仲間達以外にもいるとはあまり考えてはいなかったから少しばかり嬉しい。たこ焼きを咀嚼しながらそんなことをボンヤリと考えていた。


ア「どうも!アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

恋「恋華です」

美「美沙です」

幸「幸紀です」

ア「まずは投稿が随分と遅くなってしまい申し訳ありませんでした」

秋「忙しいにしても時間を見付けて書けよ。他の人もそうしてるんだろうから」

ア「善処します」

恋「ふふ。あ、ところで秋渡、この前のクッキーどうだった?」

美・幸「!?(いつの間に……)」

秋「ん?いつも通り美味かったぞ?柔らかめになってたから食いやすかったしな」

恋「うん。秋渡は柔らかめな方が好きだもんね」

美「しゅ、秋渡君!わ、私も今度何かお菓子作って来るから食べてみて!?」

秋「え、お、おう?どうした突然……」

幸「私もです!何か作ってきますね♪」

秋「??……わかった」

ア「(これはお二人の心境を理解してませんね)」

恋「(まぁ秋渡は超が付くほどの鈍感だからね)」

幸「あ、ちなみに何かリクエストはありますか?」

秋「ん?そうだな……(ぶっちゃけ甘過ぎなきゃなんでもいいんだが……)」

美「(うっ……あまり難しいと作れる自信がないよぉ……)」

秋「……特には思い付かないな。強いて挙げれば甘過ぎなければいいぞ」

幸「はい、わかりました♪待っててくださいね?旦那様♪」

ギュッ!

恋「ちょ!?」

美「ふわ!?」

ア「おぉ、大胆ですね」

秋「おう、待ってるわ」

ア「そしてそれに動じない秋渡君も流石です」

秋「いちいちこの程度で動じてたら身が持たねーよ」

ア「言われればそうですね」

恋「しゅ、秋渡は渡さないんだから!」

美「秋渡君を取られたくない!」

秋「ちょ、落ち着けお前ら!」

ア「なんか修羅場になってきたのでここで終わりますね!それではまた次話で!」

秋「おい待て!?先に終わらせるな!」

恋「秋渡は私のなんだから!」

美「わ、私だって負けたくないもん!」

幸「私は双方の親公認なのです!諦めてください!」


おまけ


ーー1時間後

秋「……こいつらが疲れてくれて良かった」

恋「……すぅ……すぅ」

美「……すやすや」

幸「……すぅ……」

秋「所でこいつらはどうすればいいんだろ……運ぶべき……か?誰か教えてくれ……」

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