第八十六話 星華と秋渡
星華、愛奈side
ーー
秋渡達と別れてから星華らは男女2人ずつという均等な数で行動を共にしていた。とはいえ星華も愛奈も身も心もすでに秋渡に向いているため橋本真守と相澤智樹に向くことはないだろう。2人もそれは自覚しているし相手が秋渡ということでも納得していた。そもそも同性の2人からしても秋渡はかなりのイケメンであるのだ。しかも女性よりも頭はいい、運動神経も抜群というまさに非の打ち所がないというような男なのだ。むしろ惚れない女性の方が珍しいだろうというレベルだ。何よりも銃刀法違反がない今の世では女性が男性に守られることも少ない中、彼は逆に男性が女性を守るということを体現していることも大きい。助けられた深桜の学生はそれなりにいる。恋華は然り、星華は然り、冬美、愛奈、美沙、舞と主に女性に多い。だが男性でも橋本、相澤の二人も秋渡には助けられているのだ。それに発言や態度からはわからないが彼は仲間が危険に晒されると必ず助ける。本能なのか彼が今まで危険に晒された仲間を見捨てたり最初から助けなかったことなど一度たりともない。
「それが世刻の長所、なのかな」
真守はそう呟き目の前で仲良く話している星華と愛奈を見る。元は接点などできることもないだろう二人だが秋渡を通じて二人は友達になり、秋渡を想うライバルにもなった。星華は秋渡の周りがレベルが高すぎることから秋渡を諦める気持ちもあったが今はそれがない。秋渡へ告白し、地位が高くなくとも彼を好きでいる。誰かを好きになることに資格はいらないということだ。無表情なためあまり感情を表に出しての会話がないことが中学では気味悪がられており、高校でもそれが少しあった。しかし秋渡にはそれがなく、気軽でもないが嫌う素振りがないことから少しずつ秋渡へ話し掛けていた。それでも喧しいと思われたくなくて初めは挨拶程度だったが……。真守は星華を見ながら初めて秋渡へ話し掛けていたことを思い出す。
『……おは……よう』
消え入りそうな声で秋渡へ話し掛け、近くにいた真守や智樹には全く聞こえなかったほどの小さな声。しかし真守や智樹がなんて言ったのか聞こうとした瞬間。
『ああ、風間か。おはよう』
秋渡はさも当然のように挨拶を返した。それだけで星華は少し口角を上げて席へ戻り、読書を始めていつもの無表情へと戻る。真守達は星華の声が聞こえたのかを秋渡へ聞いたら「え、聞こえなかったのか?」と逆に驚かれたのだ。それ以来から星華は頻繁に挨拶をしてきたのだ。それまではクラスクラスでも静かで無表情、美人なのに無口で前髪で目元も隠していたために気味悪いと女子が何人も口にしていた(男子は怖くてそういうことが言えなかったが、大抵は思っていた)。真守も智樹も思っていたので本人がいない時にそれを秋渡に聞くと実に冷静に、淡々と答えた。
『人の個性だ。人を避けたいならそうするかもだろうし人とぺちゃくちゃ話したいならそんな無意味なことはしねぇだろ?本人の意思なんだから僕がどうこう言うつもりはないし無理に変えろと言う権利もない。あいつの意思を馬鹿にするなら僕ならその馬鹿にした奴に『お前にそれを馬鹿にできる権利や資格でもあるのか?』と言うな。もしあるならばなんであるのかも問うがな』
と、薄く笑いながらクラスメートにも聞こえるような声で言い放ったのだ。それを聞いて女子は口を紡ぎ、男子は呆然と秋渡を見ていた。秋渡はそれに気付いて「なんか変な事でも言ったか?」と答えたのだからまた凄かった。だが真守は「いや、違いない!」と笑った。思えばその頃から秋渡は女子達から人気がさらに出たのかもしれない。理由としては言い放った言葉と恐れてないことを示したことだろう。他の男子ならばビビってそんなことできもしない。
「(懐かしいな……)」
真守は星華を見て少し笑って智樹と並んで祭りを楽しむことに意識を向けた。
ーー
星華の前髪は今目元に掛からない程の長さだ。偶然二人で教室を移動して時に秋渡がさり気なく「前髪、長いな」と呟き、星華が「……目、見えると……気味悪いって……」と答えたのだが、秋渡は「そうか?」と答えた。星華はチラリと秋渡を見ると秋渡は「結構綺麗な目してるけどな」と言い、「今までの奴らが見る目なかっただけだろう」と星華のことを馬鹿をにしてきた者のことを馬鹿にしたのだった。星華は驚いて秋渡を見、それからノートで口を隠してから秋渡に聞く。
「……切った方が……いい?」
今まではいじめていた者がなんと言おうとも絶対に切らなかったことを秋渡に尋ねてみた。秋渡はきょとんとしたがそれでもフッと笑うと、
「切った方がお前の顔がよく見れるとは思う」
と答えた。星華は秋渡の言葉に顔を赤らめたが嬉しそうに薄く笑ってからこくりと頷く。星華が秋渡に対してそんなことを聞いたのはある出来事あってその後しばらくしてからのことだ。
ある出来事とは先程真守が思い出していたこととは別の日に星華を体育館の裏で人もあまり来ない場所に連れて星華の髪についてある女子が星華に直接悪口を言ってたのだが、星華がいつも通り無表情でいたのが気に食わなかったのか怒って無理矢理髪を引っ張った。さすがに痛みは耐えられないので涙を流して抵抗しようとしたが、それがまた気に食わなかったのか今度は蹴って転ばせてから何度も踏み付けた。そして星華が丁度その時に持っていた秋渡に勧められた本をその女はあろうことかビリビリに破いたのだった。そしてまた星華へ暴力を振るって満足して帰ろうとした時だった。
「お前、僕の友人に何しやがった」
秋渡があからさま怒りの顔で青と金の目でその女を睨んでいた。この時秋渡は勧めた本のことについて恋華と話してて星華に感想を聞こうとしていないことに気付き、鞄はまだあることからどこかにいると判断して恋華と探して気配を辿ったらこの状況だったのだ。隣には恋華も当然いて星華のボロボロの姿を見て驚いて手で口を抑えた。
「星華ちゃん!」
星華と恋華は秋渡経由で仲良くなり、他クラスにも関わらず星華にも話し掛けて仲良くなった星華からしたら数少ない友人。恋華も秋渡同様に女子を睨んだが、その女子は余裕そうな笑みを浮かべて星華の髪を片手で掴み、もう片方の手でポケットからナイフを取り出して星華の首へナイフを当てる。
「どきなさいよ、根暗のお仲間さん。こいつが死ぬのは嫌でしょ?」
「っ!あなたねぇ!」
女子に恋華が怒りの声を上げる。秋渡は無言で女子を見ていたがやがて息を吐いてから……。
「死なせるかよ。だがお前には覚悟してもらうぞ?」
ギロリと殺気を含んだ目で睨んでからだった。秋渡は既に予測でもしていたのか小石を握った手からまるでナイフを投げるようにして投擲し、自然に女子の目を狙った。女子は思わずナイフを持つ手でガードをして小石を防ぐ。その間に秋渡はあまり開いてなかった距離を詰めてナイフがある女子の手を掴み、星華の髪を掴んでいる腕を殴る。その痛みに反射的に手を離した瞬間、秋渡は女子の胸倉を掴んで背負い投げをし、仰向けに転ばせる。
「いった!この!」
女子は転ばされてもすぐに体を起こして秋渡へ切りかかるが秋渡はナイフを握る手を難なく掴んで止めて足を引っ掛けて転ばせ、今度はナイフを地面に刺してから両手を抑えてから乗りかかって身動きを取れなくする。その間に恋華は星華を助け起こして秋渡とアイコンタクトで保健室に連れてくことを伝えると秋渡は目線だけで頷いた。恋華も頷くとその場から星華と共に立ち去る。拘束されている女子は暴れるが秋渡はビクともせずにいた。
「は、離せ!痴漢!エッチ!」
「……あいつらはいなくなったな。それじゃ」
秋渡は女子の暴言を無視して恋華達が立ち去って周りに人がいないことを気配で確認すると暴れている女子の顔面を容赦なく殴った。
「ぶっ!?」
殴られた女子は頬を押さえて大人しくなる。それからナイフを地面から抜き取って手の届かない所へ放ると秋渡は起き上がり、倒れてる女子を上から見据えて宣言する。
「もし今度もやったら次は腕がなくなると思え」
「ひっ!?」
秋渡の圧倒的な殺気をぶつけられて女子は完全に怖がって反射的に何度も頷く。それから慌てて逃げ出し、その場には秋渡一人が残った。秋渡は息を吐くとボロボロにされた本を拾ってざっと中身を見る。しかし中はどう見ても既に破かれていてとても続きが読めるような状態ではなかった。
「……さすがにこれだけ破かれてボロボロだともう読めないな。全部読んでたらいいんだが……」
諦め顔で溜め息を吐いてから本を閉じてからそれを持って保健室へと向かう。恋華が手当をしているだろうからそこの心配はしていないし、もしあの女子が報復しに星華や恋華に手を出したら本当に容赦なくあの女子に制裁を加える気でいる。保健室へと向かいながら秋渡は自嘲気味に笑って呟いた。
「五神将ってことが判明した時は嫌だったがこういう風に友を助けられるならば喜ばしい事だな」
そんな彼の呟きはその時に吹いた風にそっと掻き消されていた。
ーー
星華はふと少し前のことを思い出して薄く笑う。秋渡が、恋華がくれた時間はとても楽しく、彼女にとっては深桜に入ってよかったと思えた瞬間であった。今この場には秋渡と恋華はいないが、秋渡の友人である真守、智樹、そして雨音財閥の娘の愛奈がいる。
「さぁ、早く回りましょう!私、こういうものに参加するの初めてなんです!」
「ちょ、早い早い!待って!」
愛奈が目を輝かせて早足に歩き始めるのに対して智樹が慌てて追う。それを星華と真守はゆっくりと後を追ってその光景を楽しんでいる。ふと星華は九月に行われる戦いについて不安になる。
一ヶ月後、秋渡が勝とうが春樹が勝とうが生活は必ず変わるだろう。もちろん星華は秋渡の勝利を信じてはいるが、それでも相手が相手のためやはり不安は拭えない。だが完全に不安が抜けなくとも秋渡ならば勝てる、勝ってくれると信じられる。それは彼の周りの人間の認識だ。
「さて、俺らも追いますか」
「……うん」
真守は呆れた顔を隠さずいるが笑って星華を促すと星華も頷いて愛奈と智樹を追い始めた。この楽しく友人と遊べていること、その友人の仲間に自分を加えてくれた秋渡に感謝をしながら。
「(……今度もまた皆で)」
星華はそう思ってから先導している愛奈の後を追った。
ア「どうも、アイギアスです!」
星「……星華です」
愛「愛奈です♪」
ア「まずは投稿が随分遅くなってしまい申し訳ありません」
愛「そうですよ!私達のルートだけこんなに遅くなるなんて!」
星「……しかも内容が祭りじゃなくて過去のことばかりだし」
愛「でも星華さんと秋渡さんの出会いみたいなのは知れるお話でしたね」
星「……あの時秋渡がいなかったら今の私はなかった」
ア「救ったのが命でなくとも心が救われましたからね。いじめはこの学校でもあったんですね」
愛「そう言われれば深桜高校は男女差別が少ない所でもあると聞きました」
星「……うん。……でも実際に少ないけど皆無ではないよ。……その対象になってる男子もまだいるし」
ア「秋渡君は少なさそうですね」
星「……寧ろ優遇かな?」
愛「まぁ秋渡さんに媚を売りそうな人は多そうですよね」
星「……普通の男子じゃないから」
ア「そ、それはそうですよ……」
星「……でも秋渡にとってはただ喧しいだけらしいの。……友人でもない人からの好意は好きじゃないんだって言ってた」
愛「秋渡さんらしいですね。だからこそよくお話する私達を優先してくださるのでしょうけど」
ア「愛奈さんは少し度が過ぎると思いますが……」
愛「あれくらいやらなければ秋渡さんの正妻の座は得られなさそうですからね!」
星「……私も負けない」
愛「当然ですよ!私だって星華さんだけでなく他の方々に負けるつもりはありませんから!」
ア「相変わらず秋渡君は大変そうですね。羨ましい限りです」
星「……ふふ」
愛「さて、それでは終わりにしましょうか」
ア「そうですね。それでは……」
ア・星・愛「また次話で!」
ーーおまけーー
秋「やれやれ、僕には何人こんな女が集まるのやら……」
恋「これでも少ないとは思うけどね」
秋「……マジ?」
恋「うん。だからって秋渡を譲る気はないからね!」
秋「……そか。僕も本気で考えておかないとな……」
恋「……できるなら……私を選んでほしい……かな」