第八十一話 大所帯の夏祭り
愛奈に拉致られた海から数日後。今日は夏祭りがあるということで恋華達を誘って行くことにした。花火もあるとのことで凄く楽しみだ。着物を着て行くため着付けをしてから集合場所の深桜高校へと向かう。
「楽しみですね、お兄様♪」
「そうだな」
「祭り……かぁ。初めて行くなぁ」
舞も明菜浴衣を着ている。舞はピンクの桜柄の浴衣を、明菜はオレンジの秋桜柄の浴衣を着ている。僕は似合わないと思われそうだか黒の夜空をイメージされて背中に月柄の模様がある浴衣を着ている。舞は見た瞬間固まったがな。……そんなに似合わんかな。和服は好きだがどうも似合わないみたいだから仕方ないか。ともかく僕は今回刀を持たずに出掛けることとする。さすがに祭りに刀を持ってくのは脅しともとられてしまうから仕方ないことだ。明菜は浴衣の中にナイフを仕込んでるらしいがな。ともかくそれで舞を守ってくれるとのことなので今回武器がない僕にはありがたいので遠慮なく頼りにさせてもらおう。
「さてさて、色々とどうなるかね」
手を繋いで楽しそうに笑い合ってる家族を見ながら僕は腕を組みながら二人の後ろをゆっくりと歩く。
ーー
集合場所の深桜高校に着くとすでに見知った顔がほとんどいた。どうやら一番最後になってしまったようだ。恋華、星華、冬美、室川、工藤、愛奈、美沙、幸紀、橋本、相澤。弓月も誘おうと思ったが用事があるらしくて来れないとのこと。弓月は本当に悲しそうにしてたらしいが冬美は逆にざまぁみろと思ったらしい。室川が「悪人面……」と思わず呟いていたほど酷い顔だった。それはそれとして橋本と相澤は私服で来ていた。舞と明菜は恋華達と話し始めてから歩き出し、皆もそれに釣られるように歩く。僕は橋本と相澤の二人と最後尾を歩く。恋華、舞、明菜。美沙、愛奈、幸紀。冬美、室川、工藤。そして僕、橋本、相澤という順に並んで歩いている。大人数で歩いてるが邪魔にならないようにはしているからそこらは問題ないだろう。
「にしても祭りかー。もう何年も行ってなかったからな」
橋本が頭の後ろで手を組んで感慨深そうに笑う。
「そうなのか。今年の出店は何があるのか楽しみだな」
相澤は去年も行ってたらしい。何が好きか聞いてみるとたこ焼きとかが好きだという。
「たこ焼き?それってどこでも一緒な気がするが……」
「ある出店のおっちゃんが売ってるやつがめっちゃ美味しくてな!それが楽しみなんだよ」
「へぇ、そうなのか」
相澤と橋本の会話を聞いててたこ焼きを今度作るのもいいなと思う。いや、あえてタコパでもいいかもな。皆で楽しくってのは楽しそうだ。
「世刻は何かオススメとかあるか?」
橋本に話を振られ、現実に戻る。
「オススメ……ね。そうだな……変わった味付けがされてるポテトとかじゃがバターとかは好きだな」
少し考えてから出た答えがこれだ。袋に入ってるポテトに粉のコンソメとか醤油バターとかをかけて混ぜるのがお気に入りだ。まぁ僕のメインは花火にあるわけだが……。
「へぇ、美味しそうだな!」
「あったら食べよう」
相澤も見たことがないのか、それとも単に気になったのか相澤も橋本に賛同する。僕もあったら食べようと思いながら目の前に歩いてる女性陣を見る。誰もが楽しみと窺える姿に思わず暁からの宣戦布告を忘れそうになる。……いや忘れられないけどさ。他人事ならともかく今回は僕がその宣戦布告対象だからな。ま、今は忘れて祭りのことを考えよう。目の前の会話でも少し聞いてみるか。まぁ冬美達生徒会メンバーだが……。
「そ、それにしても秋渡君の浴衣姿って新鮮ね……」
「確かにね。洋風の服が似合うイメージがあったんだけど意外に和服もいけてるとは思うわよ」
「私服自体あまり見たことないからなんとも言えないけどね」
……冬美、室川から意外な評価を受けてるっぽい。工藤は判断に迷ってるようだがそりゃそうだろう。なんせこいつらが見たことがあるのは深桜高校の制服に体操着、それから上に羽織ってるロングコートくらいだ。学校指定のコートとかなくてよかったと素直に思った。
「でも世刻君なら黒じゃなくて白も似合いそうよ?」
「そうなると模様は何になるかな?」
「……龍、とか?」
「それ着る難易度めっちゃ高そうだけど……」
……龍柄の白い浴衣とかは着るのはさすがに臆しそうだな。それに風景がイメージされてる奴の方がいいな。夜桜模様の奴とか。あーでもピンクが混じってるとさすがに気恥ずかしいな。
「世刻、会場に着いたらどうするんだ?」
橋本に声をかけられ、僕は冬美達の会話から意識を外し、橋本に視線を向ける。まぁ質問の意図がわからないからとも思ったからでもあるが。
「どうするとは?」
「いや、これだけの大人数で会場を移動するのはさすがに迷惑だろ?だからどうすんのかなって」
「ああ、なるほど」
確かに十二人での移動は迷惑だわな。
「だけどどう分けるんだ?」
「少なくとも一部を除いて世刻に気がある奴ばっかだからな」
相澤が橋本に聞くと橋本は困ったような、それでいて少し楽しそうに僕を見る。……見られても困るんだがな。
「くじ……はないから無理だな」
「まぁこの中で敵視してる奴はいないから多分大丈夫だろうけどな」
橋本が悩んでる中僕がぽつりと言うと相澤と橋本が奇怪な生物を見る目で僕を見てくる。
「……なんだその目は」
「お前……いや、なんでもない」
何かを言いかけたが、橋本も相澤も二人して話してくれる様子はないから諦めよう。さてさて、どうしたもんかな。
前を歩いてる皆を見て僕はふと昔を思い出した。昔って言っても何年か前だけど。恋華と二人で祭りに行った時のことだ。まだ中学生だったからか恋華はよく高校生の男に集団で声をかけられていた。その時は僕もいたのだが、視界に入ってないようで必死に恋華を口説こうとしていた。まぁ恋華は必死に何度も断ってたがな。例え喧嘩が多少強くても所詮は中学生。鍛えられた男性が相手だと一人ならまだ大丈夫だがそれが集団となれば話は別。恋華を無理矢理連れていこうとして腕を掴んだ瞬間に僕はあの時そいつの腕を握り潰した。文字通り腕が使えなくなるほどにまでな。あの頃はまだ感情に流されやすかったんだなぁ……。ともかくそれを見てその高校生達は去ったがそれは仲間を呼ぶためだった。いなくなったあと少し恋華と出店を回ってた時に今度は二十人くらいだったかな?それくらいの人数がやって来た。当然祭り会場もさすがにざわついたが、男達は周りを脅して黙らせていたな。まぁそれからは当然僕に総掛かりで襲いかかってきたのだが……。
「……こんなもんか。まぁいい。恋華、店を回ろう」
「あ、うん♪」
全員フルボッコにして会場から離れた場所へ吹っ飛ばした。茂みに落ちたのがほとんどだったらしく、発見された時にあちこちに葉っぱが付いてたらしい。まぁ僕にとってはどうでもいいからそんなこと忘れて恋華と遊んでたけど。
「……思えば恋華はずっと一緒に祭りに行ってたよな」
思い出すと毎年僕は恋華と夏祭りに行っていた。時には恋華の両親も付いてきたりして家族みたいにはしゃいでた気がする。んで川原で毎年何かを食べながら花火を見て、終わったら残念そうにしながら帰っていた。
懐かしいな。去年は恋華とだけだったが今年はこんな大所帯になった。
「本当に何が起こるかわかったもんじゃないな。まぁいい。今日は楽しむとするか」
最後尾で誰と、ではなくとにかく楽しむことを優先した。今年は暁の宣戦布告があったにしてもやはりこういったことは楽しまなきゃ損だからな。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
幸「幸紀です」
ア「もうそろそろ暑い時期ですね~」
幸「夏はあまり好きではないです……」
秋「どうしてだ?」
幸「夏服になるとどうもYシャツが透けるのをいいことにジロジロ見てくる人が増えるんですよ」
秋「ああ……」
ア「確かにそれは女性ならではの悩みですね」
幸「秋渡さんは夏は好きなのですか?」
秋「基本的に嫌いな季節はあまりないが……そうだな、まぁ春夏秋冬の中では一番下か下から二番目だな」
ア「男性には女性みたいな悩みはありませんからね」
秋「まぁな。けど夏は花火が打ち上がるからそういう意味合いでは好きだぞ。近所には祭りをしてるところもあるから毎年恋華と行ってるし」
幸「祭り……ですか。私もクラスメートとなら何度か行きましたが……」
ア「ナンパされそうですね」
幸「そうなんですよ……今年は大丈夫だと思うんですけどね。……チラッ」
秋「……まぁそりゃ助けはするけどさ。あまり期待しないでくれよ?」
幸「ありがとうございます♪私、秋渡さんに守っていただけるだけでとても嬉しいです♪」
ア「あはは。まぁ秋渡君には束になっても勝てないと思いますから大丈夫でしょう」
秋「期待するなと言ったんだがな……」
ア「実力を知ってる分、期待するなというとは無理ではないですか?」
秋「いや、そうかもしれないが守る対象は大勢いるだろ?」
ア「……ああ」
幸「あ、秋渡さん秋渡さん、会場に着いたら一緒に何か食べませんか?」
秋「構わんがチョコバナナとかのチョコ系統は勘弁してくれよ?」
幸「はい♪」
ア「ではここまでにしましょう。それでは……」
ア・秋・幸「また次話で!」
OMAKE
幸「そういえば秋渡さん」
秋「なんだ?」
幸「どうしてチョコ系統が無理なのですか?」
秋「……バレンタインでトラウマレベルになった」
幸「そ、そうですか……」