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第七十六話 堪能?長谷川家

夕食に招かれ、幸紀と二人で歩いて食事部屋まで一緒にいたら俊明さんと早奈英さんの笑顔に出迎えられた。ただし、笑顔は笑顔でもかなりニヤニヤしながらだったが……。僕は無表情に平静を保っていたが、幸紀はそうはいかなかったらしく手をパタパタさせて慌てていた。それを見て俊明さんと早奈英さんは色々冷やかし、使用人の人達は微笑ましそうに笑う。とりあえず席に案内され、勧められた席に座るとその隣に幸紀も座る。色々と食事が運ばれ、使用人達が手際よく並べ終える。


「では秋渡君。遠慮せずに食べてくれ」


「ではお言葉に甘えて。いただきます」


「幸紀も食べなさい」


「……はい。いただきます」


まだ顔が赤い幸紀も何とか怒りを抑えて食べ始める。僕はそれを横目で少し見てから行儀よく食べる。ふむ、このポトフ美味いな。レシピとか教えてもらえたりするかな。幸紀は箸でちまちま野菜を摘まんで食べたり、猫舌なのかポトフをフーフー少し冷ましながら食べている。俊明さんと早奈英さんも行儀よく食べている。この家ではやはり食事中の私語は禁止なのかもしれないな。だがそこで早奈英さんが少し期待を込めた目で幸紀を見ていたが、幸紀は全力で見なかったことにしている。

何を期待してるかはわからんが……。


「(にしてもあの乗り込んできた女共は何者だったんだ?)」


誰かの刺客。五神将の誰かか?だが棗も黒坂も青葉の三人が長谷川家を狙う理由もないだろう。いや、青葉は幸紀を少し狙う可能性がある。……いや、この場合は僕を狙う可能性が高い、か……。


「(……考えても仕方ない。正体がわかってからでいいか)」


とりあえず今は目の前の食事を堪能させてもらおう。俊明さんに聞くのもその後でも問題ない。僕は飯を咀嚼しながらそう考えた。


ーー


食後、俊明さんから泊まっていったどうだと言われ、食後に出された紅茶を思わず吹き出しそうになった。軽くむせるだけで済んだが、すぐに冗談だろうと思い、俊明さんを見てから断ろうとした。が、俊明さんの顔付きは本気で早奈英さんも反対する素振りがない。……唯一幸紀が必死に何か言ってたが、本心は別なのかチラチラ僕を見ていた。


「ほら、幸紀も満更じゃないみたいだしさ、どうかな?」


「……いや、着替えとかないし」


「すぐに買いに行けばいいじゃない♪」


「部屋も……」


「空き部屋もあるし幸紀の部屋でも構わないぞ?」


「お父さん!?」


「…………男を娘の部屋に泊めるのはどうかと思うんだが」


「君だから許容できるんだよ」


ああ、これは意地でも泊まれってことかな?逃げ場は……あ、風呂!


「風呂に入れてもらうわけにはいかない。さすがに金持ちの風呂をいただくわけには……」


「ん?立場的に君の方が上なんだから気にせずともいいだろう」


「……」


五神将であることをこんなにも恨んだことはない。俊明さんもさぞ何もないかのように言うしさ。だが五神将というのが二の舞だと悟ったのは次の言葉だった。


「そもそも親友の息子ならば金持ちだとかそうじゃないとか関係ないよ」


「っ!」


俊明さんは優しい笑顔でそう言ってきた。僕はそれに驚き、そして諦めた。


「わかった。世話になろう。……妹に連絡しておく」


すぐにスマホを取り出してメールで今日は帰らないと伝える。返信を見るのも怖いが帰ることが恐ろしく感じる。明菜はともかく舞だ。はぁ……。ちなみに泊まることを認めた瞬間、誰よりも幸紀が喜んでいた。反対だったんじゃなかったのか、お前。まぁもう気にしたら負けだな、この家族は。


「それじゃ秋渡さんの着替えを買いに行きましょう♪」


「……お前、反対だったんじゃなかったのか?さっきの反論は……」


思わず呟いたら幸紀は少し頬を膨らませながらもしっかり自分の腕を僕の腕に組んでくる。どことなく嬉しそうな顔をしてるのはなんだろうな。


「……私だってそりゃ好きな人と過ごせるなら長い方がいいですもん。迷惑だと思って反対してましたけどその必要がないなら存分に甘えます。一緒のベッドで寝ましょう」


「………………ん?」


最後になんか不吉なことを言ってたような……。いや、気にしない方がいいか。ああ、チラチラ見てたのはその一端か。……すまん、やっぱり気にしないのは無理だ。


「……一緒のベッドで寝るのはさすがにないと思うぞ?」


僕の精一杯?の反論。しかし幸紀は薄く笑うとそれから一気にいい笑顔(僕には悪魔の笑顔)になる。


「それはつまりベッド以外ならばご一緒してもよろしいってことですよね?」


「…………買い物の帰りに銭湯でも行こうかな」


幸紀の積極性に思わずそんなことをぼやいてしまう。が、ここにはまだ俊明さん達がいることを忘れていた。俊明さんと早奈英さんが少し怒ったような顔をしてるが、何かを言ってくるつもりはない。やはり五神将という立場によるものがあるおかげなのかな?ただ……。


「何もそんな絶望しなくてもいいんじゃないか?」


幸紀がこの世の終わりのような顔をして涙目になってしまっていた。僕はやれやれとポンッと幸紀の頭を叩く。幸紀は上目遣いで見上げてくるので叩くのから撫でるのに変わった。幸紀はくすぐったそうに、それでもどこか嬉しそうに笑っていた。


「ふむ、やはり秋渡君はさすがだな。あの男に対して何かしら嫌な反応を示す幸紀のとろけるような顔をこんなに見れるなんて……」


「ふふ、式場は豪華なところを用意しないといけないわね!」


「五神将が相手ならばそれは当然だろう?」


「あ、そうね。でも選ぶならば舞渡達にも相談しないと」


「そうだな」


頼むからそういう会話は本人がいない所でしてくれないかな……。丸聞こえなんだよ。幸紀が少し嬉しそうにはにかむ。やれやれ……。僕は呆れながらも特に口出しはせずに幸紀とまた街へと向かう。まぁ今回は着替えだけだからそこまで時間はかからんだろう。夕飯も食った後だし食後の運動と考えてブラブラするとしますかね。


「~♪」


横で幸紀が上機嫌に笑って腕を組んでいる。この光景を知り合いに見られたらまずいとは思っているが特に何も言うまい。愛奈辺りはうるさくなりそうだがそこまで影響もないだろう。……いや、久英さんが出てきたら話は別か。けどもしあの人が僕の正体が五神将だと知ったらどうするんだろうか?もしそれで愛奈に危険と判断して遠ざけてくれれば僕にはすごくありがたい話なんだが……。けど雨音財閥の久英さんよりもその妻の方が怖いな。立場はそっちのが上だし。名前はなんだったかな?あまり表に出る人じゃないから知らないんだよな。……と、雨音財閥のことを少し考えていたら店に着いた。遅くまでやっているとは本当にお疲れさんだわ。


「いらっしゃいませ~」


店員さんが営業スマイルで出迎える。僕はそれをスルーしてさっさと奥へ進み、着替えを適当に選ぼうとする。が、そんなことを許さないのが同行者だ。


「秋渡さん、なぜそんな地味なものを選ぼうとしてるのですか?」


「地味なもので充分だからだ。逆になぜ不服そうなんだ?」


「どうせならば良さそうなものを選ぼうかと……」


「いや、いい」


「ぶ~」


むくれてしまった。が、それでもめげずに色々口を挟んでくる以上反論するのもめんどくさい。だがあまり高いものにするのも些か気が引ける。それを伝えたら……。


「では今日助けていただいたお礼に奢りますね♪」


となぜか嬉しそうに言ってきた。俊明さんと早奈英さんもこれはグルだということはわかった。道理で出る前に幸紀に何か渡してたわけだ。抜け目がないと言うべきかそれとも他のことを考えればいいのかわからんが、高いものを見付けた瞬間舞が真っ先に文句を言ってくるだろう。想像するだけで嫌になる。

とにもかくにも結局少し良さげなものを選んでことを終えた。帰りも幸紀は引っ付いてて離れない。途中で酔っ払いのおっさんに話し掛けられて幸紀が僕の背後に隠れ、おっさんの酒臭いのにイラッとした僕もおっさんを物理的に黙らせてからさっさと幸紀の家へ戻る。なお、おっさんは警察に保護されたらしいが、そんなことはどうでもいい余談だ。


「ただいま戻りました」


幸紀の家に入ると出迎えをしてくれた使用人が頭を下げる。……やっぱ金持ちは違うな。ともかくすぐに風呂には入れるとのことなのでお言葉に甘えて入ることにした。洗面所の時点で広さとかが違って色々困ったが気にしないでおく。風呂に入る前に体を洗う。


「……なぜこうなってんだろうな」


お邪魔することはよかったんだがなぜ風呂まで入って挙げ句の果てには泊まることになったんだろうか。


「気にしなければいいのではないですか?あ、背中洗いますね」


まぁ確かに気にしなければ……ん?僕は目の前の鏡を見て背後を確認する。そこには体にタオルを巻いただけの幸紀がスポンジを持って僕の背中を洗っていた。


「…………待て、幸紀。なぜお前がここにいる?」


さすがに動揺して僕は思わず冷や汗を掻く。何よりもなぜ気配を感じなかった。いや、リラックスしすぎたってことか?いやいや、それでも引き戸の音とかには気が付けるはず。


「普通に入ってきました。お母さんが「ちゃんと旦那様の背中は流さないと」っておっしゃってましたので」


早奈英さん!?あんた娘に何を!?てか止めろよ俊明さん!……あ、面白がって催促してるとこしか想像できなかった。


「んしょ、んしょ。気持ちいいですか、秋渡さん?」


「………………」


「秋渡さん?」


「幸紀、その、な。タオル、が取れるぞ?」


「……っ!?……いえ、恥ずかしいですが秋渡さんならば見られても構いません……」


誰か助けて。恥じらってはくれたがなんなのこの子?いや、かわいいし嬉しいけどさ。それでもこれは勘弁してくれ。この生殺しは堪えきれる自信があまりない。よし、ここは別のことを考えて……。


「秋渡さん」


「……なんだ?」


「見たいですか?」


「ぐふっ!?」


思わず吹いてしまった。ダメだ、耐えきれそうにない。いい加減自分の中の強固を誇っていたはずの理性がぶっ飛びそうだ。いや、待て、まだ耐えろ、自分。


「……見たくないと言えば嘘になる。が、今は遠慮したい」


「……遠慮しなくてもいいのに」


ボソッと呟かれた言葉にまたも僕は頭を抱えていた。幸紀の表情を鏡越しに見るとどこか不満そうに頬を膨らませていた。それでも背中を洗う手を止めない辺りはさすがだろう。けどタオルの位置がさっきよりも下に行ってるのは気のせいだと思いたい。つまりその……な?見えかけてるんだよ。どことは言わん!けどそれなりにある谷間も見えてるし我慢できてる僕を誉めたい。


「流しますね」


幸紀がそう言って泡を流してくれる。やれやれ、これでようやく……。


「あ、秋渡さん。背中、流してもらってもいいですか?」


「……え?」


「お願いします」


「……わかった」


もう半ば自棄になりながらもポジションチェンジして幸紀の背中を洗い始める。綺麗な肌を見て思わず理性が崩壊しかけるが辛うじて耐える。丁寧に洗っているつもりだが力加減がわからん。


「痛くないか?」


「はい。大丈夫です」


幸紀の嬉しそうな声を聞いてどこかホッとする。ともかくさっさと終わらせて風呂から上がったらここでの記憶を抹消するようにしよう。これ以上何もなければ忘れるのは容易い……はずだ。


「ふわ……気持ちいいです」


幸紀の普段よりも高い声に思わず反応してしまった。が、邪念を払うようにして背中を洗い、さっさとお湯で流す。


「終わったぞ」


「ありがとうございます」


……落ち着けるはずの風呂の時間が普段よりも長く感じる。湯に浸かると広いにも関わらず幸紀もごく自然に隣へやって来た。幸いなのは湯の煙などで裸体があまり見えないことだな。見えていたらさすがに色々まずかった。幸紀は気にしなさそうだが……。ダメだ、変なこと考えないようにしよう。……そもそも今までの僕ならこの程度で反応することすらなかったんだけどな。本当、変わったな、僕も。


「湯加減はどうですか?」


「悪くない。が…………いや、なんでもない」


「?そうですか。……誰かとお風呂なんて久しぶりです」


どこか懐かしそうに天井を見る。昔は誰かと入ってんだろうな。かくいう僕は前に舞と入ったんだけどさ。好きで入ったわけじゃないぞ。


「(……明日は何も騒ぎが起きないといいんだけどな)」


そう願いながら若干不安が拭えず、そのまま少しのぼせるまで入ってた。



ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

幸「幸紀です」

明「明菜です」

ア「皆さん花見とかは行きましたか?」

秋「作中では出てないが行ってきたぞ」

幸「んー、今年は行っていないですね……」

明「花見か……。無縁だったからか行ったことすらないわ」

ア「それぞれ違うんですね。てっきり秋渡くんは行くのが面倒とか言うと思いましたよ」

秋「そう見られてもおかしくはないが……。なんだか釈然としないな」

明「舞と行ってきたの?」

秋「いや、まだ舞はいなかったからな。桜が咲いてた時期は舞はおろか愛奈や美沙もいなかった」

幸「それでは一人で花見を?」

秋「ああ。花見もだが月見とか景色を眺めたりすることは好きなんだ。色々苦労も多いが雪景色とかも見るのは好きだぞ」

ア「そうだったんですね」

秋「他にも花火とかも好きだな。夏はよく恋華と一緒に夏祭りに行って花火を見たりしてるよ」

幸「い、いいなぁ……」

明「雨音先輩が聞いてたら殺到しそうなことね」

秋「そうなりゃ全力で逃げるさ」

ア「追い払うんじゃないんですね……」

秋「何度追い払ってもやって来るからだ……」

幸「す、凄い執念です……」

明「めげないことは称賛するけど行き過ぎるとさすがに引くわ……」

ア「しかも経験済みですか……」

秋「……ああ。普段から、な」

明「それだけ撃退されても続けることは素直に称賛するわ」

秋「く、思い出したら頭痛が……」

幸「だ、大丈夫ですか!?」

ア「なら今回はここで締めましょう」

明「うん、それがいいと思うわ」

ア「それでは……」

ア・秋・幸・明「また次話で!」


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