第八十四話 秋渡の実績
舞、明菜side
舞達は二人で出店を回って祭りを満喫していた。舞は祭りを茂実村で体験しているが、こちらの会場は茂実村の非じゃなかった。学生同士で遊んでる者もいれば恋人同士で来ている者もいる。その人達は屋台の人に冷やかされてどこか微笑ましくも感じる。
「暁に宣戦布告されたとは思えないほどの平和ね。いや、現実逃避……かしら」
明菜が周りの人を見ながらそういうことを言う。しかし舞も同じ気持ちだった。どこかビクビクしながら無理矢理楽しんでるようにも感じられる。これは基本的には秋渡のことを知らない上に暁は恐怖の対象だと認識してしまっているからである。
「(お兄様ならば負けることはないのにやはり直接戦う姿を見てない方は最期と割り切ってるようですね……)」
舞は兄が信用されていないことに悲しさを覚えるが五神将は女の敵ということは広く認知されてる分暁の言葉も信じられないのだろう。
「らっしゃい!嬢ちゃん達たこ焼食うかい?」
突然声をかけてきたのは屋台の人。舞と明菜はその人の笑顔を見てそれに偽りがないことがすぐにわかった。いや、男ならば暁の勝利を疑わないのだろう。それならば怖くなくてもおかしくはない。
「お、嬢ちゃん秋渡君にどこか似てるなぁ」
「え?」
秋渡の名前を出されて舞は驚き、明菜は警戒心を強める。警戒されたことに気が付いた男は慌てて手をあげて敵対の意思はないことを伝える。
「お、おいおい、そう警戒しないでくれよ。あいつと恋華ちゃんはよくうちの店の常連客なんだよ」
「常連客?」
明菜がとりあえず少し警戒心を薄めたら男は安心したようで再びニカリと笑う。
「そうそう!俺の家は基本的には洋菓子を売ってるんだけどそれだけだと売り行きはそこまで伸びないだろうって秋渡君に言われてなぁ。何がいいのか聞いてみたら甘いものじゃないものがいいって言われてな。でもさすがにそれだけじゃわからないから詳しく聞いてみたんだ」
「それでたこ焼を?」
「いやいや、さすがに洋菓子店でそれは無理だ。それでうちの洋菓子店に飲み物でコーヒーとか仕入れてみろって言われてな。元々持ち帰りだけじゃなかったからダメ元でそれを試してみたんだよ。そしたらなぁ」
「何かまずいことでもあったの?」
「いや、逆だ。大体赤字で困ってたのにコーヒー類を色々仕入れてみたらしばらくは満席状態が続いてな。おかげで今までなかったほどにケーキも売れてコーヒーも売れてな。そしたら秋渡君から紅茶も仕入れてみろって言われて言われるままにやったらこれも売れてな。学生の溜まり場みたいになって凄く人気になったんだよ。それがもう八年前の話なんだけどな」
男はどこか懐かしそうに語っていた。ちなみに店は今も繁盛中らしい。それを聞いて舞は「さすがはお兄様です!」と喜び、明菜は「……秋渡って昔からぶっ飛んでたのね」と呆れるというかどう思えばいいのかわからなかった。それぞれの反応に男は笑っててたこ焼をパックに詰める。
「俺も驚いたよ。それでもそろそろ店を潰さなきゃいけないって嘆いてた分あいつには感謝してるんだよ。それに、昔から恋華ちゃんも守ってるし負けたことも怪我を負ったところも見たことないからな。俺は秋渡君が負けることが想像できないんだよ」
「でもあなたからしたら暁が勝った方が喜ばしいんじゃないの?」
明菜はまだ代金も払ってないのにたこ焼を盛り付けてるところを見て他の客もいないのにどうしてだろうと思いながらも聞く。器用に盛り付けてる姿を舞も見てるが特に口は出さない。男は明菜の言葉にまた笑うと答える。
「そりゃ確かにな。大の大人が言うのもなんだがあいつに世話になってるから俺からしたら差別をしない秋渡君にこそ勝ってほしいんだよ。俺はまだあいつには命ではないがそれでも恩を返してないからな」
盛り付けたたこ焼にソースやマヨネーズ、鰹節や青のりを盛り付けてパックに輪ゴムをして「ほれ」と差し出した。それに舞と明菜はポカンとしていた。当然だ。まだ買うとも言ってないし代金も出してもいない。それなのになぜか男は笑ってたこ焼を差し出している。
「がはは!これはちょっとしたサービスだ!嬢ちゃんが秋渡君の妹ってならこれくらい問題ねぇよ!……ああ、代金はいいから冷めないうちに食べてくれや」
男は明菜に無理矢理渡すとまた笑って「じゃあ祭り楽しみなよ!」と言ってたこ焼を一から焼き始める。舞と明菜は温かいたこ焼を持ちながら固まってたがやがて渡されたたこ焼を見て、男を見てから二人で小さく呟く。
「「……ありがとう、おじさん」」
聞こえてるはずはないがそれでもお礼を言う二人には男が笑みを深めたように見えた。それから二人は離れたところに行ってたこ焼を食べる。先程店には「六個入り」と書かれていたがたこ焼の数は八個もあった。それを感謝しながら食べると油の乗った外側がとてもおいしく、中はもちっとしててとても柔らかかった。
「ああいう人もいたんですね」
「そうね。そう言えば近くの家の人も秋渡の悪口を言ったところを聞いたことないわ」
「昔からやはり五神将の資質は出していたってことですか?」
「いや、多分さっきのおじさんのようにお世話になってる人が多いのかもしれないわ。近くの人達は秋渡と距離を取ろうとはしてなかったし。前にちょっと聞いた話だけど……」
明菜ははふはふとたこ焼を少し冷ましてから口に入れ、それを少し熱そうにしながら食べる。そして呑み込むと息を吐いてから舞を見る。そして近所の人の会話内容を話す。
『世刻さん、やっぱり五神将だったそうよ?』
『まぁ!それならいつも水嶋さんの娘さんを守れてても不思議じゃないわね!』
『ええ、そうね!普通の天才には見えなかったし男であの頭脳や身体能力はあり得なかったけどそれなら納得よ』
『あの子がいればここは安全ねぇ』
舞は明菜が聞いたその会話を聞いて本気で驚いた。つまりは秋渡は五神将と思われても今までの力などが理解されただけで恐れられてはいない。そう、近所のおばさんらがそんな会話をするということはそういうことなのである。今まで恋華を守った功績がそうさせたのだろうがそれでも面倒に巻き込まれないようにしていた彼だが実はこの近所の人達は愛奈のことで狙われた秋渡を殺そうとした時に近所の人達が外に出れなかった原因の機械人間をさっさと蹴散らしたことで問題もなくなり、美沙を狙った時に秋渡が家へ美沙を匿ったのをその時外にいた人がそれを見て守ることをしっかりしていた秋渡に本人が知らないところで称賛されていたのだ。原因が秋渡本人にもあるが、その原因をさっさと消したことで帳消しされたも同然なのだ。責任を果たしたと思われ、守るべき人を守ったことによって逆に評価は上がっている。しかもその際の周りの被害を最小限……というか全くといっていいほどの被害が出ていない。攻撃は全て受け止め、一撃で相手を無力化させた。故に近所の人達にとっては秋渡が五神将じゃないことがいつも疑問だった。まぁいつも幼馴染みや女性を救っていたから余計に確信できなかったのだが……。
ともかくこれらの実績から秋渡を信じていないのは引っ越してきたばかりの者のみだったりする。
「さすがはお兄様ですね。本当に五神将には思えないほどお優しい……」
「そうね。もし暁春樹や青葉龍大とかと同じならまず恋華先輩はここまで幼馴染みを信じられないでしょうし星華先輩も秋渡に心を開かない。関澤生徒会長も櫻井ファミリーの襲撃した時彼を信じなくて犠牲者も出ていただろうし何よりも棗達也によって殺されていた可能性もある。愛奈先輩は黒坂虎雄に捕らえられていたに違いない。美沙さんだって秋渡がいなかったら死んでいたって話だし前よりも頑張れている。長谷川さんだって秋渡が今の秋渡じゃなきゃ婚約はおろか出会ってたかも怪しいわね。両親が知ってても秋渡が五神将の危険人物なら婚約者になんか絶対しないだろうし」
明菜の仮説に舞は頷く。そう、秋渡が初めからこうして他の五神将と敵対してるからこその出来事だ。今日集まったメンバーだって秋渡がいなければこうして一緒に祭りに来ることもなかっただろう。いや、それこそ女性陣はおろか男性陣もこうして一緒になることもなかった。明菜にしてみれば秋渡がいなければいつまでも救われず櫻井有栖によって殺人マシンとして扱われてこのような楽しみなんて一生味わうこともなかった。舞だって秋渡が兄でも見方は百八十度変わっていたであろう。尊敬し、敬愛し、信頼できる兄ではなくただただ恐怖と絶望を与える存在になっていた。それなのに五神将でもここまで繋がりを作ったその姿はまさしく至高の兄と舞は誇れるだろう。
「……私達がこうして仲良くいられるのもお兄様のお力なんですね」
「そうなるわ。ホント、どんだけ恩を売れば気が済むのよ、あの男は。返しきれないじゃない」
明菜はそう愚痴りながらも顔は笑っていた。明菜にしてみれば普通の人生を歩ませてくれたり今まではなかった家族というものを与えてくれ、他にも家庭の暖かみも与えてくれた本当の意味での大恩人なのだ。舞にしても同じだ。茂実村が襲われることが宣告されても秋渡がいなければ祖父や祖母と共にその短い人生に幕を下ろすことになりかねなかった。それがこうして笑顔で生活できる。
「(やはりお兄様は寛大です。たとえお兄様は否定してもこうして救われた方はたくさんいらっしゃいますからね)」
舞はたこ焼きを食べながら自然に笑みを溢す。明菜も同じで知らないうちに二人は本当の姉妹のように笑いながらたこ焼きを食べて祭りを満喫していた。
もしこの二人の話を秋渡が聞いたらきっと「僕はそこまで大したことはしていない」と答えるだろう。本人には大したことはなくても救われた者からすれば違う。だからだろう。明菜や舞だけでなく秋渡に味方する者は決して少なくはないという事実があるのは。
ア「どうも、アイギアスです!」
舞「舞です」
明「明菜です」
ア「投稿がかなり遅くなってしまい申し訳ありませんでした!」
明「本当よ。秋渡がいたら斬られてたわよ?」
ア「ひ、否定できないから恐ろしいです……」
舞「待ってくださってる方もいますからね」
明「今はいないけど覚悟はしておくことね。それはそうと秋渡って以外と信用されてるのね」
舞「そうですね。あの屋台の方も信じていましたし」
ア「恋華さんなら色々知ってそうですね。数少ない彼の昔のことをよく知る幼馴染みですから」
明「そういえば昔から秋渡を知ってるのって恋華先輩だけなのよね?」
舞「星華さんと関澤会長は高校に入学して知り合ったとおっしゃってましたし……」
ア「愛奈さんと美沙さんは転校してくるちょっと前に知り合ってますし……」
明「舞と私もその二人よりも遅いし……」
舞「幸紀さん……も確か話すようになったのも遅かったですよね?」
ア「昔に会ったことはあるみたいですが……」
明「でも恋華先輩みたいな関係ではないからやっぱり一番知ってるのは恋華先輩ね」
舞「ぐぬぬ……。ま、負けられないです!」
ア・明「(何と張り合ってるんだろう……)」
ア「と、そろそろ終えましょう」
明「そうね。今回の話は色々知れたしよかったわ」
舞「お姉様相手は分が悪いです……」
ア「それでは……」
ア・舞・明「また次話で!」
おまけ
舞「そう言えば幸紀さんは婚約者でしたよね!?」
明「らしいわね。秋渡相手なら喜ぶんじゃない?今の世の中で秋渡みたいな存在は貴重だし」
舞「お父様に交渉……」
明「止めておきなさい」