第七十九話 気分転換で海へ!?
決意を新たに気合いを入れてからはや一週間。僕や仲間達は……。
「海だーーっ!!」
……なぜか海に来ていた。そして目の前で相澤が大声を上げている。
「……なぁ、橋本、なぜ僕達は海にいるんだ?」
横にいる荷物持ちをしてる橋本に聞くと橋本も苦笑いを返す。
「はは、なんか朝起きたら雨音財閥の人に連行されて今に至るな」
「……抵抗した記憶がない」
「……雨音さんが部下にお前には麻酔を打たせたらしいぞ?」
「絶対逃げると思ったからだな。つーかこれただの拉致じゃねーか」
うん、もし普通に起きてたら逃げてた。逃げれる自信もあったしな。つーか麻酔打たれる前に気が付けよ、僕。なお、その雨音財閥の一人娘の愛奈や他の女性陣は着替えてるためにここにはいない。舞は興味があったらしく、二つ返事で答えたらしい。明菜も渋ってたが舞が行くことにしたから行くことにしたらしい。と、橋本から聞いた。ここはプライベートビーチらしいので他に人はいない。やれやれ、ともかく来たからにはのんびりするとしよう。……ここがどこかわからんから逃げようにも逃げれないし。
「相澤ははしゃいでるな」
僕は少し呆れながら相澤を見ていた。すでに海パンでいつでも泳ぎに行けるほどだった。僕と橋本はパラソルとかを準備しておき、日陰も作っておく。……パラソルが大きい。ついでにそのパラソルもいくつかあったしそれで日陰を多目に作っておく。暑いし疲れるがまぁいいだろう。あーあ、どうせなら本があればこのまま日陰で本を読んで過ごすんだがな。
「にしてもやっぱ暑いな……」
橋本も同じことを思ってるらしく、クーラーボックスから飲み物を取り出し、一本僕に放り投げてくる。僕は片手でキャッチしてから「サンキュ」と礼を言う。シートに座り、渡された飲み物を飲むと橋本もシートでくつろぎ始める。相澤はもう泳ぎ始め、潜水もしてる。
「あいつ、泳ぐの上手いな」
見てても溺れてる様子もないし素潜りも普通にしてる。泳ぎ方もクロールだけでなく平泳ぎもバタフライもしてるし。
「ああ、あいつ昔水泳習ってたらしいんだ。残念ながらうちの学校には水泳部はないから少し落ち込んでたよ」
僕の呟きを拾った橋本が教えてくれた。なるほど、昔、か。……いいな、そういう風に習い事をしてたっていうの。僕のは習い事じゃなく生き抜くための剣を磨くことだった。まぁおかげで身の安全は確保できたしより恋華を守ることもできた。が、今度はそれが邪魔をして暁との戦いもある。他のみんなを巻き込んだ、な。
「はは、暁からの宣戦布告があったとは思えない光景だな」
はしゃいで泳いでる相澤を見て橋本は笑う。……怖くねーのかな?僕の顔にそう書かれてたのか橋本は僕の方を向く。
「……宣戦布告はビビったけど不思議とお前なら何とかしてくれるって思えるんだわ。怖くないって言えば嘘になるけどあまり心配もしてない。それはお前の周りにいる人全員思ってると思うぞ」
橋本は本当に心配してないのかくつくつ笑う。僕もそれにフッと笑い返すとスマホのメールの履歴を思い出す。たった一週間なのにメアド交換した凛桜の女子達からは山のようにメールが殺到した。……一時間で二百通も来るなんて想像もしてなかったけど。だがどれも似たようなもので僕の身の心配、自身の不安、それから応援が書かれてるものばかりだったのだ。僕はあまり期待されても困るんだがなと内心笑いながらも信じてくれることが嬉しくも感じている。
「おまたせしました!秋渡さん!」
突然声がかかり、そちらを見ると水着に着替えてる愛奈達がやって来ていた。愛奈は青いワンピースの水着、恋華と冬美、明菜に工藤は……えっとビキニ?ってやつだと思う。うん、多分。……水着のことは詳しくないんだ、許せ。色は恋華が赤、冬美が白、明菜はオレンジ、工藤は黒だ。星華は星華でビキニみたいなのだがフリルも着いてる。美沙もワンピースみたいなタイプで緑色のものを着ている。恥ずかしいのかモジモジしてるが……。室川は競泳水着みたいなものだが黄色いものだ。舞は水色のワンピースタイプのフリル付きのもの。まぁみんな似合うんじゃない?幸紀は残念ながらここにはいないので見ることができない。まぁさすがに俊明さんも許しはしな……いやしそうだ。早奈英さんもきっと面白がってノリノリだろう。頭が痛くなりそうだからこれ以上は考えないようにしておこう。
「どうですか?似合います?」
「お兄様、いかがですか?」
まず愛奈と舞が近くに寄ってきて聞いてくる。
「ああ、似合ってるぞ」
素っ気なく返したがそれは想定済みだったのか、それでも嬉しかったのか二人は喜ぶ。恋華は極力目を合わせないようにしてるし美沙に至っては工藤の後ろに隠れてる。それを橋本は幸福そうに見ているがガン見まではしないようにしていた。……まぁ美沙のファンだから無理はない。ガン見しようとしないだけまだいいと思う。にしてもこれだけ女性陣が多いと落ち着かないものだ。
「秋渡君、橋本君。準備ありがとう」
冬美がパラソルとかを準備した僕達を労ってくれる。なお、相澤は一旦戻ってきて休憩をすることにしたらしい。ともかく早速ということで海へ向かう愛奈達。それを手を振って見送ろうとしたが舞と恋華に引っ張られ、それはできなかった。仕方なく行こうとしたら橋本に「行ってらー」と言われ、道連れで連行した。相澤はさっきまで遠泳を少ししたらしく、疲れて一息入れたいとのことだから荷物番として残った。……先に泳いで疲れてたらみんな呆気なく引き下がったのかな?とか淡い期待をしたが無理かと思い直す。そもそもあれだけ身体能力が高いことがほぼバレてるようなものなのに泳ぐだけで疲れるってことは間違いなく疑われそうだ。ともかく浅いところで水を掛け合ったりして遊ぶ。……どこから持ってきたか知らないがなぜか明菜が水鉄砲を持って僕へ集中攻撃をしてきたが……。それに釣られるようにして何人も此方へ攻撃し、橋本も便乗してきた。……この数の暴力は何?なお、星華は無言でプカプカ浮き輪で浮いてるだけだ。愛奈は水を掛けながら接近して接触しようとして来るから慌てて離れ、それにブー垂れてしまったがそれを無視。捕まったら何があるかわかったもんじゃないしな。だが……。
「えへへ、秋渡君捕まえた♪」
逃げた先には美沙がいた。そして腕を捕まれ、逃げれなくなる。いや、振りほどくのは簡単だが……。きっちり密着されてそのそこそこある胸が腕に当たってるから……下手に動くとさらに、な。……誰か助けてくれ。
「ニヤニヤ」
工藤が口に出しながらニヤニヤしていた。いや、工藤だけじゃなく室川もだ。まぁ室川は顔を逸らして必死に笑いを堪えてるってのが正しい。それに文句を言おうとしたら背後から誰かが抱き付いてくる。
「お兄様♪」
……舞だった。髪も濡れてることから潜水して接近してたようだ。よく波の影響を受けなかったもんだなと思う。まぁ波は穏やかだしそこまで問題はないだろう。いや、それでもなぜ正確に僕のところへ来れた……。
「あ、ちょっと舞ちゃん!今は私が秋渡君にしがみついてるんだよ!」
美沙、その文句は多分何かが違うぞ。それよりこれをお前のファン(橋本以外)に見られてたら多分僕は殺され……はしないかもだが嫉妬の視線はグサグサ刺さりそうだ。
「ふふ、早い者勝ち、ではありませんよ?盗られたならばまた盗ればいいのです!」
舞、お前爺達のところで何を学んでたんだ?もういない爺達に問いただしたい。それよりも舞、兄はお前の胸が背中に当たってて凄く困ってる。
「あー!ズルいです!」
そこでかわされた愛奈が真正面からやって来る。当然腕を掴まれ、背後から抱き締められてる今は逃げられない。……こいつはヤバイ。幸紀もそこそこ膨らみがあるが愛奈はその幸紀よりも大きい。こいつのことだから間違いなく真正面から抱き付いて来るだろう。だ、誰か助け……。視線を巡らすと冬美は工藤、明菜と水を掛け合ったりしてこちらを見てない。室川は少し離れて橋本と傍観を決め込んでる。僕の視線と意味に気付いた二人だが首を振ってくる。アイコンタクトしてみた感じ、「そんな面白……じゃなくて怖そうなところに突っ込めるわけない」と言われた感じ。薄情なやつらめ!ならばと恋華を見ると星華と浮き輪で浮きながらお喋りをしてこっちを見てない。いや、見たけど笑っただけでまた会話に戻っていった。……あれ?これ、どうやったら助かるの?バッドエンド一択?しかももう愛奈には正面から抱き付かれ、バランスが危ういし。正面、背後、そして右隣から柔らかいものが押し当てられてる。勘弁してくれ……。結局解放されたのは冬美がこっちに気付いてから無理矢理引き剥がされるまで密着されてた。……三人相手は……しんどかった(主に理性が)。堪えきった自分をほめたい。
なお、解放されて安堵した瞬間やって来たのは明菜の水鉄砲から発射された水だった。それから思ったことが一つ。
「(もう、こいつらとには行きたくない……)」
と軽いトラウマっぽくなりそうで正直本気で思った。周りは知り合いしかいないから遠慮する必要がない分、恐ろしい。逆に人がいてくれた方が安心でき……いや、愛奈は変わらなさそうだ。ともかく精神的に疲れ、休むことにする。まぁ楽しいには楽しいからいいんだけどさ。ここに弓月がいなかったことが幸いかもしれないな。……冬美と口喧嘩してるとこが想像できた。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
舞「舞です」
ア「今回は海ですねぇ」
秋「時期的にはまだ早いがまぁ気にしないでおこう」
舞「水着姿になるのは恥ずかしいですがお兄様の肉体も見れると考えたら……」
秋「……あんまいいとは思えないんだがな」
ア「どうしてです?」
秋「刀を振るってた時の傷が結構あるからだ」
ア「治ってないんですか?」
秋「痛みとかはな。結構深かったりした時の傷は傷口がそのままで残ってる。簡単に言うと古傷みたいなもんだな」
舞「以前お風呂にご一緒した時に見ましたが結構な数でしたね」
秋「刀を振るい始めた頃の傷や色んな所で修行みたいなのをしてたからその時の傷もあるな」
ア「家って武家なんですか?」
秋「親父達からは違うって聞いてる。もし武家なら五神将には親父がなってたかもな」
舞「むー、私ももっと剣を使えるようにしないとただのお荷物になってしまいそうです……。お兄様、時間があればでよろしいのですが……」
秋「構わん。舞なら呑み込みも早そうだな」
ア「秋渡君の妹さんですからね」
舞「そ、そんなお褒めになっても……」
秋「照れながら言われてもな」
ア「あはは。秋渡君も大分丸くなりましたね」
秋「……確かにそうかもしれないな。中学時代は恋華さえ守れればいいとしか考えてなかったからな……」
ア「今の知り合いはほとんどが高校からなんですね」
秋「妹さえそうだしな。恋華以外は高校からだ。受験した時に会った奴はいるかもしれないが……」
ア「そういえば受験勉強とかはどうしてたんですか?」
秋「僕自身は特には。恋華に軽く勉強は教えた程度だ」
舞「今の世間からしたら普通逆になりそうですね」
秋「違いない」
ア「……ではここまでにしましょうか。それでは……」
ア・秋・舞「また次話で!」
おまけ
ーー
秋「そういや今思えば入学式にえらく視線が集まってた気がするな」
舞「学年主席だったんですか?」
秋「いや、代表挨拶が嫌だったからわざと点数落とすようにしてた。恋華に後から文句言われたけど」
舞「お兄様のことを知ってたらそれはそうですよ……」
秋「挨拶とか考えるのが面倒だったからな……」
舞「クスッ。では一体どなたが?」
秋「忘れた」
舞「そ、そうですか……」




