第七十八話 皆の言葉
折角の夏休みというのにも関わらず、たった一人の宣戦布告にどこもピリピリムードになってしまった。普通ならば馬鹿馬鹿しいの一言ですむがそれは今回は相手が違う。五神将の最高峰の男からの宣戦布告だ。誰もが驚き、恐怖するだろう。
「あ、秋渡君!」
俊明さんは僕を見付けるなりすぐに駆け付けて来る。その顔は安心したような、どこか怯えてるような顔だった。暁に会う前のからかうような笑みは一切浮かべていない。
「さっきテレビで緊急の放送で暁春樹が宣戦布告してきたんだけど……」
「事実だ。僕の目の前でやりやがった」
僕の声に怒りが含まれていたが俊明さんは「そうか……」と言うだけだった。
「すまん、今日は一旦帰ることにする。さすがに妹達が心配だ」
「着替えはどうする?その格好は……」
「さすがに困るな。何か借りてもいいか?スーツで構わない」
「こっちだ、来てくれ」
すぐに案内され、部屋にあるスーツでサイズが合うやつが見付かるとすぐにそれに着替える。ともかくそれから部屋から出て刀を持ち、家を出た。
「幸紀によろしく伝えてくれ」
「気を付けてくれ」
「ああ」
すぐに家へと向かう。外へ出てる人は少ないが、コンビニなどの店も閉まっていた。そりゃ店なんてやっている余裕はないか。ともかくすぐに家へ向かって走る。時折屋根などへ飛んで近道をする。そして家へ着き、ドアを開けると……。
「お兄様!」
「秋渡!」
舞と明菜が慌てた様子でやって来た。僕は靴を脱いでからすぐにリビングへ行く。二人も付いてきて僕はリビングに入るなりテレビを付ける。そこには臨時ニュースということでどの番組でも放送がやっていた。当然、さっきの暁の宣戦布告の内容。やっぱりさっきのボイスレコーダーみたいなのはマイクだったってことか。それも音声のみのものとして。
「(面倒なことを)」
まさかあんな形で宣戦布告をされるとは思わなかった。さっき目の前で聞いた話を延々と放送している。
「暁春樹、一体何を……」
明菜が憎々しげに呟くのが聞こえる。詳しい過去はそこまで聞いてないが多少なりとも縁があるらしい。僕はそれを聞きながらも色々考える。間違いなくボスは暁、そして相手からすれば僕。恐ろしいほどのプレッシャーを感じてしまう。そもそも味方がいるのかもわからない。対する暁はもうすでに組織として色々揃えているだろう。他でもない、この日を待ち望むようにして……。
「なんでこんな……。いや、それよりもどうすれば……」
僕はソファーに座ってから頭を抱え、悩み始める。一人でも強いことは自覚している。だが相手が五神将全員とその配下全てだとしたら?たった一人でそんな大人数、生身で全員と戦うことができる人間はまずいない。どんな人間にも限界はある。黒坂の造る機械人間はただでさえ棗をモチーフにしている。そんな奴等を相手に……。
「お兄様……」
「秋渡……」
二人の心配そうな声が聞こえるが答えることができない。……守るべきものが増えすぎた。今、それが……五神将という立場が邪魔をした。平和だったのがたった少し前に消えた。そしてまた平和を戻すには……暁に勝つしかない。だが……。
「(戦力……これが圧倒的に欠けている)」
暁とは違い、昔からそこまで人と関わることをせず、五神将という立場を隠してきた僕にはそんなものはない。銃刀法違反とかがなかったのはそのためだったのか?これじゃ勝ち目なんてない。暁との一騎討ちならばできるが、あいつからははっきり『戦争』と言われている。ならばそればできないだろう。だとしたら四人の大将、そしてその配下との全面戦争だ。……しかもたった一人で。
「(……これは誰かを頼るわけにはいかない。今まであった凛桜との戦い、深桜が棗達に襲われたことが緩く感じる)」
女性達の命を背負うことになったのが凄く驚きだが負ければ恨まれるだろう。もう嫌になって海外にでも逃げたくなる。だがそうすれば問答無用で女性達、いや僕と親しい者は特に優先的に殺されるだろう。恋華、星華、冬美、愛奈、美沙、舞、幸紀、明菜、橋本、相澤。近い者だけでもこんなにいることが驚きだ。
「どうすりゃ……」
「協力するよ」
「……え?」
思わず呟いたら明菜から声がかかり、明菜へ視線をやる。明菜は薄く笑いながらも頷く。
「私達だって命かかってるんだからそりゃやれるだけやるわよ。五神将の相手は無理だけどその下だったら相手はできるわ」
「明菜……」
「あなたがそんな思い詰める顔をするとは珍しいわね。相手が相手だからっていうけど逆にあなたを味方するものも絶対いるわよ」
明菜は不適に笑うとタイミングよくか悪くか内ポケットに入れてあったスマホが振動する。それに驚いたが今は誰かに連絡をもらっても少し気まずく感じてしまう。だがメールを見ないわけにもいかないか。メールの送信者は僕が守ると決めた者からだった。
一人目、恋華。
『どんなことがあっても私は秋渡の味方だよ!だから遠慮なく頼って。できることならなんでも手伝うから!』
……嬉しいことを言ってくれるな、恋華。気が落ち着いてくるってもんだ。できた幼馴染みだよ、本当。思わず頬を緩める。味方として助けてくれるのは嬉しいがそれでも危険には晒したくないのは確かだ。そのためにも、頑張らないとな。
二人目、星華。
『……秋渡なら負けない。私も手伝うよ』
全面的に信頼してくれてるのか、星華は。思わず驚くがそれでも信頼されたからには答えてやらんとな。手伝うということは一緒に戦う、ということだろうか?そうだとしたら……いや、素直に甘えよう。到底一人でなんとかできる相手達じゃないしな。
三人目、冬美。
『助けられた恩、しっかり返すわ。だから勝ってね』
恩……。恐らく櫻井ファミリーのことだろうな。冬美は校内では強い方に分類されるから五神将じゃなければそれなりに戦えるだろう。明菜とも戦って勝ってるんだし。それに、やはり味方になる気ではいるみたいだな。
四人目、愛奈。
『愛しい人を助けるのは当然のこと。雨音財閥が全力で助けます!だから、私達を助けてください』
愛しい人ってことは置いといてまさかの雨音財閥からのバックアップ。ありがたいが……どうやって久英さんとその奥さんを説得したんだろう……。奥さんは絶対気難しい人だろうに……。別の意味でなんか恐ろしく感じてきた。ただそれでも雨音財閥の力を持ってしても暁は簡単には潰せないか。まぁ権力は暁の方が上だから仕方ないか。それでもできることをしようとしてくれていることが嬉しかった。
五人目、美沙。
『避けられる戦いじゃないことは今国中の人が理解しています。私にできることはないけれど……。それでも、私は普段から私を守ってくれた秋渡君を応援します。そして勝って無事に私達と一緒にいてくれることを願っています。だから、どうか気を付けて……。終わったらまた皆さんで一緒にどこかお出かけでもしましょう』
少し長い文。けどそこには確かに心配、不安もあり、無事を願うエールもある。……アイドルは普通応援される側なのにそのアイドルに応援されるってのは驚きだな。思わず苦笑してしまうがそれでも気を引き締めることはできる。それに……やっぱり勝利を疑わずにいてくれている。そこは素直に嬉しい。
六人目、幸紀。
『今日突然帰られてしまったことは残念です。ですが今は仕方ないですね。夏休みは楽しむことがあまりできなくなってしまいましたが終わった後にまたデートをしましょう。秋渡さんが負けるなんてことは思ってもいませんから。それでもお気を付けて。私にできることがあれば遠慮なくおっしゃってくださいね』
突然抜け出す形になったがそれを咎めず、学生からしたら嬉しい夏休みが失ったにも関わらず微笑んでくれている幸紀の姿が思い浮かんだ。それに他のみんなと同じく勝つことを疑わない。期待されすぎても困るがやはり信じてくれることは嬉しい。……どうせだから今度は僕からデートにでも誘ってやるか。
七人目、橋本。
『よう。大変なことになったな。色々聞きたいことはあるけど今回のこの件もお前ならあっさりなんとかできることを俺は信じてるぞ。学校が五神将に襲われた時も色々してくれてたのも知っている。力になれることは少ないと思うけど何かあれば言ってくれ。俺にできることならば手伝うぜ。だから今度また一緒に飯でも食いに行こうな!』
……全く。暁から僕が五神将だと知られされたにも関わらず僕を友と見てくれてるのか。本当に馬鹿だな。だが変わらずにいてかれるのはありがたいぜ。……何かあれば頼りにさせてもらうぞ。
八人目、相澤。
『あー、なんか凄いことになったな?まさかこんな夏休みの初っぱなからとんでもないことになるとは思わなかったよ。まぁ世刻ならなんとかするだろうけど気を付けてな。終わったら飯でも奢るよ』
相澤……。確かに折角の夏休みが潰されたも同然だもんな。戦争行為はさすがに禁止みたいなことを総理大臣が言ってたが暁にそれはどうでもいいこと。それにしても本当にどいつもこいつも勝つことを疑わないんだな。なんか複雑だがま、ボチボチ期待に答えるとしましょうかね。
「大分いい顔になったわね」
明菜の声にスマホから目を離す。明菜は笑っていて舞も安堵した表情になっている。この二人にも心配かけたな。僕は握り拳を作って不敵に笑う。
「……ああ、やるべきことが決まった。暁をぶっ飛ばす」
「賛成よ」
「はい!」
ぶっ飛ばす宣言したら明菜が賛同し、舞が頷いた。僕は心が少し落ち着いて戦力差よりもさっさと大将を倒すことを考えることにした。なお、凛桜の子からもたくさんメールが来てたが、どれも応援メッセージと心配してくれていることが書かれたメッセージがほとんどだった。……まさか百通も来るとは思わなかったがな。
「(さて、暁、青葉、黒坂、棗。どいつも強いがなんとかするしかねぇな。棗辺りでも仲間になってくれればかなり変わるがさすがに暁には逆らえんか)」
本格的に戦いのことを考え始めたら舞は素早く飲み物を淹れてくれ、明菜は相談に乗ってくれたりした。色々あった夜だが、九月が本番だ。それまでの一ヶ月、なんとしても誰も失わずに勝つ方法を見付けて暁の奴をぶっ飛ばしてやる。もう、迷うこともない。実力を隠す必要もない。ただ勝つ。それだけだ。
ア「どうも、アイギアスです!」
舞「舞です!」
明「明菜です」
ア「あの秋渡君もさすがに今回は苦悩してるみたいですね」
舞「はい。ですが皆さんのお言葉によって色々と決意はしたようです。なので私はお兄様にできることをすることに決めました」
明「私もしっかり恩返しをしなくちゃね。それはそうと五神将以外の敵ってどんな人がいるのかしら?」
ア「一応それなりに戦闘ができる人……じゃないですか?」
舞「お兄様からは五神将候補の人もじゃないかと言われてますが……」
明「あー、あの人達、そんなに強くないらしいから平気だと思うわよ。比べてる相手が秋渡の時点でアウトだと思うけど」
舞「そういえば五神将の方って二つ名みたいなのってあるのですか?」
明「私も気になるわ。ないとそれはそれで妙な感じがするし」
ア「考えはしたんですけどね。何人かはピンと来ないというかなんというか……」
舞「お兄様には何がいいですかね?」
明「暁は『最強・最凶』とかが思い付くわね……」
ア「青葉龍大さんは『狂死神』とか『狂戦士』、ですかね?」
明「大鎌も持ってるし似合いそうね」
舞「棗達也には『柔剣士』や『静練剣士』とかが合いそうです」
明「黒坂虎雄は……そうね、『科弾』とか『波銃』とか、かな?」
ア「それで、秋渡君は……」
舞「うーん、やっぱり『剣豪』とか『剣聖』とかが似合うと思います!」
明「確かにね。あれはまさしく本当の『剣豪』だと思うわ。……あんなのに勝てる気がしないもの」
ア「ふむ、ではこれだと最終的にこのメンバーの中ではどうなりますかね?」
舞「えっと、棗達也が『柔剣士』、黒坂虎雄が『波銃』、青葉龍大が『狂死神』、暁春樹が『最強・最凶』、それからお兄様が『剣豪』、ですね」
明「なんだか青葉龍大だけはかなり恐ろしいわね……。『狂死神』って本当に暴れて人を刈るみたいなものじゃない……」
舞「お兄様は刀を振るう姿がとても美しくてかっこいいと思います……」
ア「……えっと、それではそろそろ終わりましょうかね?」
明「そうね」
舞「わかりました!」
ア「それでは……」
ア・舞・明「また次話で!」
オマケ
秋「なぜだろう、なぜか何処かで変な二つ名を付けられた気がする……」
恋「秋渡?どうしたの?」
秋「……いや、なんでもない」
恋「そう?あ、あっちにも行ってみよ!」
秋「……(下手なことは考えないようにしよう)」