第八話 新たな敵
昨日は大変だった。恋華はあの後は僕と夕飯を食べた。そこまでは別に昔からだから気にしてない。けどなぜか風呂まで一緒に入ろうとしてきたのだ。さすがにそれは困る。
なので全力で阻止した。
「全く、なんで恋華のやついきなりあんなことをしたんだ?」
まぁもう気にしなくていいか。それより、
「また早く起きたな……」
こういう日は決まって何か起こる。時間は……まさかの五時。まるで今日は前の棗達哉みたいに五神将が出現することを示してるかのようだった。けど今日はもう五神将が来てもおかしくないから二度寝はしない。問題は愛奈に執着してる男……名前なんだっけ?……とりあえずナルシストから学校と愛奈を守らなきゃな。その男に現実を浴びせた方がいいだろうな。
と、考えていたら腹が減ったな。朝飯でも食うか。
「朝飯どうすっかな。コンビニ寄ってなんか買ってくか」
と、いうわけで着替えてコンビニに行くことにした。んで学校に行く準備も終わったので財布を持ち、家から出る。すると家の外に、
「おはようございます、秋渡さん!」
……愛奈がいた。こいつ、暇なの?
「なんでここにいる……。てかなんで僕の家を知ってるんだ?」
「ここにいるのは一緒に学校に行きたいからです。家を知ってるのは極秘です」
……これ、訴えてもいいんじゃね?めんどいからしないけど。
「ふ~ん。ま、いいや。僕はコンビニに行くけど」
「え?なんでですか?」
「朝飯買いに」
話してたら時間喰いそうだから歩き出す。愛奈もついてくる。
どっちでもいいから何も言わないけど。
「秋渡さんは朝御飯は食べないんですか?」
「基本起きるのが遅いからな」
正直に話す。これでこいつが幻滅して他の男に走ってくれたら万々歳なんだが……。
「そうなんですか。朝御飯を抜くのは良くないですよ?」
……どうやらその気は更々ないらしい。僕もあまり期待はしてなかったがな。
そしてコンビニに着いた。そこでパンを何個か買った。ついでに昼飯用のパンも……。
「あ、お昼は私が持ってきたので一緒に食べましょう!」
……買ったらなんかヤバそうだな。昼食代も浮くからま、いっか。
「なら言葉に甘えるか」
「やったー!秋渡さんと食べれるんだ~!」
喜ぶ愛奈。そんなに嬉しいんかね。いや、それよりも……。
「愛奈」
「はい?」
「店の中だから静かにな」
言うと急に黙り、そして顔が真っ赤になった。
「す、すみません……」
素直に謝ってきた。うむ、素直でよろしい!
ーー
学校に着いた。のはいいんだが、なんか知らねー男がいた。
そいつはこっちに気付くと、
「やぁ愛奈。いつ見ても君は美しいね。この僕にピッタリな相手だよ」
と、愛奈に言ってきた。正直言うとキモい。顔?勿論キモい。横で愛奈の顔が嫌そうな顔をしてた。
が、すぐにその男は僕を見て、
「それで、君は誰だい?僕の愛奈に近付かないでくれるかい?」
と、愛奈を完全に自分のものと言ってきた。しかも右手で髪をファサ、と上げるようにしながら。……………キモッ。
「おい、聞いてるのかい?それとも痛い目をみないとわからないかい?」
うぜぇ。こいつ、ボコボコにしていいかな。
「秋渡さん、行きましょう?」
僕の腕を引っ張って歩き出す愛奈。そんなにこいつが嫌か。気持ちはわかるけど。
「愛奈、そんなバカ面した男に触れちゃダメじゃないか。せっかくの君の美貌が廃れるよ?」
ブチッ!
何かが切れたような音がした。同時にこいつ殺したいと思った。
「知りません。それに私の婚約者にそんなこと言わないでください」
愛奈よ、僕がいつ婚約者になったよ。
それよりもこの男ーー高須だ。名前は今思い出した。愛奈の言葉に固まり、やがて、
「そうか。愛奈がおかしくなったのはこの男のせいなんだね?愛奈の婚約者なんてあり得ないからね」
と、殺気を僕に向けてきた。全然怖くねーけど。
「ならここでその男を殺して愛奈の目を覚ませるしかないね」
言って何か取り出した。それは短めの剣が二つ。……にしてもあの剣、なんか妙だな。どことなく変な色をしてる。普通なら銀色をしてるのにあれは赤だ。いや、それよりもオレンジ色か。触れたら熱そうだな。さて、どーすっかな。
「待っててね、愛奈!」
斬りかかってきた。感想はちょっと速い。うん、そんだけ。
「愛奈、少し離れてろ」
「え?でも……」
「大丈夫だ。すぐ終わる」
言って愛奈を離す。高須は、
「あは、素直に愛奈を解放すればそれでよかったのにさ!でももう遅いよ!」
イライラするな、こいつ。よし、ボコボコにしよう。
まずこいつの剣を避ける。余裕だ。
「さっさと斬られてくれないかな?めんどくさいのは嫌いなんだ」
「ふーん」
聞き流す僕にイラついたのか、高須は連続で剣を振るってきた。愛奈は心配そうに僕を見てる。
「えぇい!面倒だ!死ね!」
いきなり軌道を代えてきた。まぁ全部避けてますがね。だってこいつの攻撃読みやすいし。もう面倒だし終わらせよ。
「じゃーなー」
言って高須というナルシストの顔面に蹴りを食らわせる。バキッ、といい音がした。しかしこいつは自分の顔を触り、血を見て、
「……僕の顔を傷付けたなぁぁ!」
とキレた。愛奈は思わず目を瞑る。多分こいつをキレさせたから僕が斬られるとでも思ったから無意識にだろう。が、
「黙れ」
いつもよりも冷淡に言って頭に踵落としをお見舞いした。モロ命中した。弱っ!
「貴様……許さんぞ……」
なんか呟いてるが、僕はこいつに、
「知るか」
と言ってその場を去る。そして愛奈の所へ。愛奈は半信半疑で僕を見るがすぐに、
「さすがは秋渡さんですね!」
と笑顔で言ってきた。抱きつきながら。今回は面倒だから放置しといた。んで、そのまま教室へ向かった。
ーーー
「あの男!絶対許さん!だが僕だけじゃ部が悪い。彼の力を借りよう」
言って携帯を取り出し、彼に協力を求めた。五神将のうちの一人、黒坂虎雄に。
ーーー
教室に着いた。愛奈はずっと腕を絡めてきてた。さすがに教室に着く前にひっぺ剥がしたけどな。
その後の授業は特にいつもと変わりなく進んで終わった。
昼休み。
約束通り愛奈と食べる。弁当箱が普通に二つあった。一つは愛奈のだろう。大きさは普通女子が食べるくらいの大きさだし。もう一つはあからさま男子が使いそうなくらいの大きさだった。少しでかい。
「いただきまーす」
「いただきます」
弁当箱の蓋を開ける。そこには玉子焼きや唐揚げなど、定番のおかずがある。いや、それよりも飯の方だ。そこには『I LOVE SYUTO』と書かれていた。……ハズイ。
「どうですか?秋渡さん」
「見た目の感想を言うとおかずはいい。けどこの海苔で書いたこれはハズイ」
「それは大丈夫です!愛を込めましたから」
何が大丈夫なんだろう。まあいい、とりあえず食うか。まずは玉子焼き。ふむ、普通に美味い。
「美味い」
「それは良かったです♪」
感想を言うと愛奈は笑う。そんなに嬉しいか?
「秋渡さん、秋渡さん」
「なんだ?」
不意に呼ばれたから愛奈を見る。すると、
「はい、あ~ん」
とこちらに箸でおかず(タコさんウインナー)を向けてくる。どうしろと。
「食べてください。あ~ん」
……これはどうするべきなんだ?まあいいか。パクっと食べる。愛奈は、
「美味しいですか?」
と聞いてくる。そりゃ美味しい。こいつ、こんなに料理が上手なんだなと思ったくらいだ。
それよりも気になるのは愛奈だ。心なしか赤くなってる。しかも笑いながら。どうしたんだ?
「ああ、美味いぞ」
考えるのがバカらしくなってきた。
ちなみにさっきは気付かなかったが教室にいる全員がこっちを見てた。男子は「おぉ~」とか「初々しいねぇ」とか言ってた。女子はなぜか羨ましそうな顔をして見てた。理由は知らん。
「あぁ……、秋渡さんとの間接キスです~!」
……それが狙いだったのか、愛奈。通りでさっきから嬉しそうに箸を舐めてるわけだ。なんかキモいぞ、愛奈。
「あれ?」
ふと声を上げる愛奈。どうしたんだ?
「あれって生徒会長ですよね?」
言われて指を指された方ーー教室の入り口には冬美がいた。そしてこちらに気付くとちょいちょい手招きしてきた。
愛奈を見てアイコンタクト。
「(どうします?)」
「(どうするもこうするも、行くしかないだろ)」
「(それもそうですね)」
会話終了。というよりアイコンタクトの意味すらなかった。
とりあえず冬美の所に向かう。冬美は来てくれたからホッっとしてた。
「どうした、冬美。何か用か?」
「うん。高須という者が呼んだ五神将についての情報が手に入ったからそれを伝えに、ね」
なるほどな。なら最初に、
「場所を変えるか」
みんなこっちを注目してたのでそう提案すると二人も頷いたので、僕達は生徒会室に向かった。残りの生徒会のメンバーもいるだろうけどその二人はもう事情を知ってるだろう。そう考えれば一番妥当な場所だ。
生徒会室に着いたらやはり室川と工藤もいた。
「さて、二人にまずは報告するわ。まず五神将。名は黒坂虎雄と言うわ」
黒坂。たしか機械作りが得意なやつだったよな?記憶が正しければどっかの街で黒坂が作った機械人間を使って暴動みたいなのを起こしたやつでもあったはず。それだけだと本人が弱いと思われるけどそこはさすが五神将。銃の扱いに長けている。しかも彼のオリジナルだ。死亡者もかなり出たらしい。そんな危険なやつが相手か。
「彼の特徴は知っての通りよ。だから多分機械人間も使って来ると思う」
冬美の言う通り黒坂は必ず機械人間を使ってくるだろう。それの強さは恐らく五神将よりは弱いだろうが、冬美とかのような生徒会長並の強さだろうな。なんせあの黒坂が造ったんだからな。
「でも高須と黒坂はどんな関係なんだ?」
疑問はそこだ。普通に考えれば二人に接点はない。だからそれだけがわからない。
僕の質問に室川が、
「あの二人は親友なんだそうよ。だから高須にも協力をするんでしょうね」
室川はそう説明してくれた。そうか、親友とかなら協力は惜しまないわな。……面倒だ。
「でもどうするの?冬美。さすがに高須だけならともかく五神将の黒坂もいるのよ?」
工藤が言いたいことは五神将に対抗できるやつがこの学校にいないと思ってるからだろう。
「付け加えますと高須さんも五神将の候補者ですよ?」
愛奈も言う。けど僕からしたらあいつは雑魚だった。剣の動作も遅かったし。ついでに顔がキモかったし。あ、それは関係ないな。
「そうよね。どうしよう……」
冬美も悩み始める。が、実はさっきからチラチラ僕を見てくる。僕なら勝てると思ってるのだろう。なんせ冬美は僕が五神将だというのを知ってるうちの一人だしな。けどここは敢えて、
「どうすんだ?冬美」
と聞いてみる。冬美は若干ぷくっと頬を膨らませたがすぐに、
「とりあえず二人もそうだけど機械人間も問題よね」
そういやそうだな。関係ないけど頬を膨らませた冬美は少しかわいかった。まあそれはいいや。
機械人間、か。なんか嫌な予感がするんだよな。
「っと、もうちょいで昼休みが終わるから今は解散しようぜ」
時計を見たら昼休みが終わる三分前だった。
「そうね。また放課後にでも相談しましょう」
冬美の案に全員が頷き、解散した。
ーー
「君に勝つ程の男が、ねぇ」
一人のロングコートを羽織ってる男ーー黒坂が目の前の男にそう言う。
「そうなんだよ。だから君の力を借りたくてね。ダメかい?」
高須が聞くと黒坂は楽しそうに笑い、
「はは、親友である君の頼みを俺が断ると思う?」
「思ってないよ。だからこそ、君に頼んだのさ」
高須は薄く笑い、そう答える。
高須は最強の五神将のうちの一人、黒坂と組めばあの忌まわしい男をーー自分の愛奈を奪った男を消せると確信していた。黒坂も出し惜しみをする気はないみたいなので一般の男じゃ勝てないだろう。だから次は必ず自分の目の前で膝まずかせてやる!と高須は思っていた。
「(ああ、でもその前に黒坂に消されちゃうか。まぁあの男が消えるならどっちでもいいけどね)」
自然と笑ってしまう高須。
自分が描いた未来が全くの想定外に覆されるとも知らずに。
更新しました。
リアルが忙しくて遅くなってしまい、申し訳ありません。
次回はもう少し早く出せるよう努力します。